あれこれ俺のルートでは?
さて、ケリーが悪い顔のまま即座に考えたのは……二人一組での状況把握。
警戒すべきはメロティスの『暗示』と『魅了』。
だが、それは俺と真凜様に通用しない。
そして、真凜様……というかエメリエラの話ではケリーにも効かないだろう、との事。
理由は『ケリーの魔力量と魔力操作力は本物の妖精やエルフ並だから』……との事。怖いわ……!
なので、俺はエディンと、真凜様はラスティと、ケリーはハミュエラと組み、お嬢様たちはあの部屋でクレイたちの報告待ち。
そしてクレイたちが戻ったら、次のように伝えてもらう手筈になっている。
『クレイの闇魔法で、国王たちの暗示と魅了を解いて欲しい』
闇魔法は俺も使えるが、正直真凛様が側にいないと『奴』に呑まれてしまいそうなのだ。
状況によってはチャレンジするが、隠密も得意なクレイの方が適任だろう。
何より、クレイとメロティスは因縁がある。
クレイの両親を連れ去ったメロティス……奴との決着はクレイが自分で着けたいはずだ。
「さて、俺たちは正面突破だな」
「まあ、面子的に俺たちが適任だからな。最悪レオだけでも正気に戻す」
「偉そうに命令するな」
そうなった場合やるのは俺だ。
ケリーとハミュエラはパーティー会場で情報収集、真凛様とラスティは迷子を装い反対通路から王族控えの間へ潜入を試みてもらう。
まあ、主な目的は様子見だ。
とにかく居場所を確認しないと。
パーティーがまだ終わっていないのを思うと、控えの間にいるとは思うのだが……。
「「……!?」」
だが、パーティー会場を避け、別なルートから王族控えの間を目指していた俺とエディンは思いも寄らない人物と遭遇する。
その部屋の前に立つ、二人の女。
あ、あまりの事に……戦慄いた。
「ど、どうなっている……」
思わず通路の壁に隠れてしまう。
エディンが呟き、改めて正面通路を覗き込んだ。
見間違い……そうだ、見間違いであってくれ。
あんなの、ありえない!
「……エディン……!」
「…………、残念だが見間違いではない」
「っ……」
では、王族控えの間の前にいるのはやはり……!?
「伯母上と、マリアベル……」
「……は、はは……これは予想外……」
俺の母、ユリフィエ様とメロティスに乗っ取られたはずのマリアベルだと!?
どうなってるんだマジで!
マリーはメロティスに乗っ取られたんじゃないのか!?
……じゃあ、マリーは生きている?
いや、まだ断定は出来ない。
しかし……それ以前に、だ。
「やはりユリフィエ様はメロティスの暗示に掛かっているのか?」
「その可能性が高くなったな。……しかし、解せん」
「ん?」
「なぜ伯母上を巻き込んだんだ? 正直戦力にもならないし、役に立つような権威もない。俺や父上対策にしても、弱いぞ」
「…………」
確かに。
しかし……。
「でも俺には効果絶大なんだよなぁ……」
「まあな。だが、それでもわざわざお前対策をする必要があるか?」
「…………んん……」
それもまた、確かに?
しかもユリフィエ様って俺特攻型の防衛策だしな?
エディンやディリエアス公爵対策なら……多分オリヴィエ様の方が圧倒的に効果絶大。
「むしろあの場からユリフィエ様を誘き出すのには恰好の……」
「…………」
餌=俺。
ああ、うん、確かに間違いないや……。
「しかしマリアベルがいるのはどういう事だ? つーか、アレ、メロティスだよな?」
「多分な。俺たちが見た光景のままだとするならば。……目的は分断か?」
「……」
だとしたら、と顔を見合わせる。
ケリーの策は正しいな。
俺たちはすでに手分けしている。
敵の作戦が俺たちを分断する事ならば、ハナから無駄だ。
まあ、分断させてどうするって話だけど……。
「問題は中にレオたちがまだいるかどうか」
「シェイラの報告を待ちつつ、一度巫女たちと合流するか……それとも……」
あえて誘いに乗ってやる、か。
「…………」
だ、だが……『城』『仲間と共に』『偽者のマリアンヌ』『レオハール王子を助けに』……これら、俺の『トゥルーエンド』条件なんだけど。
いや、でも『鳥の獣人』イベントは勝利した。
文句なしに勝った、と、思う。
「…………?」
あれ?
待てよ?
確かヘンリエッタ嬢の話をおさらいすると……
十月の上旬『鳥の獣人』というバトルイベントが起こる。
勝利→オズワルドルートのハッピーエンド。
敗北→オズワルドルートのトゥルーエンド。
十月下旬の『女神祭』で好感度を上げるイベントと共に、オズワルドルートに入っていれば最後の分岐イベント……『実母との対峙』が起きる。
『鳥の獣人』イベントに勝利しているとユリフィエの告げる『真実』を乗り越えて、『星降りの夜』の告白イベントへ——!
『鳥の獣人』イベントで敗北しているとユリフィエの告げる『真実』で精神が壊れ、全キャラ中最も凄惨な『城内の人間を皆殺しにして行方不明になる』という最低最悪なトゥルーエンドへ——!
なるほど……つまり……。
「…………」
「どうした? 突然顔を覆って」
これ俺のイベントオオオォッ!
「……い、い、いや……」
へ、ヘンリエッタ嬢があんな事言うから!
『女神祭』は好感度を上げるイベントとか言うから!
そっちを! メインを忘れてたじゃないかぁぁぁっ!
というかさっきの話し合いで見る限りあの人も忘れてただろ絶対!
ケリーは覚えていたのだろうか?
だから最悪の場合は被害を拡散しないようにお嬢様たちを隔離した?
くっ、策士め……。
確かにライナス様とスティーブン様、そして後から来るクレイとサボりのアルト……真凛様さえ守る事が出来れば最悪従者をあの四人にして戦争へ行く事は出来る。
言うなれば予備戦力って事。
そこまで考えた上で、あの人選?
ほ、本当怖いなアイツ……。
だが、そうなると…………どうしたらいいんだ?
俺はユリフィエ様と対峙して『真実』と向き合わなければならない、という事になるが……。
——真実。
産まれたばかりの俺は、ユリフィエ様から引き離され『記憶継承』の発現を促す投薬を行われて心肺停止になり、そのまま死んだものとされた。
そして墓の中に入れられたのだ。
まるで、道具のように捨てられた。
まあな、今更あの王が俺に何をしていたと聞いても何の感情も浮かんでこない。
俺としては「だからどうした?」だ。
だがユリフィエ様からすればそうではない。
一年近く腹で大事に育てた息子を、産まれてすぐに奪われて戦争の為に殺された。
その絶望は、心を壊して時間を止めてしまう程。
ああ、だから…………だから俺は……。
「俺があの二人を引き付ける。その間に部屋の中を調べてくれ。適当な部屋に誘導して、時間を稼いでおく」
「イケるのか?」
「少なくとも俺には『暗示』も『魅了』も効かない」
俺の仕えるべき方はお嬢様だし、闇の魔法は魔法の力を打ち消す。
敵を無効化する戦い方もこの間の『鳥の獣人』で『思い出した』し。
それに、なにより——。
「ユリフィエ様には俺が向き合うべきだろう」
「…………お前……」
「レオと……ルティナ様と宰相様、公爵と後ついでに陛下の無事の確認は頼む」
「……分かった、やるだけやってみる」
と、いうわけでエディンとは一度離れる。
アイツの事だから一度真凛様やケリーたちどちらかと合流して、慎重に事を進めるはず。
壁に背中を預けて息を吸う。
そして、ゆっくり吐き出した。
籠もっていた熱と共に、緊張が少しでも減ればいい。
大丈夫、例え、それ以外にどんな『真実』があっても俺は揺るぎない。
俺が一番大切な人はお嬢様だ。
あの人を破滅の未来から救ってみせる。
何もなかった俺の人生を変えてくれた人。
あの人がいたから、俺はここまで来れた。
「……さあ、行こう」
……なぜか脳裏に真凛様の姿ばかり浮かんだけれど……俺は……俺が救いたい人は——。
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