第36話 無名戦士に贈る

世界が、たとえ今日終わりを迎えるとしても

猟師はやはり狩りに出かけるだろうし

ナースはやはり病人の世話をするだろう

ずり落ちかけた夜空の月も

鳴り渡る鐘の音の前に立ちすくむだろう


強引な言葉遊びにうつつを抜かすものは

行頭の文字を連ねなにがしかの意味を見いだそうとする

妖精の粉を振りかけられ空を飛べるようになるものなら

うつつは夢となり無意味さえも形を持つだろう

敗走する兵士にしてやれるせめてもの贈り物

凍えるからだを温め、凍える心を包み込む

ベランダで育てた7つの草を摘み添えてやろう

楽にしてやることはできないけれども


炎はまだ燃えているか、心の中で

時計は止まらず動いているか

計算などできなくたってかまわない

飲み食い息をすることさえできればそれでいい

雑草呼ばわりされるものたちが聖なる糧となるように


好きなだけ、さあ食べるがいい

頭痛を少しやわらげてやれるかも知れない

情けない世の中にも少しは救いがある

好きなだけ、さあ七草粥(ななくさのかゆ)を

ずり落ちかけた夜空の月に照らされ

シーツに血を流し横たわるお前は、お前こそが

ろくでもない世の中で真に生きるに値する者なのだから


(「七草粥」ordered by 花おり-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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