第四四話 終結
アージェが、エミールの後ろに回っていた!
「私も召喚師を志す者の一人です! フランクさんだけじゃありませんよ! 魔獣対策の剣を研究していた時から私は、一人別で研究していたんです! また魔獣を召喚する為に!」
片膝をついたエミールの背中には、短剣が突き刺さっていた!
アージェは、短剣を隠し持っていたのだ!
最初からエミールに召喚をさせる気などなかった。扉を出現させ、それに気がそれた時に、襲い掛かるつもりだった!
「な……はぁはぁ」
「やっぱり有効なのですね! この短剣は、魔獣を縛り電撃を流す短剣です! まさか使う日が来るとは、思っていませんでしたが……」
ヘリムから聞いた、斬った瞬間に術を流し込まれたと聞いた時、自分が作った短剣も有効かもしれないと思っていた。
「アージェ……」
オルソは、驚いて呟く。
一人になって研究を始めたが、まさかそんな事を考えているとは思ってもいなかった。
納得はしていなかったが、諦めたと思っていたのだ。
「あなたは、絶対に許しません! オルソさんとフランクさんが、どれだけ苦しんだか! そして、私もです! シリルやリーフだって! あなたのその利己心で、どれだけの人の人生が狂わされたか!」
アージェは、叫んだ!
その瞳は、憎悪に満ちていた。
「私のせいにするな! 私を呼び出したのは、フランクだ! 律を破ったのは、オルソだろう? それに根源は、あの魔法陣だ! はぁはぁ」
確かにエミールの言う通りだ。だが、フランクがやった行為も、一歩間違えばアージェがしていた事かも知れない。
そう思えばフランクを責める事など、アージェには出来ない。例えそれで、このような結果を招いたとしても。
「そうですね。ですがあなたがこんな事をしなければ、誰も不幸にならなかった……」
「あなたの術は封じた。村人が、どこにいるか話してもらおうか?」
ヘリムが、エミールに近づきながら聞いた。
「知らないと言ったはずだ。アイテムを作った後、記憶を消して解放した……」
「嘘を言うな。解放されたのなら見つかるはずだ!」
エミールの返答に、ゴーチェがそう指摘する。
「さあどうかな? 何も覚えてないのだから。っく……」
「な、何もって!! 全ての記憶を消したの!?」
驚いて、リーフが言った。
「そうだ。私には一部のみという消し方は出来なかったのでな」
「嘘を言っている可能性も……」
ロイがそう言うもヘリムは首を横に振った。
「彼は一貫して、本当の事を言っている。まあ、疑うのも仕方がないが、そもそも魔獣とこの世界の人間とでは、考え方が違うからな」
「では、本当に全ての記憶を消して、解放したと言うのか!?」
驚いて、ガッドが言った。
解放されているとはいえ、もしかしたら生きていないかもしれない。
「酷い……」
リーフは俯いて言った。
「さて、エミールはどうする? 元の世界に帰すか? それとも……」
そうヘリムは、ガッドに聞いた。
「本来なら捕らえて色々と聞きだしたいところだが、それはそれで危険すぎるだろう。向こうの世界に帰って頂くのが一番だ」
「このまま帰すのですか!?」
アージェが驚いて言った!
殺したい程、憎い相手だ!
「気持ちはわかるが、マスターの願いを叶えたら元の世界へ帰るのだろう? だったらヘリムも向こうの世界に戻る。そうなれば、彼の封印も解ける」
「でしたら、私が……」
ガッドは、首を横に振る。
「エミールをこのまま、この世界に縛っておいても仕方がない」
ガッドがそう言うと、アージェは俯いて両こぶしを握った。
「ねえ、ヘリムには、村の人達の記憶を取り戻せる?」
「そんな事をしなくてもエミールがこの世界からいなくなれば、その者達は徐々に思い出すだろう」
リーフの問いに、そう静かにヘリムは答える。
「わかりました」
「ぐわぁ!」
アージェは、エミールから短剣を抜いた。
「もうこの世界には、来ないで下さい!」
俯いたままアージェは言った。
「そうだな。今度はちゃんと相手を選ぼう」
そう言うとエミールは、徐にブレスレッドを外した。そして、それをポンとアージェに投げた。
ヘリムは、エミールの封印を解く。
「召喚の扉よ。私を元の世界へ導け!」
片膝ついたまま、エミールは言った。そして、光に包まれ扉の中へと消えて行った。
「さて、俺も戻るか」
「待って! 村の人達を!」
「見つかって、記憶をどうにかしたい時は呼ぶといいだろう。この国は、召喚が監禁になるんだろう?」
「え?」
「では。召喚の扉よ。俺を元の世界へ導け!」
ヘリムもあっという間に、戻って行った。
「アージェ。ありがとう」
フランクが、頭を下げて言った。
アージェは、首を横に振る。向こうの世界に帰す事は出来たが、納得が出来る終わり方ではなかった。
「さて戻って会議だ。エミールが作ったアイテムと、村の住人の捜索」
ガッドが言った。
エミールを帰して終わりではない。
後始末が残っていた。
「リーフありがとう。あなたがヘリムさんを呼んでくれて助かりました」
リーフは、アージェに言われ涙を拭きながら軽く首を横に振る。
悔しかった。得た情報は、不安を拡大させるものだった。
「探しましょう。記憶をなくした者という、手がかりがあるのです」
「手がかり……?」
アージェは、頷く。
そう言う発想は、リーフにはなかった。
リーフも頷いた。
こうして幕は下り、事の区切りはついたのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます