第10話 舞台写真

 今朝、確かに彼女と目があった。

 間違いなく目があった。

 そう思いながら目をさまし、

 しばらく動悸が止まらない。

 子どものころから同じ夢を見ている。

 場面も違う、展開も違う。でも主題は常に同じ。


 どうして廃墟の写真ばかり撮るのかとよく聞かれる。廃墟を訪ねるのが好きなのか。イエス。廃墟なら古代のものでも近年の工場跡地でも何でもいいのか。ほぼイエス。他の主題より廃墟の方が魅力的なのか。部分的にイエス。いまは廃墟を撮ること以外考えられない。先輩などからはやめた方がいいと諭されることもある。それはありふれた題材だ。アマチュアが好んで飛びつくものであって、そこに突っ込んでいっても大した実りがあるとは思えない、深めようがない、などなど。


 でもそういうことじゃないんだな。

 子どものころから繰り返し見る夢がその答だ。

 テーマが深まるかどうかなど問題ではない。


 いまのところ写真に人物は登場しない。

 けれど、どの写真も本当は

 そこに人物がいるべきなのだと思いながら撮っている。

 夢に出てくる裸身の女性。

 長い夢の終わり頃に現れる女性。

 彼女は廃墟の中にたたずんでいる、いつも。

 いろいろな土地の、

 いろいろな廃墟に。


 写真を撮り始めてから何度か、

 ここは彼女がいた場所だと確信した場所がある。

 写真に彼女はいない。でもそこは彼女がいた場所なのだ。

 一度だけモデルを頼んで廃墟に立たせたことがある。

 でもそれはファインダーを覗いた瞬間から違うとわかった。

 だからモデルが入る前に撮った写真が、

 その廃墟での作品となった。


 夢の中の彼女はいつでも必ず同じポーズでたたずんでいる。

 昔は背中しか見えなかったのが、

 少しずつ角度を変え、最近ではほとんど正面を向いている。

 目があったと感じるほどに。

 間もなく会えるはずだ。

 本当に会えるはずだ。

 だからそれまでは誰もいない廃墟の写真を撮る。

 ほんの少し前まで彼女がいたはずの廃墟の写真を撮り続ける。

 登場人物が去った、

 舞台だけの写真を。


(「廃墟」ordered by delphi-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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