第四六話 リーフの運命

 「陛下、御相談があります」


 リーフが呼ばれ行くと、ダミアンがガッドに声を掛けた。ロイと話していたガッドは三人に振り向く。


 「どうした?」

 「はい。実はリーフですが、男として魔術師証を取得しているのです」


 ガットとロイは、顔を見合わせ不思議そうな顔をする。


 「すまないが、言われている意味がわからない」

 「申し訳ありません。気づいているとばかり。リーフは、シリルが預けられていた家族の子なのです」


 ガットとロイは、揃って頷いた。


 「それは流れから気づいていたが……」


 ガッドの言葉に今度は、ダミアンとオルソが顔を見合わせる。


 「その……陛下。リーフは、女の子なのです。エミールに追われ男として過ごす様にチェリに言われそうしていました。そして、彼女が亡くなりそのまま男として、魔術師証を取得しております。どうか、お許し下さい」


 オルソはそう説明して頭を下げた。リーフも慌てて下げる。


 「今、なんと申した? 女……」


 ガッドは驚いて二人を凝視する。


 「ダミアン。あなたも知っていて黙っていたのか?」


 驚いたまま、ガッドはダミアンに問う。


 「私も先ほど、リーフがあの村の者だと知ったのです」


 ダミアンもそう言って、軽く頭を下げた。

 ガッドは、リーフがシリルが預けられた家族の子供だとは気づいていた。だが、資料でしか目にしておらず七年も前の事だった為、性別までは覚えていなかった。

 ダミアンは、オルソと一緒に訪れリーフに直接会っていたので、女の子だと記憶していたのだ。


 「ちょっと待て! リーフは確か、オルソの紹介状で試験を受けたのではなかったか?」


 話を聞いていたロイがそう聞いた。

 それにオルソとリーフは頷く。


 「なんだと?! 紹介状を使って不正をしたと言うのか!」


 ガッドとロイは、深いため息をはいた。


 「だから甘いと申したのです!」

 「しかしまさか、こんな不正をするとは思はないではないか?!」

 「あの、陛下、殿下。落ち着いて下さい」


 言い合いを始めた二人をダミアンがなだめる。


 「あの紹介状は、偽物を使うという不正は出来ない様になっていた。だから本物かどうかだけ、チェック出来る仕組みしか作っていなかった……」


 ガッドは、ため息交じりでそう話した。


 「紹介状に使う便箋には、私の魔力を混ぜてある。それを会場でチェックする。だが、それを知っているのは私とロイだけだ。チェックする者も本物かどうか、魔法陣に掛けチェックしていたのだ」


 会場にはたくさんの者が訪れる。紹介状を持って来る者もそれなりにいる為、一々書いてある内容を確認していては時間がかかり過ぎる為、紹介状が本物かどうかだけチェックしていた。

 ロイは、この仕組みに難色を示していた。

 盗まれた場合、不正利用される可能性があるからだ。

 だが今まで一度もそう言う事がなかった為、ガッドは仕組みを変える気がなかった。

 リーフが、初めてのケースだった。


 「リーフ、君は暫く男のままでいろ」


 ロイは、ため息交じりにそう言った。


 「ロイ王子。取得してからまだ数日です。書き直してほしいとまではいいません……」

 「そう言う問題ではない!」


 オルソがすまなそうに言うもロイが強い口調で返す。


 「リーフが、女性だと知られてはまずいのだ。君は、水魔法が得意なのだろう? しつこく魔術師団に入る様に勧誘を受けるも逃げ去った。私にもリーフと言う男が、かなりの水の使い手だが何故か勧誘を断ったと報告があったのだ。しかもオルソの紹介状を使った事も知れている。彼は、いや彼女は目立ち過ぎた!」


 ロイに言われ、リーフはすみませんと俯いた。

 リーフは、試験の係りの者に覚えられてしまっていた。普通なら沢山いる中の一人だ。性別も名前もしっかり覚えられる事もないだろう。

 だが、紹介状を持って受けた人物が、水魔法が得意なのに入団を蹴るなどまずない事だった。

 かなり印象に残ったに違いない。


 「いいか。男だった者が女だった。しかも名前も違う。その者が処罰もされずにいると知れれば、何者だと思うのが普通だ。君が、二年前に森のトンネルで襲われた者だと知れれば厄介だ。そこから芋づる式に、色々知れるかもしれないからだ」


 チェチーリア達が住んでいた村が焼かれた事を知る者は少ないが、二年前の森のトンネルの火事は、王都に住む者なら知っている話だ。

 しかも、魔術師に襲われた老婆と子供二人がいた事は目撃されている。犯人も捕まっていない。

 そこからシリル達の事が知れれば、色々と勘ぐる者もいるだろう。

 召喚師を選んだ者は少ないが、元召喚師だった者はたくさんいるのだ。オルソの孫が狙われていたと知られたくない。

 ロイは、そう言いたいのだ。


 「そうだな。何か対策が立つまで、リーフにはそのまま男として過ごしてもらおう」


 ロイの話を聞き、ガッドがそう告げた。

 オルソは、まだ取得して日が経っていない。事情が事情なので、特別に配慮してもらえると思っていた。だが、思惑とは違い、そのまま過ごす事になってしまった!


 「リーフ、一つ言っておく。君が女性だと知れれば、処罰しなければならなくなる。誰にも知られてはならない。いいな」


 ロイに言われ、リーフは強張った顔で頷いた。


 「まあ幸い、アージェの所に住まうのですから女性だと勘ぐられる事もないでしょう」


 ダミアンが言うと、リーフ以外そうだなと頷く。

 へまをしない限り、女性だと思われる事もないという事になるが、アージェをずっと騙し続ける事になりリーフは気が重くなる。


 「すまないな」


 オルソがボソッとリーフに言うも、リーフは首を横に振った。オルソのせいではない。

 一応話は決まり、三人は魔術師の館にいるアージェの元に行った。


 「明日からリーフも一緒に連れてくるがいい」


 そうダミアンが言った為、リーフも研究を手伝う事になった。


 (僕、何も知らないのに……)


 「そうですね。私もここに暫く通うのですし、研究員として雇った事にもなっておりますから覚えるといいでしょう」


 アージェも納得し、ニッコリ微笑んだのであった。

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