VSジオ 決着

 

『ここだ!』

「鈴流祇流抜刀術 雷波!」

「! なんだ、これは」


 鈴緒丸の合図で溜めてた魔力を魔法剣技として解き放つ。

 宙を超広範囲に電撃の波が駆け抜ける技。

 どんなに素早く、どんなに屈強な獣人であっても捕らえ、一度捕らえた獲物に広がった雷を凝縮させる二段構え。


「ぎゃあああぁぁぁぁっ!」


 結論から言うと…………めっちゃエグ……。

 一瞬通り過ぎたピリッとした静電気みたいなやつに、ジオの気が緩んだ途端だった。

 波のようにうっすら穏やかに消えたと思った雷が、下から上に向かって駆け上って行く。

 その絵面のおっかなさよ。

 ちょっと一メートルぐらいの雷が下から上に昇ってくところに巻き込まれるとか、普通に敵に同情するんですが。

 ジオの奴、黒焦げでぶっ倒れたわ。


『中もしっかり感電させておいたぞ!』

「…………」


 凶悪すぎる。

 親指立てて笑ってるぜこの付喪神。

 ビクンビクン痙攣するジオ。

 これ本当に大丈夫か?

 い、生きてる? 本当に? 死後変化とかではないよな?

 ええ、こわ……。

 イメージと知識だけじゃやっぱあぶねーな雷系の魔法!


『さあ、次勝てば今日の勝ち抜き戦は終わりだな』

「! あ、ああそうか……勝ち抜き戦だもんな」


 勝ち抜き戦は五戦して三勝すれば勝ちなのか。

 四日連続で他種族と戦い、三回勝てばその種族には勝ったことになる。

 他の種族の戦闘結果がどうあれ、他の種族に三回勝ち続ければ優勝。

 今日は次の一回勝てば終わり。

 逆に言うと獣人族はもうあとがなくなったというわけだ。

 ならば、次の中堅——他のものは出てこないだろう。

 向こうは俺を倒して三連勝しなければ、最初の勝ち星すら得られないのだ。

 シュン、とジオの焼け爛れた体が消え、代わりに黒豹の獣人が地面に降り立つ。

 ものすごい筋肉と、威圧感。

 端正な、獣特有の美しい顔。

 同じ手は通じないだろうが、それなら別な手で倒す。


「よお、ヴィンセントっつったか? ジオを一撃とはやりやがんな。魔法——か。マジで人間が使えるとはな。五百年前にも雷の魔法を使う珍しい剣士がいたっつー伝承があったけど、さすがにお前のことじゃあねぇよな?」

「当たり前だろう。……それは俺の前世だな」

「前世……。人間が女神に頼んで手に入れたっつー『記憶継承』か。それもマジだったんだな」

「…………」


 他の獣人より明らかに口数が多い。

 こちらの情報を探り、他へ提供している……?

 そんなメリットないように思うが。

 ただまあ、魔法のことも『記憶継承』のことも隠していることではない。

 周知させたいのであれば、構わないさ。

 それで戦意喪失してくれる敵さんがいるんならいいけど、多分いないだろう?


「五百年前の戦争で、たった一人無傷で無双した人間族の剣士。雷の魔法を用いて、頑丈な我ら獣人をいとも容易く切り裂き、人魚やエルフや妖精の魔法すら斬り、武神ゴルゴダ様に最後抹殺を命じられても女を一人守り抜き、生き延びた伝説の剣士——の、生まれ変わりか」


 改めて聞くだけでも五百年前の戦争は雷蓮がヤバいな。

 他の種族にも伝わっていたのか。


『アレはゴルゴダが悪い。戦争の決着がエルフ族の勝利に終わったあと、不快であるという理由で雷蓮とクレースを殺すように生き延びた他種へ命じたのだ。他種族どももそんな命令、従う義理もなかろうに本当に襲ってきおって。だから雷蓮はクレースを守るために応戦したまでのこと! 逆恨みのような言い方は気に入らぬ!』


 と、反論したのは鈴緒丸。

 確かに。

 戦争が終わり、決着もついているのに追撃のような真似。

 いくら人間が気に入らないからって逆恨みもいいところだ。


『それに今回の件もそうだ! 人間種にのみ、四日連続で勝ち抜き戦を要求してきた! なんだ、この理不尽極まりないルール変更は! 余も神の端くれ。貴様のその戦神にあるまじき執拗な人間族への迫害は、同じ神として許し難い! そんなだから女神族に嫌われるのだ!』

「「……!」」


 …………気のせいだろうか。

 鈴緒丸の放った最後の一言で、場が強烈に動揺した。……ような気がする。


「……四日連続で勝ち抜き戦? おいおい、それじゃあお前ら人間族は明日も明後日も明明後日も他種族と戦うのか? そんな話俺たちは聞いてないぜ? 二ヶ月間の戦いと聞いているのに、そんな重大なルール変更、なぜ俺たちの耳には入っていない? それに、さっきヴィンセントが言っていた戦争で死んだ者の魂がゴルゴダ様の栄養になるって話……あれは真実なのか?」


 ガイ、思いの外こっちの味方をしてくれるな。

 空に向かって問うガイに、空気がピリピリとりした威圧感を醸し出す。


「それは“公平”じゃあ、ねぇんじゃねえか? そんな不公平な戦争に勝っても、俺たちは嬉しくねぇ! 俺たち獣人族は強さこそがすべて! だからこそ、正々堂々と力と強さを比べたいんだ! 俺たちと正々堂々戦い、そして勝利した者に従うのは当然! だが、そうでないのなら戦う意味がない! 答えよ、武神ゴルゴダ! なぜ人間族へ不利な条件で戦争を行おうとする! 死者の魂を喰らうとは本当か!? それは死者への——戦士への冒涜ではないのか!」


 わかってはいたが、答えはない。

 他の天神族も見てる気配はするんだが、沈黙を貫いている。

 やはり優勝者が決まるまで、ツラを見せるつもりはないようだな。

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