百合の間に挟まる武神

 

『本当に辞退という形でよいのだな』

「二度も同じことを言わせるな」


 クレヴェリンデ様カッコいー!


『ならばこの聖域から去るがよい。敗者はこの聖域に居座ることを許さぬ』

「いいえ! クレヴェリンデ様には最後まで見届けてもらいます!」

「真凛!?」


 真凛様!?

 突然なにを……!


「わたしたち、この戦争に優勝したら『大陸支配権争奪戦争』なんてもう二度としないように他の種族の偉い人にかけ合ってもらうつもりだったんです! ガイさんやクレヴェリンデ様がすごく怒ってくれて、わたし、それができると確信しました! あなたの『戦争』は、もうこの世界に必要ない!」

『っ!』

「妖精族の人たちもきっとわかってくれます! わざわざ世界の支配種族を決めなくても、手を取り合って生きていける! わたしは異世界の人間だけど……この世界の人たちは、あなたの決めたルールがなくても歩いていける人たちばかりです! 自分の国のことを、国民のことを考えていた! 人を思いやれる人は、それだけで優しいもの!」


 ま——真凛様〜〜〜〜〜!

 真凛様マジヒロイン〜〜〜〜〜!

 ……けれど、あの言葉は重いな。

 真凛様の家の事情を知ってるから余計にそう思う。

 人を思いやれる人。

 それは真凛様にも当てはまるんですが、きっとあなたは自分をそこに入れていないんだろうな。


「武神のルールがなくても——……えぇ、えぇ! その通りだわ! わたくしたちはお互いを尊敬できるわ。真凛、お前は可愛いだけでなくわたくしの秘めたる愛らしさやかっこよさにも気づいてくれた。そうね、その通りだわ。自分のためなら身勝手に自分のルールを変更する武神の取り決めなど、ないも同じよ!」

「クレヴェリンデ様……!」

「他の種族もきっとそこまで愚かではないでしょう。エルフは少々心配だけれど、昨日負けた敗者がとやかく言う権利ないものね! わたくしたちは真凛、お前を信じます」

「あ……ありがとうございます、クレヴェリンデ様! 大好き!」

「きゅーん! わたくしも大好きよ真凛〜!」


 ……クレヴェリンデ、真凛様に陥落。

 これは思いも寄らなかったぜ……。

 思えば初日から好感度高めだったけれども。

 真凛様、俺の知らないところで攻略対象じゃないキャラを落とすとはな。

 敵国攻略対象……男キャラよりマシか?

 あれ、真凛様の場合マーシャやメグも攻略対象になるんだっけ?

 友情ルートはあると聞いてたけど……クレヴェリンデは対象外では?

 帰ったらクレヴェリンデルートがあるのか、ヘンリエッタ嬢に確認しよう……?


『……では、本日はこれで終わりだ!』

「ふん! ではね、真凛。わたくしたち人魚族は明日まで見届けるわ。お前たちの勝利は確固たるものでしょうけれど、妖精族の魔法はお前たちが思っているよりも厄介なはずよ。気を抜くんじゃありませんわよ」

「はい! ありがとうございます、クレヴェリンデ様! ……あ! そうだ、この戦いが終わったら、わたしのお友達と一緒にみんなでお茶しませんか?」

「えっ、ま、まあ……お、面白そうじゃない。お前たちがどうしてもというのなら、いいわよ」

「やった! 約束ですよ、クレヴェリンデ様!」


 平和な世界かな?

 真凛様マジ天使。

 ここが戦争真っ只中の戦場というのを忘れる百合百合しさ。

 武神ゴルゴダ、お前は許されざる罪を犯した。

 今さっき百合百合しい空気に包まれていた真凛様とクレヴェリンデの間に声だけとはいえ入り込んだのだ。

 これは万死に値する罪だ。

 俺の前世の世界では百合に挟まる男は消滅する。

 それはもはや概念ということわりにて定まっている、世界の真実。

 この世界でもそれが適応されるかはさておき、あんな平和な世界に貴様というゴミ虫が入り込んだ事実は、許されざるものである。

 だいたい最近殺気立った野郎どもばかり見てきたせいで、真凛様とクレヴェリンデがキャッキャウフフとはしゃぐ姿は涙が出るほど尊く映るのだ。

 いや、冗談抜きで泣けてきたぞ。

 尊い。

 なんて尊いんだ。

 無意識に両手を合わせているほどに。

 俺は自分が思っていたよりも、野郎だらけの戦場に心をやられていたらしい。

 まだしばらく眺めていたいのだが、ゴルゴダの野郎が真凛様とクレヴェリンデを転移させた。

 俺たちも気づけば宿に戻っている。


「あ! 皆さん! えっと、クレヴェリンデ様が味方になってくれました!」

「うん、見ていたよ。素晴らしい戦果だ、巫女」

「ああ、まさか人魚族の女王と仲良くなって戦争を辞退させるとはな。巫女殿は俺たちの想像を容易く超えてくる」

「俺もなにかしらの動きは予想していましたが、これは予想の斜め上でしたよ、巫女殿。ある意味一番懸念していた人魚族を、まさか懐柔してしまうなんて……本当によかったですね、レオハール様、ヴィニー」

「うん!」

「本当にな!」


 ケリーの言葉の裏。

 人魚族が、人間の王子にやたらと固執する理由。

 それを指してのことなので、俺とレオはガッツリ頷く。

 いや、本当、なんかこう命と心が救われた感じ。

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