第四一話 ガッドの宣言

 「もう、やめてくれ! 悪いのは私だ! あなたは何がしたいんだ!」


 フランクは、叫ぶ!

 どうやって情報を仕入れたかなど、別に教えてやる必要もない事なのに、エミールは素直に話した。それは、ダミアンをおとしめるためだ!


 「あの魔法陣で召喚する!」

 「召喚?」


 フランクは、エミールが指差す方向を見て、大きな魔法陣に気が付いた。

 エミールが召喚をしたいと言っていたが、これでなのかとフランクは視線をエミールに戻す。


 「どうだ? 興味が湧いただろう? この者達はこれを消そうとしている」

 「え? これを消す? どうやって?」


 フランクは、あの場にいなかった。エミールがやろうとしている事も、ヘリムがやろうとしている事も知らない。


 「あの魔獣ヘリムには、あの魔法陣の魔力が溜まっているはずだ。それを使う気だろう。だが逆にそれがあれば、あの魔獣のマスターに扉を出現させる事が出来る。そう思ってこの子を手に入れたのに……。あっちの子がマスターになってしまった」


 エミールは、ヘリムを発見した時に、リボンのからくりに気が付いていた。そこで、逆に利用しようと思いついた。

 召喚師は魔獣と契約している時点で、他の魔獣と契約が出来ないので呼び出せない。だが呼び出す側が魔獣ならどうだろうか? そうエミールは思った。試したい! と

 しかし、リボンに掛かった術の解除の仕方までは、わからなかった。だからシリルを手元に置いていたのだ。シリルが、儀式を行った事までは、知らないでいた。


 「なるほどな。何か変だとは思っていたが、魔獣が試そうとしているのなら召喚師が行うわけではないから、二重召喚にならないって事か」


 やっとしっくりきたと、ゴーチェは言った。

 ずっとエミールのマスターである召喚師が、目の前にある魔法陣で扉を出現させようとしていると、ヘリム達は思っていた。だから何となく、しっくりこなかったのだ。


 「そんな事が可能なのでしょうか?」

 「だからこそ試すのだ! 私達が出す扉は、自分が元の世界に帰る為の物。呼び出す魔法陣は作れない。だが、呼び出す魔法陣がそこにある。そもそも扉自体は出す事が出来るのだから、召喚出来る可能性があるだろう。ただその魔法陣は、少々デカすぎる。フランクが生きている間に、自分で扉を出現させる事が出来ない。だから他の者に、手助けしてもらおうと思ってな」


 ウリッセの問いに、エミールが自論で答えた。


 「それを試してみたくて、シリルやリーフを狙ったのですか!」

 「あなただって同じはずだ。試してみたい。自分なら出来るそう思って、召喚を試みたのだろう? 誰もが出来ないと思っていた中、やり遂げた! 私もその達成感を味わってみたいものだ」

 「あなたと一緒に、しないでほしいですね……」


 アージェは、エミールを睨みつつ剣を抜いた。


 「何が違うと言うのか。勝手に試そうとしたことか? なら、お願いしたら試させてくれたとでもいうのか? フランクにさえさせなかったのに!」

 「もうその口を閉じなさい!」


 アージェは、エミールに斬りかかって行く!

 剣を振り下ろす直前に、エミールの盾になる様にシリルが出て来た! ハッとしてアージェが動きを止めると、エミールはすかさず、風の刃を放った!

 アージェは、咄嗟に反応できず、交わす事も剣で弾き返す事もできない!


 「アージェ!」


 危ないと、フランクが叫ぶ。

 アージェは、風の刃で切り刻まれなかった! スクランがギリギリ、結界を張ったのだ!

 皆が安堵する。


 「アージェ、落ち着け! 相手のペースに乗せられるな!」


 ゴーチェが叫ぶ。


 「……確かに私は、召喚に興味がありました。試したいと思いお願いをしました。あの時は、私は幼かった。だから、召喚が成功すれば、騎士としてだけではなく召喚師として、国の役に立てると思っておりました! まさか、この魔法陣を消す為に作られたシステムだとは知らなかったから!!」


 最後は叫ぶように、アージェは語る。これは、アージェの本心だった。

 使えるのに使わせてもらえないなんて、そんな理不尽なと思っていた。だが、そういう決まりなのだから仕方がないと諦めていた。

 だが魔法陣の話を聞き、納得出来なかった!

 そこをエミールに突かれたのだ!


 「なのでこんな茶番、今日で終わらせます! この魔法陣さえ消滅すれば……」

 「召喚をさせてもらえると思っているのか? 違うだろう。召喚して魔獣を呼び出す事自体を禁じているのだから」

 「っく……」


 アージェは、エミールに言い返せない。

 魔法陣を消滅させた所でエミールが言う様に、召喚を自由にさせてもらえるとは、アージェも思ってはいなかった。

 こうやって戦ってみせても認めてはもらえない。


 アージェは、剣を下ろした。


 「わかったようだな。それに魔法陣を消すというのなら、発動させても消せる」

 「……それでは何の為に、召喚か魔術の片方を封じたのか意味がなくなるではありませんか。私だって出来れば、魔術を使えるままでいたかった……」


 俯いてアージェは、弱弱しくエミールに返した。

 それはこの場にいる、全員が思うところだ。


 「エミール。そこまでにして頂こうか……」


 そう言いながら、ガッドが前に出て来た。


 「出来るのだから役立てたい。そう思うのは自然だ。アージェもフランクも間違ってはいない。私達の祖先が、やり方を間違えた。悪意ある者が出ない様に、律すればよかったのだ。この魔法陣を消した後は、召喚師を復活させる!」


 ガッドがそう言い切り、ジロリとエミールを見た。


 「あぁなるほど、彼を使って時間稼ぎをしておりましたか」

 「え?」


 エミールの言葉に、アージェは振り向いた。

 ヘリムにダミアン、そしてリーフの姿が見当たらない。


 「準備が整った」


 見えないヘリムの声が聞こえた。

 それは、オルソ達の後ろからだ。ヘリム達が立ち上がり姿が見えた。

 ヘリム達は、魔法陣を消す作業に取り掛かっていた!

 それを悟られない様に、オルソ達で隠していたのだ。勿論、アージェは知らずにいた。


 「私がアージェを貶めようとしている間に、そんな小細工をしてたか! まあ、その子リーフを手に入れ損ねた時から半々だと思っていたが……」


 エミールは、ヘリムのマスターであるリーフを捕らえるのに失敗した時から、自分の願いがかなえられないかもしれないとは、思っていたようだ。

 だがエミールからすれば、面白くない!


 「もう諦めて、元の世界へ帰れ!」


 フランクが叫ぶ。


 「残念だが、私は諦めが悪い」


 そう言うとエミールは、シリルを見た。彼はいつの間にか、短剣を自分の首に突きつけていた!

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