性格悪い
と、レオが野菜を口に入れながら回想を始める。
今日の戦いの最中、俺たちに聞こえない程度の声で僅かに二戦目のエルフとレオは会話をしていた。
そのエルフが気になっていたのは俺——というか鈴緒丸の言葉だったらしい。
鈴緒丸が前回の戦争に関して口にしたことで、そのエルフは色々と思い出したのだ。
主に——雷蓮が唯一生かして返したたった一人のエルフのこと。
そのエルフは顔に大きな傷を残したが現在エルフ族の長になっている。
名誉の負傷ということで、皆から尊敬を集めているんだそうだ。
エルフの長——つまりマーケイルの父。
その王の話を、二戦目のエルフは度々聞いていたらしい。
だから「あれは本当にスズルギライレンなのか」と、怯えた表情で確認してきた。
五百年経ってもなお、長寿の種族にとって『スズルギライレン』は恐怖の象徴。
五百年の戦争を経験した者にとっては、特に。
「なあ、鈴緒丸。妖精族の中に五百年前の生存者っていたりするか?」
『今回の参加者の中にか? いた気はするのう。だが、目の前にすでに一人、五百年前の参加者がおるよ』
そう言って鈴緒丸が指差したのはモモル。
クレースも言っていたっけな。
五百年の戦争で雷蓮が殺した妖精族の戦士。
ただ、その瞬間モモルの表情と態度が初めてこれまでと異なった。
汗を噴き出し、ガタガタと怯え始めたのだ。
『雷蓮は怖かっただろう? まあ、あれはお主ら悪くないしな。悪いのは決着がついたあとも、執拗に雷蓮とクレースを殺そうとしたゴルゴダよ。あいつホント武神でなく邪神だよのう。そんなクソ野郎に使役されねば存在できぬお主、本当に可哀想じゃなぁ。心底哀れだわ』
「…………」
『まあ、世話係として存在しているお主になにを言っても無駄じゃろうけど』
怯え方尋常じゃないんですけど?
モモル——を、殺したのが雷蓮。
確かにそんな奴の名前聞いたらビビってあんなことにもなるかもしれないが……。
え、なんかごめんな……?
『あの子可哀想なのだわ。死の淵で眠っていたはずなのに、無理やり叩き起こされて服従させられて……ゴルゴダはやっぱり許せないのだわ!』
『うむうむ』
「……死の淵で、眠っていたのに……」
エメリエラがぷんすこと怒る横で、真凛様が胸に手を当てて眉尻を下げる。
優しいこの方がモモルの境遇に同情しているのはなんとなくわかるのだが、再び眠らせてやるには俺たちがさっさとゴルゴダを倒すのが最短ルートだと思う。
「モモルさん、ゴルゴダからの連絡を伝えてくれてありがとうございました。わたし、頑張りますね!」
「……では、わたくしめはこれで。お食事中、失礼いたしました」
頭を下げて出て行くモモル。
真凛様の優しい声で、ほんの少し冷静になったように見えるが……。
「あいつ感情とか残ってんのか」
『どうだろうな。恐怖は残っているだろうが。……ゴルゴダに主人のこと——雷蓮のことを言われて言いなりになっている可能性もあるぞい』
「それは、やだなぁ」
鈴流木雷蓮は俺にとっても畏怖を感じる相手だ。
時々記憶に乗っ取られるという本末転倒なことになる。
記憶だけでこっちの体を乗っ取ってくるとか、普通にヤバい奴だろ。
五百年前に雷蓮に殺された者たち——俺と一緒に被害者の会でも作ってみないか?
って、そんくらい俺だって迷惑してたんだから、俺と鈴流木雷蓮を同一視するのはマジ勘弁。
「巫女殿、あなたは要だ。一応食後作戦の再確認をしましょう」
「はい、ケリー様!」
真凛様が明日の先鋒。
相手は妖精族。
ここに来てから毎夜他種族の領域に連れ去られていたが、今夜はケリーと俺が作戦確認で夜通し一緒にいたせいか、誘拐には遭わなかった。
ただ、問題は明日。
もちろん信じているけれど、か弱い女子高生の真凛様を一人で戦わせるのはやはり不安だ。
どんなに女神エメリエラが隣にいるからといっても、命のやり取りをする場に彼女だけを差し出すというのは——。
「ゴルゴダ絶対殺そう」
『ハハハ! 今回の主人も性格最悪だのう!』
失礼じゃね?
俺より絶対ゴルゴダと雷蓮の方が最悪だと思わん?
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