第25話 オールスター・セッション
聖ウラバンの年には大公妃が崩御され、翌・諸賢人の年には「たてがみの殿下」として民衆にも親しまれたド・ツイタルネン卿が急死し、さらに勇士リマワリーの年にはなんとセ皇子とイーモ皇女の兄妹が高熱からくるショック状態で幼い命を散らした。それが全てクリスマスの日のできごとだったのである。
王国には呪いがかかっている。
そういう噂を打ち消すことはもはや不可能となっていた。近隣諸国は虎視眈々と侵略の機会をうかがい、戦乱を恐れた商人たちは店をたたみ国外への脱出を図りはじめた。こうなると物事は悪しき方へと流れるばかり。サイヘルニア王国には暗雲がたれ込めた。何年にもわたって王宮には喪章が掲げられている。民心は離れている。兵士に戦意はなく、元気なのは武器商人と棺桶屋だけである。経済的にも苦境に陥った。
デモッソの年のクリスマスの日、サンタルノ・オジサーノ伯爵は祈りを捧げた。
暗き夜道は
きらめける
汝の刃先が
役にたたん
…………
幸いなことにこの年には王宮内で誰も命を落とすことがなかった。誰が言ったか「死のクリスマスプレゼントを配る黒いサンタ」は現れなかったのだ。安心した王は何らかの形で祝うことにした。喪に服して抑えた色調に揃えられていたカーテンを明るい派手な柄に変えた。しかもなんとリモコン操作でたちまち別な色 の組み合わせにかわる逸品だった。
新年を迎える大饗宴が開かれるらしいという噂を聞きつけた人々は町の外からも押し寄せてきて、駅のホームはごったがえし た。「張さん!」「ゴレンさん!」「鈴木さん!」「イブラヒムさん!」などと聞き慣れぬ名前で呼び交わす外国人の姿も数多く見受けられるようになった。
芸術家のウツボ・ピカブロは「ご不在連絡票」という作品を発表し、黒のサンタが届け物をできなかったことを暗示した。惑星外からも火星の石が献上されるなど王宮の内も外もいやが上にも盛り上がり、レセプション・パーティーの会場は連日大賑わいである。
子どもたちも大人につられて浮かれ遊ぶので町の学習塾はすっかり廃墟のようになってしまっ た。歌手ケニー・ヒーライが歌う懐かしいメロディ「おじいちゃんの帽子」が町中に流れ、妖艶な美女の誘惑に骨抜きになった男たちが町にあふれた。喪に服した期間を埋め合わせるように彩り豊かな衣裳を身にまとった人々で町はまるでドライフルーツをぶちまけたように見えた。
しかしそこにわずかながら影がしのびよっていたことに少数の者達は気づいていた。いかさま師のコッヅーレ・オーカミイが「財産を肥え太らせる」という触れ込みのブタの貯金箱を売り歩き、ハングルを連想させる不可思議な記号が町のあちらこちらに描かれはじめた。王宮からは生え抜きの兵士たちがごっそり姿を消し、見習い兵だけが取り残された。祭りに向けて盛り上がる「ハレルヤ!」という歓声も、ワールドカップもかくやという熱狂も、刻一刻と勢いを早めながら滝へと落下していく急流を思わせた。
連日饗宴が繰り広げられ、もはや国中が曜日も日付もわからないような状態になっている。王宮の大広間には貴族たちが、王宮広場に用意された会場には民衆がつめかけ、いまかいまかと新年を迎える時を待っている。
「さあ、いまこそ数え始めるのじゃ」
王が叫び、会衆が熱狂し、カウントダウンが始まった。これが天国と地獄の扉を開くとも知らずに。しかしサイコロは振られてしまった。「4! 3! 2! 1! ブラヴォー!」
人々が叫んだ瞬間、彼女が叱りつける。
「このキャベツ頭。1日早いんだよ。まだ大晦日だってば」
(「大晦日」ordered by Dr.T-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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