やると思った

 

 かんぱーい!

 と、コップを持ち上げる皆様を眺めながら、俺だけ腕の筋肉痛でそっ、と差し出す程度。

 エルフ戦をレオが三人抜きして勝利したことで二連勝。

 明日の妖精族戦を勝てば王手となる。

 はしゃげる時にはしゃいでおこう。

 ケリーとエディンの見立てでは、そろそろゴルゴダが新たなルール変更を持ちかけてくるだろう、とのことだ。

 奴——いや、奴ら武神族的には絶対俺たち人間族を勝たせたくないのだから。

 下手をすると、前回の戦争のように名指しで始末してこようとするだろう。

 もう初日のルール変更から、俺たちはなにが来てもいいような“戦略”にプランを変更した。

 負ける気はゼロなので。

 なので、まあ、不安なのは明日の妖精戦に真凛様が名指しで先鋒になること。

 真凛様も十分に戦えるよう、備えてはいる。

 毎日鍛錬を頑張っていたのを見ているし、スティーブン様やアルトやラスティと戦略を練っていたり、ヘンリエッタ嬢に魔法に関して相談していたりと……本当に頑張っているのを知っているから……戦えるのは、わかってるんだが……。

 それはそれ、これはこれ。

 好きな女の子が命懸けの戦場に行くのを止められないもどかしさ、おわかりいたたけるだろうか?


「鈴緒丸……筋肉痛を今夜中に治す術とかないもんかね?」

『病気や怪我ではないからなぁ。自己治癒力向上の魔法ならば治りは早まるだろうが、主人は使えたのか?』

「それなに属性の魔法だ?」

『土属性だな』


 あとでケリーに頼もう。

 っていうか、ケリーも治癒魔法使えることになんのか。

 けど、俺の水属性回復魔法もしょぼいからなぁ。

 あんまり期待できないかも。


「お食事中、申し訳ございません。皆様」

「やあ、モモル。もしかしてゴルゴダ様からルール変更の言伝かな?」


 頭を下げて、そう声をかけてきたのはモモル。

 相変わらず無表情で腹の中はまるで見えない。

 それに対してレオが多分、悪意なく聞き返す。

 モモルはなんて答えるのか。

 身を傾けてモモルの方を見ると、まあ、微妙な硬直。

 表情は相変わらず無表情なのだが、実に言いづらそうな空気になってしまった。

 つまりそれってってことじゃん。

 ゴルゴダ、俺らに行動読まれるくらいわかりやすい差別すんの?

 あれだけ俺らにバラされてんのに?

 メンタル鋼かよ、さすが武神。


「……ゴルゴダ様より明日の先鋒を、マリン・ソラカラ様にするようご指示が来ております。応じなかった場合は、人間族の敗北とする、とのことでございます」

「まあ、想定内だね。曲がりなりにも主催神である武神が、そんな卑劣なことを本当に言ってくるとは思わなかったけれど」


 と、困った笑顔でザクッと容赦のないレオ。

 それにエディンもステーキを切りながら頷く。


「鈴緒丸ではないがまさしく『神の風上にも置けない』というやつだな。風下にも置けないが」


 俺もそう思うわ。

 エディンとこういう時ほんと気が合うのムカつく。


「自分で言ってて情けなくないんですかね? なりふり構っていられないって感じでしょうか? 多分明日巫女殿が三連勝で妖精族を下したら、今度は『魔法を使うの禁止』って言ってきますよ」

「いやいや、ケリー、それはさすがに…………ないよね?」

「わたくしめはなんとも」


 優しいレオはケリーの意見を一応否定して、モモルに確認する。

 聞かれたモモルには、それに対して100点の答え。

 まあ、だよな。

 ただ俺たちのこの「ゴルゴダお前俺らに全部行動読まれてるのマジ神として無能じゃね?」って部分は強めに伝わってほしい。


「真凛様……」

「わたしは大丈夫です! わたしだって、たくさん訓練したので!」

『マリンはエメが絶対守るから大丈夫なのだわ!』

「は、はい。そこまで心配しているわけではないのですが……ただ、その、やはり……」

「ヴィンセントさん……わたし、本当に大丈夫です。そりゃ、ちょっとは怖いですけど……怖がって生半可な戦い方をしたらクレイさんやエディン様のおじいさまに叱られますし!」


 ああ、クレイな。

 あいつの訓練ホントキツかった……。

 エディンの祖父さん……思い出すのをやめよう。

 ほれ見たことか、名前を出しただけでエディンの動きが止まって目線が遠くなった。

 エディンは俺らと違って幼少期からあのじいさんにしごかれてきたから、トラウマのレベルが俺らの比ではないのだ。


『女ならば始末できると思っとるところがなんともアレというか。アレじゃのう』

『ホントなのだわ! エメとマリンをナメすぎなのだわ! けっちょんけっちょんにしてやるのだわ!』

『血の気の多い女神になったものだのう。これもクレースの影響か?』


 クレースが『ティターニアのかけら』を持って戦争に挑んだ五百年前は、まだエメリエラという女神は生まれていなかったんだっけ。

 そういえば鈴緒丸はその頃からこの世界にいて、前回の戦争にも詳しい。

 プリシラと話したことのある俺としては、鈴緒丸の言葉に説得力しか感じないんだよなぁ。

 見た目だけじゃない、既視感はそのせいか。


「けれど——いささか傲りがすぎるとは思わないのかな。主催の武神がこうも公平性を欠いていると思うと、戦争の必要性は本格的に疑わしいね。人間や獣人は確かに短命だが、エルフや妖精族、人魚族は長寿の種族だ。実際エルフの中には五百年前の戦争に関して知っている者もいたみたいだし」

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