第12話 207個ある!

「207個ありますな」医師がいった。「1つ多い」

「何がでしょう?」あなたは聞き返す。

「骨の数です。1つ多い」

「骨の数?」

「そう。人体の骨の数は決まっておってな、大きな人でも小柄な人でも206個だ。しかしあなたは違う。1つ多い」

「待ってください。どういうことです。1つ多いって」

「207個あるんですな。1つ多い」

「いやいや」あなたは答える「いやいやいや。それはわかってますって。だからええと」

「1つ多い」

「ええ。それはわかりました。だから、あの、どこの骨が多いんですか?」

「えへん」医師は咳払いをした。もう2度。「えへんえへん」


 間があいた。

 あなたは気がつく。医師は返事する気がないのだ。


「どこの骨が多いんですか、先生。それに1つくらい個人差で」

「なるほど個人差で個数が違う場合が確かにありますな」我が意を得たりと医師は言う。「生まれたての赤ん坊などはまだくっついていない骨が方々にあるのでざっと300個くらいある。これがだんだん癒合していって数が減り、不思議なもので大人になると206個になる。たいていは。しかしもちろん個人差はある」

「なるほど」あなたは安心して少し笑う。「じゃあ滅茶苦茶珍しいってことではないんですね」

「滅茶苦茶珍しいですな」こともなげに医師は言い放つ。「極めてもうベラボウに」

「どうしてですか!」あなたはだんだん腹が立ってくる。「どうしてそんな、ベラ……珍しいんですか」


 医師は手元のカルテをちらっと見る。けれどもその動作に特に意味はない。なぜならカルテにはまだ何も記入されていないからだ。


「電子カルテというものがあって……」

「どうして珍しいんですか!」医師が話をそらそうとしているのに気づいてあなたは詰め寄る。「先生、質問に答えてください!」

「わからない」

「は?」

「どこの骨が多いかわからない」

「わから……じゃあなんで」

「でも数えたら207個ある」

「はい?」

「座敷わらしだ」

「座敷?」

「『11人いる!』みたいなものだ」

「11人?」

「萩尾望都だ」

「そうじゃなくて、なんですそれは」

「宇宙船の中に10人の受験生が」

「だからそっちじゃなくて、どこの骨が多いかわからないと言うのは」


 医師はじろりとあなたを見つめ、言葉を探すようにしながら言う。

「あれは、読んでおいた方がいいですぞ」

 萩尾望都の話をしている!

「骨の話をしてください!」

「あ」医師はわざとらしくモニターをのぞきこみ、こちらを振り向き、大袈裟に何度もうなずきながら言う。「間違えた。間違えました。206個です。どこも悪くない。だからもう大丈夫。お大事に」


 そういうわけであなたは病院から追い出され、これからの人生を207個の骨と過ごすことになる。どこにあるのかわからない、1つ多い骨とともに。


(「骨」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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