第四〇話 言葉巧みな魔獣
あまりにも驚く内容に、ガッド達はどこから問い詰めていいのかわからなかった。
「十年以上も私達を騙していたのか! 何故、私に話さなかった! 話してくれさえいれば……」
「ダミアンさん。落ち着て」
ウリッセがダミアンに言う。
「言いたくとも言えなかったのでしょう。あなたの親友が魔獣のせいで危ない目になった。彼自身でどうにかしたいと思った所で、王都からは出られない。何も出来なかった! 何も出来ない。無力だと感じるのは、つらいものです……」
ウリッセはそう語る。
たぶん、自分の子供が亡くなった時の事と、重ねているのだろう。
「ほう。あの時、あなたの娘が死んでいてもそう言えたのかな?」
エミールの言葉に、ウリッセは驚いた顔を見せた。そう綺麗ごとだ。あの時、娘のナディアが死んでいれば、この場で罵っていただろう。
「あなたは一体何をしたいんだ?」
ゴーチェは、苛立ち聞いた。
フランクが死ねば、エミールは力を失い、我々に最悪殺されるかもしれないと言うのに、ウリッセを煽るような言葉を掛けた。
「もうやめてくれ! もっと早く覚悟を決めていれば、色々と食い止められたかもしれない!」
フランクは剣を抜いた!
もう懺悔して、知っている事は全てはなした。後は自分が死んで、エミールをどうにかしてもらうしかない!
もう方法はこれしかないのだ!
「父さん! 後を頼みます!」
剣で自害しようと、体に力を込めるもフランクは、引く事も押す事も出来なかった!
「いいのか止めてしまって?」
エミールは、ワザとらしくダミアンに問う。
ダミアンは、フランクに手を伸ばしていた! 自害しようとするフランクの動きを術で封じ、動けなくしたのだ!
「陛下申し訳ありません。バカな息子でも私にとっては、大切な息子なのです……」
手はそのままに、ダミアンは頭を下げて、ガッドに許しを請う。
皆、何も言えなかった。ダミアンの気持ちは痛い程わかった。
「わかった。こうなったのは、我々にも責任がある。頭ごなしにしてしまったからな」
「甘いな。私を倒すチャンスだったのに」
エミールは、これで自分を倒せなくなったと言わんばかりだ!
「甘いか? わかってないな。今回は、二対一なんだが?」
「数でごり押しか? わかってないのは、あなたの方だ。人間には、情で訴えた方が効果がある。今だって、チャンスを棒に振っただろう?」
今の言葉で何故自分の名前を教え、フランクをマスターだと暴露したかわかった。最初からこれを狙っていたのだ!
作戦は、エミールが登場した時から始まっていた!
もう怒りでフランクを殺そうとする者も、フランクが自分で死ぬ事もない。それを回避させたのだ!
「なんて卑劣なやり方を!」
アージェは、睨みながらエミールに叫んだ!
「卑劣? 策士と言ってほしいものだな」
「何が策士だ! シリルを人質に取っておいて!」
今度はオルソが叫ぶ。
「人質? 彼は保険だ」
「同じ事だろう!」
「ヘリムさん! 私とスクランさんで何とかしますので、さっさと魔法陣を消して下さい!」
「それは構わないが、シリルは殺される事になる……」
アージェが言うと、ヘリムは恐ろしい返答を返した!
「エミールは多分、何パターンか作戦を考えていて、その一つの作戦に彼が必要だから連れて来た。それは勿論、この魔法陣に関係あるだろう。すなわち、魔法陣が消えれば、シリルもお役目ゴメンって事だろう」
そんなに事細かく説明しなくてもわかるとアージェは思うも頷く。
「え! そうなの! ヘリムどうにかならない!?」
リーフ一人、今の説明でシリルが危ないとわかったようだった。
「それもそうだが、あのエミールはどうやって情報を手にしていたのだ? フランクは話していないのだろう? 他に協力者でもいるのか? しかし、村を襲うタイミングが、何か作戦があってではないかぎり、二人の会話を聞いたとしか思えない!」
ゴーチェが、何かしっくりこないと言った。
フランクの話からよると、孫が村にいると知っていたのは、オルソとダミアンだ。そして、襲われる当日に、ガッドとフランクが知った。
フランクが嘘を言っていないのであれば、どこかで聞き耳を立てていたという事になるが、そもそもそういう事があると思っていなければしない事だ。
はっきり言って、孫がいたのは予想だに出来ない事だった。だとしたら何の為にその行為をしていたのか?
それともただの偶然聞いてしまったのか?
そこにゴーチェは、引っかかっていた。
「まあ私特有のものだからな。私はマスターの声が聞こえる。どこに居ようとも呟きさえもな」
それには、フランクも驚いていた!
相手の声が聞こえなくともフランクが話す言葉で、ある程度把握出来た。エミールには、筒抜けだった事になる。
「なるほど。全ては聞く事が出来なくとも、情報は手に入っていたということか……」
ゴーチェがそう言うと、リーフはチラッとヘリムを見た。
彼にはどういう能力があるのか気になったからだ!
声が筒抜けなのは、エミールの能力だと本人が言っているし、ヘリムが持っているのならば、気づいただろう。
「うん? もしかして俺の能力は何だろうとか思っているのか?」
リーフがジッと、ヘリムを見ていたので彼は聞いた。
「あ、えーと……」
「君は一度体験しているというに。人の記憶覗ける」
「え!?」
そう言えばと、リーフは思い出した。
ヘリムが一緒に見たのではなく、逆だったのだ! 記憶を見せてくれたのではなく、ヘリムが覗いた記憶を共有した。そう言う事だったのだ!
「魔獣と言うのは、嫌な能力を持っているのですね……」
ウリッセがぼそりと言う。
「どうしたダミアン? 顔色が悪いな」
自分が話したせいで、村は襲われた! エミールに情報を与えたのは自分だった!
ダミアンはそう思うと、オルソを直視出来ない。
「すまない。オルソ……」
「ダ、ダミアンのせいではない。
「随分と言葉巧みな魔獣だ。こんな者に初めて会った」
スクランは、感心するように言った。
「何を感心して! あの魔獣のせいで士気が落ちてます!」
アージェが、ムッとしてスクランに言った。彼の言う通り、闘争心が削がれていた。
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