第2話 リモート・コントローラー
「これさえあれば」博士は携帯端末を取り上げ、会衆に示す。「究極のユビキタス体験ができます。通話やメール、決済機能だとか、音楽配信や地上波デジタルテレビなんて序の口に過ぎんのです」
得意げに博士は会場を見渡す。しかしながら、自分の言葉があまり関心を呼び起こしていない様子に気づき、とたんに気むずかしそうに眉根にしわを寄せる。「いいですかな。これからご覧いただくのは同じステージ上のできごとに過ぎませんが、実際には、お互いがどれだけ離れていようと、つまりユーザーのみなさんがどこにいようと、それこそ会社にいても、店にいても、他の県にいても、というより世界中のどこの都市にいてもできることなのですからな。ご覧いただきたい」
そう言うと博士は携帯端末を操作する。背景の巨大なスクリーンにその端末の画面が映し出される。まず舞台上の冷蔵庫にスポットライトが当たり、スクリーン画面には冷蔵庫に関する情報が表示される。「卵がいくつ残っているか。牛乳の残量はどのくらいか。食材などもICチップさえ埋め込まれておれば、何がどれだけあるか全部わかる。エージェント機能を使えば余分な買い物をせずにすむし、買い忘れもなくなる。もちろん賞味期限切れなんかも教えてくれる」
勝ち誇ったように博士は言うが、会場の反応はイマイチだ。次に自動車にスポットライトが当たる。スクリーンの映像には自動車のステータスが映し出される。走行距離、ガソリンの量、最終点検日時……。さらに博士の操作でドアロックが開閉し、エンジンが掛かり、博士の前までするすると無人走行までしてのける。「これはつまり、ありとあらゆるものを自在に操作する万能のリモート・コントローラー、リモコンだと言ってよい」しかし会場の反応はそれほどでもない。
もはや苛立ちを隠し切れなくなった博士は言う。「どのくらいこれが万能かというと、例えば地球を逆回転させることもできるのだ」。会場から失笑がもれ、博士は完全に逆上する。「試しにやってみよう。この画面を呼び出して、このようにリバースのスイッチを入れるとるれ入をチッイスのスーバリにうよのこ、てし出び呼を面画のこ。うよみてっやにし試」。るす上逆に全完は士博、れもが笑失らか場会。「だのるきでもとこる……
(「リモコン」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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