初陣
転移陣に乗ると、俺一人だけが闘技場の上にいた。
真凛様たちは——と探すと、地上六メートルくらいのところに横長の窓ガラスが浮かんでいる。
口をパクパクさせて手を振る真凛様。
なるほど、他のメンバーはあそこから先鋒の戦いを見学できるというわけか。
周りを見回すが、他の種族は来ていない。
戦いを見られて情報共有されては堪らないが、この場にいなくても宿の方で映像が見られるとか、ではないよな?
まあ、どちらにしても俺一人で獣人族五人を倒せば問題ない。
「ところで鈴緒丸、お前はなんでずっと浮いてるんだ? まさか戦ってる間ずっとそこに浮いてる気じゃないよな? 気が散るんだけど」
『物理的な武、のみである鈴流木流は体が覚えておるだろうが、魔法を交えた鈴流
「!」
『雷蓮の固有技、紫電刀』
よく鳴るぞ、と笑われる。
頭の中に流れ込んでくるイメージ。
使い方、魔力の量。
あ、これマジ致死率高いやつだ。
「ガハハハハハハハ! 運がなさすぎるな人間!」
「!」
どーん、と音を立てて降りてきたのはサイの獣人。
まあ、いきなりガイには当たらんよな。
しかし……なにあれ恐竜?
皮膚硬そう。
「来て早々に俺たち獣人族の第一戦目! しかも勝ち抜き戦のルール変更とは! 哀れすぎて笑いが止まらん! さあ、開始の合図を! 貴様の腹に俺様の角を突き刺してやるぜ!」
獣人ってみんなこんな感じなのだろうか。
鳥の獣人と似たようなこと言ってる。
だが、紫電刀の試し斬りにはちょうど良さそうなものがついているな。
『第一回戦、獣人族対人間族』
空の雲が動く。
そうして聞こえてきた声。
耳障りなサイの獣人、お前は本当に運がいいよ。
ゴルゴダの栄養にさせないために、俺たちは誰一人殺すつもりはない。
最終的に戦うかもしれないゴルゴダを、強化するわけにはいかないからな。
『始め!』
不愉快なゴルゴダの声にて開始された戦い。
奴にとってこの戦争で犠牲となる戦士はみな、自分が創世神へ至るための栄養。
ゴルゴダのその陰謀について、他の武神や女神たちにはアミューリアが伝えてくれると思うが、果たして信じて動いてくれるだろうか?
ヘンリエッタ嬢の話だと微妙そうなんだよな。
やはり俺たちでゴルゴダを倒すしかないかもしれん。
「行くぜぇ!」
「鈴流
雷蓮が使っていた雷の身体強化魔法に加え、今し方鈴緒丸に教わった雷の“武器強化魔法”を発動させる。
なるほど、なにもかもが遅い。
「は?」
ジャンプしてサイの獣人の背後に回り込む。
斬ったのはご自慢の角。
サイの角ってまた生えてくんのかな?
わからないが、心を折って負けを認めてもらえるならありがたい。
「お、俺様の……俺様の角が……俺様の……ふぅ」
どさ、と倒れるサイ。
まさかの気絶。
空を見上げると怒りの気配。
そして、見えないなにかが呟いた。
『ライレン・スズルギ……』
女の声だ。
あの窓枠の中にいる真凛様の声ではないし、あの窓からの音はすべて遮断されているようだから真凛様ではない。
では誰だろう。
鈴流木雷蓮を知る者。
女神族か、当時を知る長寿種か。
少なくとも真凛様の声は遮断されてて、他の女神や他種族の声が聞こえるってことはまあ、つまり
チッ、こっちが仲間とコミニュケーションを取るのは邪魔するくせに、こっちの情報は他の種族に流してんのかよ。
まさかそれを『公平のため』とは言わねぇよな?
ゴルゴダマジでクソじゃん。
「…………」
で、しばらく待ってみたがなにも変わらない。
空を睨んでみるが反応もない。
こちらからアクションを起こさねば『勝ち』を認めることもしないのだろうか。
『やれやれ仕方のない』
「鈴緒丸……」
どうやら俺と同じことを考えたのか、鈴緒丸が刀から現れる。
聖域の中でなら鈴緒丸の姿は俺以外にも見えるというから、盗み見ている他種族やゴルゴダにも見えるし声も聞こえるのだろうか。
『宣言しておけ、主人殿。ゴルゴダは神の風上にもおけぬ神。他の種族にもそれを思い知らせておくべきだ。あんなモノ盲目的に信仰する必要はないのだから』
「…………。そうだな」
あくまで戦う者は俺。
だから俺が言え、ってことか。
では遠慮なく、と空へ刀を向ける。
「ゴルゴダ、俺は相手をお前に食わす気はないぞ。この対戦場の上で死んだ者の魂が、お前に吸収されて糧となる話は女神アミューリアに聞いている。気絶させているのだから、戦闘不能と見做し俺の勝ちにしてもらう。俺たち人間族に『四日連続の勝ち抜き戦』を不公平にも言い渡したのだから、そのくらいの融通は利かせてもらってもいいよなぁ?」
空気がわずかに揺れた。
それはゴルゴダの強烈な怒りと、動揺。
女神族か他の武神族か、はたまた他種族の動揺なのかまではわからないが。
『…………よかろう』
そこそこ長い時間悩んだようではあったが確約いただきました。
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