VSマーケイル

 

「二人目が出てきた」

「!」


 しかし、まあわかっていたことだが、その二人目もレオはあっさりと撃破。

 特筆すべきことがまるでない戦いっぷり。

 まるで勝つことが当たり前と言わんばかり。

 まあ、勝つことが当たり前の戦いなんだが……。

 おかげさまで『ウインドイーター・ジ・サン』はまた巨大化している。

 もう五人全員と戦っても勝てる勢い。

 ルール上、あと一人と勝てばいいのだが。


「……出てきたな」


 やはり。

 三人目はマーケイル・カリス。

 エルフの国『星霊国』の王子。

 めちゃくちゃ顔はお怒り。


「我が名はマーケイル・カリス! 『星霊国』の王子である!」

「僕はレオハール・クレース・ウェンディール。『ウェンディール王国』の王子です。初めまして、マーケイル」


 柔らかく、丁寧な対応。

 同じ王子でもこの差。

 マーケイルはレオの態度を見て分かりやすく動揺した。

 敵相手に、こんなに柔らかな対応をとられると思わなかったんだろう。

 お前の国どうなってんだよ、と思わないでもないがレオや真凛様の対応はゆるさがすぎるよな……わかる……。


「くっ、よくも我が国の精鋭たちを! 無傷で返すと思うなよ!」

『台詞がすでに負け惜しみみたいだのう……』


 鈴緒丸、いくら向こう側に声が聞こえないからって言ってやるなよ。


「しかし実際どうするつもりなんだろうな?」

「ですね」


 と、冷静なのはエディンとケリー。

 容赦のなさだとコイツらの方がえげつないので俺はすでに明日明後日の相手、妖精族と人魚族が可哀想になっている。

 特に人魚族の皆様は、どうか気をしっかり持って生き抜いてほしい。


「我らが使うのが風魔法ばかりと思うなよ! グランドランス!」

「!」


 土魔法!

 確かにかろうじてエルフが使っても違和感ない! かもしれない!


『なるほど、魔力量は少なくとも、適性が多いのか。しかしエルフにしては珍しい』


 と、戦闘のプロの鈴緒丸の解説。

 魔力量が少ない代わりに、他の属性も使えるってことだったのか。

 けど、鈴緒丸の眼差しは冷たい。


『アレは生きにくいかろうな』

「そうなのか?」

『エルフは面倒くささなら五種族トップ。下手をすれば、その無駄すぎる自尊心の高さは天神族と遜色あるまい。その分、自分たちと少しでも異なったり標準以下と断じられると爪弾きにされる。もはやそれは迫害に近い』

「風魔法以外が使えるってのは——」

『特異ではあるが、エルフであるのなら土魔法はギリギリ許容範囲内じゃろ。問題は魔力量。主人の友人の剣士がいたな。あの色々デカイの』


 ライナス様かな?

 デカイのってお前。

 いや、ライナス様はデカイけれども。

 ある意味レオとは別種の器のデカさもお持ちだけれども。

 主に好み的な器が。うん。

 ……武器の話か?

 ライナス様の剣も亜人族お手製の大剣でかなりデカイよな。


『あのデカイのと同じぐらいの魔力量しかない』

「え、エルフなのに!?」

『ああ、すぐ尽きるぞ』


 あまりにも驚いて戦場に視線を戻す。

 土魔法はレオの一太刀でかき消されたが、火球がわずかに小さくなる。

 あのまま土魔法で押していけば、ワンチャンなきにしもあらず。

 ……なきにしも……ないか?

 すでに魔法を使わなくなっているぞ。

 弓矢で応戦して勝てる相手じゃないしな、レオは。


『可哀想な人なのだわ……』


 エメリエラが心底、という声色で呟く。

 エルフとは思えない少ない魔力量と、エルフにしては珍しい土属性魔法。

 なるほど、あれは生きづらかろう。

 その上生まれたのが『星霊国』の王子様。

 王子ということは多分次の国王ということだ。

 それなのに、少ない魔力量と珍しい土魔法適性。

 自分と違うモノを嫌うエルフたち。

 昨夜俺たちに問うた「王の器とはなにか」。

 あぁ、可哀想だな。


「…………」


 レオ含め、みんなには昨日の話をしている。

 だからだろうか、レオは一思いにマーケイルを倒したりしなかった。


「マーケイル、君は今なにを思い浮かべている?」

「なに!?」

「僕は僕の国の民と、僕を想って祈ってくれている人たちの顔を思い浮かべているよ。君は、君の頭の中には誰が浮かんでる?」

「——っ」


 優しい声色。

 背中越しでもわかる。

 レオはきっと今、いつもの優しい笑みを浮かべてマーケイルに聞いてるんだろう。

 誰を思い浮かべでいるのかと。


「だからごめん。僕は負けるわけにはいかない。僕の後ろには僕が守るべき民がいる。一生守るべき人がいる。『星霊国』の王子マーケイル・カリス、君は誰のために弓を引く?」

「…………!」


 剣先がマーケイルの首筋に突きつけられる。

 だが、武器や距離や魔法の実力など、それらすべて——今のマーケイルにとっては無意味なもの。

 マーケイルが今突きつけられているのはただの剣先ではない。

 王としての問答。

 レオに投げかけられたその質問に、マーケイルは即答しなかった。

 いや、できなかった。

 はく、はくと、口を開けたり閉じたりしてから、一筋涙を流す。


「…………私の、負けだ……」


 膝をついて、崩れ落ちるマーケイルからレオは剣を引く。

 エルフ戦、レオの——俺たち人間族の勝利だ。

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