第四七話 年上好きアピールを

 ――リーフ!


 (誰かが、僕を呼んでいる? あ、おばあちゃんだ!)


 「おばあちゃん……」

 「もう、おばあちゃんではありません! 寝ぼけてないでさっさと起きなさい。いつまで、寝ているのです! 朝ごはんを食べて出掛けますよ!」


 目を開ければ、リーフを覗き込むアージェの顔があった。


 「……アージェさん? あ、おはようございます」

 「おはよう。起きたならごはんを食べて出掛けますよ」


 リーフが体を起こすと、アージェはドアに向かいながら言った。

 昨日ダミアンに言われた通り、リーフも今日から研究に加わる事になっている。

 研究所は、魔術師の館の三階と四階で、ダミアンが率いるチームはいつも四階で研究を行っている。いわば、元召喚師を含めた召喚師の研究員のチームだ。

 朝食を食べた二人は、馬車に乗り魔術師の館まで行った。


 「おはようございます」

 「おはようございます……って、誰も来てないみたいですね」

 「えぇ。後、30分もすればくるでしょう。それまでに掃除をしましょう」


 そういいながら、アージェが水をバケツに汲んでいた。

 バルブをひねると、水が出て来たのを見たリーフは驚いた!


 「何、それ!」

 「これですか? 水です」

 「いや、それはわかるけど、何故そこから水が出て来てるの?」

 「あぁ。そういう質問でしたか。建物の上にろ過した水が貯蔵してあって、このパイプから水を下ろしてます。バルブをひねると水が出る仕組みなのです」

 「すごい!」


 リーフは、自分もやってみたいと思うが、キュッとアージェがバルブを閉めてしまった。

 ガックシと肩を落とす。


 「では、お願いしますね」

 「お願い?」

 「掃除ですよ。床と天井と壁。それだけでいいので、あなたの部屋の様に掃除して頂いていいですか?」

 「いいですけど……」


 リーフは、バケツの水を覗き込む。これだけあれば、何とか足りるだろうと頷くと、バケツに向けて両手を付きだす。

 そして、大きく両手を振れば、水は霧状となり辺りに散った。


 アージェは、唖然としてその掃除のやり方を見ていた。

 聞いてはいたが、思ったよりすごかったのだ。

 しかもすぐに大きく振った腕をバケツに向ければ、水は汚れを吸ってバケツに戻った! その水は、真っ黒だった!


 「……あなた、本当に凄いですね。斬新な水魔法の使い方です」

 「え? そうですか?」


 数分で掃除を終わらせたリーフは、心なしかどや顔だ。

 研究室は、アージェの研究室の四倍はあろう広さ。

 扉を開けた向こう側の壁に窓が四つあり、右手の壁には扉がある。そこの奥の部屋は、休憩室でベットもあった。


 掃除をしたのは研究室だけだが、一人で掃除するとなれば数時間かかるだろう。

 それを一瞬で、ピッカピカにしたのだ。


 「あれですね。館の部屋全部、掃除してもらえたら助かりますね」

 「え……」


 アージェの言葉に、リーフは面倒くさいから嫌だと思うのだった。




  ◇ ◇ ◇




 「もう来ていたか。おはよう」

 「おはようございます」


 30分後、アージェの言う通りダミアンが出勤してきた。

 そして、辺りを見渡す。何故か眉間に皺を寄せている。


 「どうか、なさいましたか?」


 アージェが、どうしたのだろうと聞くと、ダミアンは首を傾げた。


 「いや、何かが違う様な気がして……」

 「あ、きれいになったからじゃないですか? 僕、水でお掃除したんです!」

 「何?」


 ダミアンは、マジマジと床を見た後、壁に近づき壁に触れた。


 「本当にきれいになっている。何を使って掃除をしたのだ?」

 「水ですけど?」

 「薬品などは使っておりません。水魔法を使って頂いました」

 「水魔法だと! それで、ここまできれいにしたと言うのか?!」

 「はい。僕は、村でのお掃除の仕事は、こうやってましたけど?」


 ダミアンの驚きに、本当にここでは水魔法を使って掃除をしないのだとリーフも驚いていた。


 「いやぁ。水魔法が得意だと聞いたが、こんな事も出来るとは恐れ入った。どんな感じにやったのだ?」

 「え? 水を出来るだけ小さくするんです。えっと、粒子? だかに出来ると一番いいって、おばあちゃんが言っていました」

 「……無茶を言うな。チェチーリアさんも」

 「そう言えば、霧の様になった感じでしたね」

 「おはようございます」

 「あ、お兄ちゃんいた!」


 話していると、研究室にウリッセと娘のナディアが入って来た。

 そして、ナディアは、リーフを見つけると駆け寄った。


 「あ、ナディアちゃん!」


 リーフも嬉しそうに、ナディアを抱き上げた。


 「すみません。リーフさんが来ると言ったら会いに行くって言ってきかなくて……」

 「いや、構わん」

 「ところでダミアンさん。今更なんですが、彼はオルソさんの孫ですか?」


 ボソッとウリッセは、ダミアンに耳打ちしてきた。

 ウリッセは、話の流れからオルソの子供が外に居て、その子供つまりはオルソの孫が都の外に居た事を知った。

 シリルが孫なのは間違いないと確信していたが、リーフの方は、半信半疑だった。

 だが、召喚師でありシリルをリーフが知っていた事から兄弟なのかもしれないと思っていた。


 「まあ、そんなところだな……」

 「やっぱり。オルソさんのお孫さんですか」


 ダミアンの答えに頷いて、ウリッセは嬉しそうに二人を見つめていた。

 それを見たダミアンは、静かにため息をついたのだった。


 その日は結局、リーフはナディアと一緒に行動した。ナディアは、たまに来ては洗い物などの手伝いしていた。それを二人でしたのだ。


 「リーフ、ちょっと」


 帰り際にリーフは、ダミアンに呼び止められた。


 「ナディアとは、一線引いた方がいい」

 「うん?」


 リーフは、突然言われた言葉の意味がわからなかった。


 「えーと。どういう事でしょうか?」

 「あなたが、ナディアの婿候補になっているって事だ」

 「え!?」


 ボソッと囁かれた思いもよらない言葉に、リーフは目を丸くする。

 ウリッセは、歳のころ合いもよく、ナディアがなついているリーフを婿にするのにちょうどよいと思っていた。

 しきたりによって、ほとんどが決められた相手と結婚するのが普通だが、リーフはオルソの孫で、召喚も出来る凄腕にウリッセの目には映っていた。そのリーフならば、全く相手として問題なく、いや是非と言ったところだろう。

 それをダミアンは、感じ取ったのだ。


 「え? 何でそうなるの? って、どうしたら……」


 男としている事に、今までそんなに困った事がなかったリーフだが、さすがそれは無理な話だった。

 しかも、女だとばれた時に、気まずくなるのは間違いない。


 「離れるしかないのかな……」

 「うーん。今の状況じゃそれは無理だろう。だから、アピールしておくといい」

 「アピール?」

 「お姉さんが好みですとな。勿論、ウリッセにだ」

 「………」


 それまた難しい注文だった。

 アピールをしようにも周りには、女性がいなかった!!

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庭園の国の召喚師 すみ 小桜 @sumitan

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