第四二話 もう一つの手段

 シリルは、うつろな目で短剣を首に向けていた。


 「な、何を!」


 オルソが驚いて、言葉を発する。


 「さてアージェ。取引といこうじゃないか」

 「え? 私に何をさせたいのです?」


 まさか、自分に取引を持ち掛けてくるとは思わなかったアージェは、顔を強張らせる。


 「まず、その魔獣に元の世界へ帰って頂け」

 「……そんな事をしても」

 「出来ないのならこの子を殺してから、私が元の世界へ帰ろう」

 「な……」

 「帰ってほしかったのだろう?」


 アージェは俯く。スクランを元の世界へ戻せば、エミールに対抗できるものがいなくなる。そうなれば、ヘリム達に襲い掛かるのは目に見えている。


 「彼を帰してもヘリム達には、近づかせない!」


 ロイが剣を抜く。続いてオルソも剣を抜いた。

 このままだと、どっちを選んでもアージェ一人に責任がいく!


 「では、彼らに近づかないと約束すれば、帰すか?」

 「え? ……わかりました」


 ちらっとシリルを見てアージェが答える。


 「アージェ待て」

 「シリルの命の方が、私には大事なのです! すみません! スクランさん!」


 オルソがアージェを止めようとするが、そう言われオルソも何も言えなくなった。助けたいのは、オルソも一緒だ。いやこの中で、一番それを願っているだろう。

 それにまた呼び出せばいい。そうアージェは思っていた。


 「わかった。健闘を祈る」


 スクランは頷く。


 「召喚の扉よ。私を元の世界へ導け!」


 スクランは、光に包まれ扉の中に消えて行った。


 「帰しましたよ。シリルを解放……」

 「では、次は扉を出現させてもらおうか」

 「……え?」


 エミールの言葉に、アージェは意味がわからず戸惑う。


 「わからないか? 別にあの魔法陣にこだわらなくともいいって事だ。シリルに召喚させようとしたが、出現しなかった。やはり確実に出来る者にさせるのがいいだろう?」


 皆一瞬、エミールの言葉が理解できなかった。

 シリルが扉を出現させれないのは、当たり前だからだ。召喚の能力は、封じられているのだから。


 「よく考えれば、この手があった。あなたが先ほど帰した魔獣スクランを先ほど召喚したのを見て気が付いた。我ながら抜けている」


 驚いてアージェはジッと、エミールを見つめる。

 エミールは、シリルが召喚の能力を封じされている事に気が付いていない。それに全員気が付いた。


 「シリル……」


 そう呼ぶ声に、ハッとする。

 見れば魔法陣に魔力を注ぐのを放棄して、リーフはアージェの隣に立っていた。


 「あなた何をしています!」


 アージェは、驚いて隣に立ったリーフに言った。


 「だって! このままじゃシリルは殺される! お願い! シリルを帰して! その役目、僕がするから。あの魔法陣を消したら僕が!」

 「何を言っているのやら。あなたは確かに、あの魔獣と契約をした。だが召喚したわけではあるまい。つまり出来るかどうかわからない」

 「え……」


 言われてみればそうだ。そんな確証はなかった。

 ただリボンの封印を解いただけだ。それでヘリムのマスターになったのだ。


 「何を言い出すのですか、あなたは!」

 「だって……」


 リーフは、ポロポロと泣き出した。

 アージェは、ギョッとする。

 やっと出会えた。だがこのままだと、自分の事を思い出さずに殺されてしまう。そう思うと、居ても立っても居られなかった。


 「泣く事はないではありませんか!」

 「リーファー……泣かないで……」

 「え?」


 気が付けば、シリルがリーフに近づき、頬に手を伸ばしていた。そしてそっと涙を拭いた。だがまだ、反対側の左手で、首にナイフを当てていた。

 その行動に、エミールも驚いている。

 アージェが、シリルの左手を掴みナイフを取り上げた!


 「本当だな。情に訴え掛けるのが一番だな。よくやった、リーフ」

 「シリル!」


 リーフは、シリルに抱き着いた。だがシリルは、何も反応を示さすただ突っ立っているだけだった。

 その傍に、にっこりしてヘリムは立っていた。魔法陣を消し終えたのだ!

 あの大きな魔法陣は、消え去っていた。


 「大人しく帰った方がいいんじゃないか? もう手札はないだろう?」

 「アージェ!」


 ヘリムがエミールに言い終わらないうちに、エミールはアージェに近づいた! オルソが叫ぶ。


 「放しなさい!」


 エミールは、アージェを捕らえた! アージェが抵抗するも力では敵わない! そして、シリルから奪ったナイフを叩き落とし、アージェの剣を取り上げた!

 アージェは、両腕を後ろで捕まれ逃れられない!


 「あなたは、私に扉を出現させたいのでしょう? だったら片手を自由にさせないと出来ませんよ!」

 「そう焦るな。まずはあの魔獣を無力化しなくてはな!」


 アージェがキッとして睨んで言うも、エミールは取り上げたアージェの剣を振るった! その剣から術を放つ。それは、佇むシリルとリーフに向かっていく!

 皆が、ハッとするもヘリムによって防がれた。ホッと胸を撫で下ろす。


 「私が扉を出現させます! ですからもう攻撃をしないでください! 攻撃す……」


 アージェが話しかけるもエミールは、またもや剣を大きく横に振るった!

 だがそれもヘリムに阻まれる!


 「無駄な事をしないで諦めろ!」

 「無駄ではない。あなたの魔力は尽きるだろう? 邪魔をしないという確証もない。魔力を消耗させておくのが一番だ」

 「それは、君も同じだろう?」


 エミールの言葉に、ヘリムはそう返すもエミールはにやっとする。

 ヘリム達は、何を企んでいると身構えた。


 「私が何をしたのか、知りたいだろう? 私も検証して、結果を早く知りたい。だから教えてやる。私は、魔力の実りと言うネックレスを作り、イサルコに提供していた。研究のサンプルだと言って、魔術師達の手に渡る様にしたのだ。その者達から少しずつ私が身に付けているブレスレットに、魔力が送られるように施した。原理は、ほぼリボンと一緒だ」


 エミールは、驚く内容を口にした!

 よく見れば、エミールが言う様に剣を持つ腕にブレスレットがあった!

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