第24話 お出かけの日に

 夕方になっても彼が起きてこないのでわたしはカンカンになってひとりで出かける。だって今日は二人ともお休みなんだし、楽しいところに行って楽しいこといっぱいしようって約束していたのに、先輩に頼まれた仕事か何か知らないけど、三日前から帰ってこなくなって連絡もなくて朝になって毎晩徹夜続きでへとへとだーって帰ってきてそのまま眠って声をかけても揺すぶっても殴っても蹴っても水をかけてもお湯をかけても寝耳にお湯をたらしても起きてこない。お出かけの日なのに。 そんなのってあり? そんなのってなしだよ。


 1人でお酒飲みに行ってかっこいい男見つけて口説かれてやるんだ。とーってもかっこよかったらそのまま帰ってこないんだ。三日間ぐらい帰らないで楽しいことをいーっぱいしてやるんだ。


 でも1人でお酒を飲みに行く店を思いつかないので近所のよく知っているお店に入る。とんとんと地下に降りてみると空いているからどこにでも座れるけどカウンターだとマスターがいろいろ話しかけてきそうだし、そうするとどうして彼はいないんだとか電話かけて呼べばいいじゃないかとか一緒に飲んで仲直りすればいいじゃないかとかもし呼んだら2人にカクテルをご馳走してやるとか言われるに決まっているから、店の隅の方の2人がけのテーブル席に座る。座ってからこれじゃあかっこいい男が入ってきても口説いてもらえないことに気づいてしまったと思うけどどうせこのお店にはそんなにかっこいい男は入ってきた試しがないからまあいいやと思っていたらいつもの連中がだんだん集まってきて結局わたしもみんなのテーブルにまぜてもらう。


 わいわい飲んでいるうちにだんだん調子が出てきてなにしろここの連中は本当に本格的に絶対的にバカばっかりでバカばっかりやってきた話をバカ丸出しで話すから機嫌が悪かったのも忘れて大笑いする。わたしもとびっきりのバカ話をする。ついでに彼のバカ話もする。ものすごく働いているのに請求書を書くのが面倒だからというだけの理由でずーっと無収入で過ごしてあやうく餓死しそうになったこととか、酔っぱらって家に帰ってトイレに行くつもりでベランダに出てトイレに柵があるのはヘンだからといって乗り越えて2階の高さから駐車場に落ちたけど酔っぱらっていたから無傷だったこととか、約束の時間を守れたためしがないこととか、いるべき場所にいたためしがないこととか。


 そこまで話したときに彼が姿を現してみんなが大歓迎する。わたしも大歓迎する。みんなで彼のバカっぷりをワイワイ話していると照れくさそうに 笑って「これ差し入れ」とわたしに袋を渡す。期待して中をのぞいたら野菜が山ほど入っている。「すごくおいしそうだったから喜ぶと思って」と彼は言う。本気で言う。


 いつもこうなんだ。これが彼のプレゼント。選んだ理由もズレてるし選んだものはもっとズレてる。何を考えているんだかしらないけど何でもない日に「今日は何でもない日だから」なんてヘンなプレゼントをくれたりする。全然可愛くないストラップとか。気が滅入るような絵本とか。


「キャベツ頭!」とわたしは言う。彼は笑う。彼の頭をばしばし叩きながらわたしは叫ぶ。このキャベツ頭!キャベツ頭!痛い痛いと言いながら彼は笑う。ごめんごめんとあやまる。みんなが笑う。ひゅーひゅーひゅーと冷やかす。


 だからわたしはキャベツが好き。


(「キャベツ」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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