第四三話 リーフの強い想い

 魔獣は、この世界では魔力は回復しない。なので、マスターである召喚師の魔力回復しか、回復方法がない。しかし魔獣にしてみれば、微々たるもの。

 もしエミールが言ったように、魔力を自分にため込んでいたとなれば、多少の事では魔力は尽きない。

 逆に魔法陣を消すのに魔力を使ったヘリムは、沢山あった魔力は減っている。長年この世界にいたので、魔力は魔法陣から供給された魔力がほとんどだった!


 「セーブして戦っていたぐらいだ。魔法陣から供給されていた魔力を使いたくなかったのだろう? ならば、あの子の魔力だけでは、私に勝てないという事だ」


 (え? セーブして……。魔力を極力使わない為に?!)


 エミールの言葉に、皆ヘリムに振り返った。


 「まあ、その通りだな。バレているのなら俺は退散しよう。託された事は、やり遂げた。リーフ。協力をありがとう」

 「な、何を言ってます!」


 突然この場をさろうとするヘリムに皆は驚いた。

 エミールに捕まったアージェが叫ぶ。


 「助けが欲しいなら五分後に呼び出せ。そうすれば、魔力が回復している」


 リーフにだけ聞こえる様に耳打ちしたヘリムは、右手を掲げる。


 「召喚の扉よ。俺を元の世界へ導け!」

 「お待ちなさい!」


 アージェが叫ぶもヘリムは、光に包まれ扉の中に消えて行った。

 ヘリムは、味方だと思っていた。

 だがあっけなく、撤退したのだ!

 信じられないアージェは、ボー然とヘリムが立っていた場所を見つめる。

 リーフもボー然としていた。

 自分に呼び出せと言って消えたからだ。

 エミールに出来ないかも知れないと言われた事をすれと言って消えた。


 「あなた達は、何か勘違いをしているのではないか? 我々魔獣は、呼び出したマスターのめいしか受けない。例え、目の前に国王が居たとしてもな」


 そう言ってエミールは、ガッドを見た。

 魔獣にとって善悪も優先順位もマスター次第という事だ。

 ヘリムがガッド達に協力していたのは、前マスターの命を守る為であって、別にそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 エミールに対抗していたのも、魔法陣を守る為。ヘリムには、ここにいる意味がなくなったのだ。


 「な、何を言ってる! あなたは、私の命令など聞いてはいないだろう!!」


 フランクは、エミールに怒鳴った!

 だからこんな事態になっているのだ。


 「それは、あなたが呼び出した時の条件をたがえたからだろう? 私は探究心を満たしたかった! だからあなたの想いに応え、ここへ来た。まあ、でも……」


 エミールは、手にしている剣に視線を落とす。


 「これだけは、褒めてやろう。もし私に従わない魔獣だとしても何とかなりそうだからな」


 魔獣が魔獣を呼び出す。だから何が起こるかわからない。エミールもそこは理解していた。

 だからフランク達が作った剣を保険として奪った。それが、剣を奪った真相だったのだ! ヘリムに対抗する為ではなかった!


 「あなたはそこまでわかっていて、魔獣を呼び出したいのですか?」

 「当たり前だ。結果がわかっている事をやってもつまらないではないか」


 アージェの問いに、平然とエミールは答えた。


 「では教えて差し上げます。私が扉を出現させれば、誰が召喚したところでスクランさんが召喚されます!」

 「かもしれないな。だが、魔獣が魔獣を召喚出来るのか? 召喚したとして命に従うのか? という検証が出来る」


 アージェは、召喚をやめさせよと言った言葉だったが、エミールの方はそれは承知していた。


 「わかりました。では実証実験をしましょう。手を離して下さい」

 「わかっていると思うが、扉までだ。それ以上やればどうなるかわかっているな?」

 「ちょっと待って!」


 まさか止める声が掛かるとは思っていなかったエミールは、その声の主を見た。

 彼らではもう、どうする事も出来ないからだ。

 止めたのは、リーフだった!


 「それをする前に教えて! 村の人達はどうなったの?」


 知っているのは、エミールだけ。検証が終われば、ヘリムの様に満足してすぐに元の世界に戻ってしまうかもしれない。

 リーフはふと、そう思ったのだ。


 「私の研究を手伝ってくれていた」

 「生きているって事? どこにいるの?」

 「さあな」

 「答えてよ!」


 リーフが叫ぶ。

 その中に自分の親がいるのだ!


 「教えなければ、協力をしませよ」


 アージェが、キッとしてエミールを見た。


 「この国にはいるだろう」

 「だろうって!! ちゃんと教えて!」

 「教えてやっただろう? さあ、アージェ扉を出すのだ!」

 「わかりました」


 ため息交じりでアージェが言うと、エミールは右手だけ手を解放する。


 「待って! アージェさん」

 「邪魔建てする気か?」

 「彼に手を出したら呼び出しません!!」


 剣を振るおうとしたエミールに、アージェは叫んだ。


 「だったら早くしろ!」


 エミールに急かされ、アージェは頷く。

 アージェは、右手を掲げた。


 「「いでよ! 召喚の扉!」」


 アージェの声と重なる様にもう一人の声が聞こえた!

 驚いてその人物、リーフに皆振り向いた!

 アージェとリーフの手の上に魔法陣が出現し、扉が浮かび上がった!


 「我が名はリーファー! ここに契約を願う!」


 扉が光り輝き、真ん中からかぱっと開くと、エメラルドグリーンの光が二つ見える。

 そして、ヘリムが召喚された!


 「逃がさないから! 村の人達を助ける為なら何でもする! ヘリム! お父さん達の居場所を聞き出して!」


 リーフは、エミールを指差さし叫ぶ。

 エミールが、検証をして成功しても失敗してもこのままだと聞き出せない! そう思ったリーフは、迷わなった。もうこれしかなかったのだから。

 エミールに対抗できるのは、ヘリムのみ! そう思って呼び出した!


 「よくできました! そういう訳で、教えて……」

 「邪魔するな!」


 ヘリムが話している途中で、エミールは剣を振るい、術を繰り出す!


 「おっと! こっちも魔力を回復して戻って来たのでな!」


 術をヘリムの結界で防ぐと――


 「ぐわぁ!!」


 と、エミールが突然叫んだのだった!

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