VSジオ
「あ」
途端に地面に転がっていたサイの獣人がシュン、と消える。
キョロキョロあたりを見回すと、真凛様たちのいる窓の真正面に、獣人たち陣営の窓が浮いているのを見つけた。
なんか慌ててるように見える。
『どうやら連中のところへ戻ったようだな』
「ふーん、負けるとあの空間の部屋? みたいなところに戻るのか」
『
「…………」
魂はゴルゴダに吸収される。
そして妖精族の場合はモモルのように従属妖精とされて、次代の戦争参加者の世話係にされる、ってわけか。
さて、絡繰りがだいたい掴めたところで、これは勝ち抜き戦。
俺が勝ったので、そろそろ次の相手——次鋒を出してもらわねばならないんだが。
じっと待つがなかなか来ない。
獣人陣営の窓を見上げると揉めてない?
けれど獅子の獣人が声を荒げたような口の開き方。
牙すげー。
ガイは……ここからでは見えないな。
奥の方にいるのだろうか。
来てない、なんてことはないだろうし。
「お」
獅子が動いた、と思ったら目の前に瞬間移動して現れた。
獅子の獣人——真凛様がガイに聞いたジオという王子ではなかろうか?
てっきり最後か、その手前に出てくると思ってたわ。
「俺はジオ・マスルール。獣人国の王子だ。貴様の名を名乗ることを許そう」
偉そう。
あ、いや、王子だから偉そうなのは当たり前なのか。
そうか。
そうだな、うちの国の王子がアレだからな。
つい忘れそうになるけど王子って偉いんだよな!
「こほん。俺はヴィンセント・セレナードだ」
「ヴィンセントよ、貴様が先程言った言葉は真か?」
「ん?」
どれのことだよ、と首を傾げる。
すると少し苛立ったように「武神ゴルゴダ様が死者の魂を栄養にするとかいう話だ」と叫ぶ。
キレるの早くない?
「我が国の女神たちが忠告で教えてくれたから、我々人間族はそれを真実だと思っている」
それに対しての返答としては、まあこれが妥当だろう。
獣人族は武神を崇める種族と習う。
今もそうなのかはわからないが、武神を、ってことは獣人にとってゴルゴダも信仰すべき神なのかもしれない。
それを侮辱されたと思ってキレてんのなら仕方ないが、こっちもこっちで信仰している神がいるしその他の事情でそれが真実だと知ってても話して信じてもらえるような内容ではないからな。
ジオは少し神妙な顔で悩むと、「人間族の信仰する女神が……」と呟く。
「……だが、聞いただけで真実かどうかはわからぬのだな。無論、女神が貴様らに嘘を言うとは思っておらん。女神もまた貴き天神族の片翼。嘘偽りなど述べるはずもない」
なるほど、俺の言った言葉を鵜呑みにするつもりはないが、女神族の証言であるのならば一考すべきって感じか。
脳筋しかいないのかと思ったが、王子ともなると少しは冷静にものを考えられるんだな、獣人族も。
「だから貴様で検証しよう。武神ゴルゴダ様が本当に死者の魂を喰らうのかどうか。我ら獣人族は死して武神の糧となれるのならば、それは喜ばしいこと! 貴様もそのつもりでかかってくるがいい!」
「え」
『開始!』
「え」
雄叫びとともに突進してくるジオ。
さり気なく『開始』の合図をしやがるゴルゴダの声。
ジオは凄まじい速度と勢いだが、雷蓮の雷魔法で身体強化するとなにもかもが遅い。
避けるのは容易だ。
というか、むしろこんな速度が人間に出せるのか、ってくらい体が自由に思った場所へ動く。
これ、今夜反動で寝込んだりしないから不安。
全身の筋肉を微弱な雷で動かす身体強化魔法って、情報として理解はしてるけども。
「避けただと!? 人間風情が!?」
さて、避けてるだけでは勝てない。
サイの獣人と違ってこいつは
武神ゴルゴダのために、死んでもいい、なんて。
んなこと許すかふざけんな。
なにがなんでも気絶させる!
『ではアレを使うといい。獣人族は体は頑丈だが魔法には弱い』
「!」
まるで俺の考えが読めるかのように鈴緒丸が囁く。
頭の中に流れ込む戦略に、「え、コイツちょっと使えるかもしれん」とか思う。
まず刀に雷属性を付与する武器強化魔法『紫電刀』を使う。
これで斬れなかった獣人の体も豆腐のように斬れるようになるのだが、マジで斬ると殺してしまうので斬らない。
なお、雷蓮はこれで前回の戦争スパスパ斬りまくってた。
これは前世の記憶というやつだ。
マジで恐ろしい奴である。
こんなのが俺の前世。
「おっと」
「くぬ!」
とはいえ相手も獣人の中では上位の強さを誇る。
気を抜くと追いつかれるのでまた距離を取って焦らす。
というより、やはりサイの獣人より速い。
だが鳥の獣人ほどではない。
使い所は見定めたいので、相手の冷静さを奪う意味でも逃げ回り避けまくる。
五回ほど攻撃を避けると、明らかにジオは苛立ちを増してきた。
青筋が浮かんで見えらぁ。
「ええい! ちょこまかと逃げ回りおってぇ!」
そろそろよさそうだ。
身体強化魔法と武器強化魔法で避けまくりながら、鞘に溜めていた魔力で一気に気絶させる。
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