第三九話 遅すぎた懺悔

 ダミアンが家に帰って来たのは、夜中だった。

 それもひどく疲れた様子だ。


 「何かあったのですか?」

 「たぶん、知れる事だろうから言っておこう。オルソの孫がいた村が、焼き野原になっていた! そこに住んでいた者達の姿もなかった……」

 「え!? どういう事ですか?」

 「わからない! 誰もいなかった! 応援を呼んで消火活動をして、村人を探した! チェチーリアさんもオルソの孫も消え去った! 陛下も困り果てていた。儀式をしていない召喚師がいなくなったんだからな。前代未聞だ」


 はあぁっと、大きなため息をついて、ダミアンは言った。

 フランクは、それを聞いてごくりと唾を飲み込んだ。

 まさかエミールがやったのでは? と、頭によぎる。


 エミールは、召喚に興味を持っていた。オルソの孫で儀式を行ってないのなら召喚師の能力がある。しかも十歳なら色々そそのかせて、出来るだろう。

 しかしそれをどうやって知ったかだった。

 フランクも今日、聞いた話しだ!


 しかし、ふと思う。

 もっと早くから知っていれば、今日襲う事はないだろう。だったとしたらどこかで聞いていた?

 そう思うとフランクは、バッと辺りを探る。

 彼は、この部屋に入った事がある。何か術を施して行ったのかもしれない。

 自分のせいで、オルソの孫は連れ去られた!

 フランクはどうしていいかわからなくなる。

 エミールじゃないかもしれない。しかしタイミングが良すぎる。

 あれこれ考えても、フランクには確かめようがなかった。出来る事と言えば、ここでは大切な話はしない事だった。


 予想よりアージェは衝撃を受けた様で、笑わなくなりオルソにも近づかなくなった。

 フランクには、アージェの事もどうする事も出来なかった。そして、アージェが騎士団に入団すると、直ぐに研究員になった。

 それから研究に没頭するようになる。


 そして数年後、何も出来ずにいたフランクに、驚くような事をダミアンが口にした。

 研究室で研究をしている時だった。

 二人っきりになった時に、ボソッといったのだ。


 「今頃オルソは、チェチーリアさんに会っているんだろうな」


 そう言ってほほ笑んだのだ!


 「今なんと?」

 「実は連絡が来たのだ。孫の魔術師証を取得しに、孫と一緒に来ているはずなんだ」


 フランクが聞くと、ダミアンは嬉しそうに返して来た。

 生きていた! フランクは、どっと力が抜ける。連れ出されたわけでも殺されたわけでもなかった! 無事だったのだ!


 「今頃、アージェとも対面しているだろう」

 「アージェとですか? オルソさんも嬉しいでしょうね。孫同士が仲良くしてくれれうば、今までの事も報われる」


 ダミアンは頷く。

 そう言えば、アージェは珍しく休みをとっていた。


 「これで二人の関係が戻るといいですね」

 「そうだな。アージェも大人になったし、嫌ではなさそうだったので、大丈夫だろう」


 だが、信じられない事が起きた!

 オルソの孫とチェチーリアが襲われ、また姿を消したのだ!

 今回も森が燃やされた! しかも目撃情報があり、魔術師の様だったとの事だった!

 魔術師が、森を燃やすなどあり得ない! 確実にエミールだとフランクは確信する。

 何とかして探し出さなければと、フランクは情報を集めるが何も手がかりを得られなかった。

 オルソもアージェも暫くは、元気がなかった。

 そして何を思ったのか、アージェはその後、一人で研究を始めたのだった。


 それから二年、フランクの気が休まる日はなかった。

 そこに驚く話を聞く。アージェの所に魔獣かも知れない犬の依頼が舞い込む。まさかエミールがと思ったが、全くの別人だった。

 しかもヘリムは本物の魔獣で、リーフは召喚師だと言う。

 兎に角ヘリムは逃がしてはならない。そう思っていた矢先に、シリルが襲ってきた!


 そして、オルソの反応を見て、シリルは孫だと思った!

 エミールが近くにいる! 居ても立っても居られなかったフランクは、見えた影を追った!


 「いるんだろう! 出て来い」


 返事は帰って来た。声ではなく炎で!

 その炎は、フランクの左手に直撃した!


 「ぐあぁ!」


 フランクは地面を転がり、何とか左手の炎消した。

 まさか襲われるとは、フランクは思わなかった。自分が死ねば、エミールは力を失う。でも動けなくなる怪我でも生きていれば、エミールは活動出来る。


 「フランクさん!」


 一瞬気を失っていたのか、ハッとするとアージェが近寄って来る。


 「っつ……大丈夫だ」

 「大丈夫ってそれ!」

 「油断した……」

 「立てますか?」

 「すまない」


 アージェに支えながらオルソ達のところに戻った。

 そして、騎士団の館で捕らえておくも、ヘリムは逃げ出し、そのマスターはリーフだと聞いて、エミールには狙われないと安堵していると、突然姿を現した!


 そして剣の存在を知っていて、奪って行った!

 知っていたならこんな方法を取らずとも、自分から奪えたはずだ。そう思うと悔しさが込み上げて来た!


 しかしこれによって、エミールのマスターなのではないかと勘繰られ、追い詰められる。本当の事を言いたいが、情けない事に言えなかった。

 声が震えて出なかった!

 隠した時間が長すぎた! 十年以上隠して来た。この年月があれば、それこそ何か対策を取れたかもしれない! 今更だった。

 しかもエミールの対策の為に作った剣が、相手側に渡ったのだ。その剣でヘリムを襲った! もうどうしていいかわからなかった!


 そしてとうとう仕掛けて来た!

 父親であるダミアンの魔術を封じ、ヘリムを倒しリーフを手に入れようとしている!

 もうダメだ! 彼を止めるには死ぬしかない!

 そう思った時だった! 何故かエミールは、フランクに攻撃を仕掛けて来た!

 咄嗟に剣で防ごうとするも、全く歯が立たない!


 自分を殺そうとしている?

 フランクは何が起きているかわからなかった。殺せば力を失うと言っていたのに……。そう思いつつ、気が遠くなり闇に落ちて行った。


 気が付けばベットの上。生きている。死ねなかった……。

 フランクはもう、生きているのも辛かった。逃げだとわかっていてもあの時に死にたかった!

 あの後どうなったのかすらわからない。


 「フランク。起きたか? さあ、行こう。やっとこの時が来た」


 声を掛けて来たのは、エミールだった。平然として目の前に現れたのだ!

 ガバッとフランクは起き上がった。


 「ちゃんと癒してもらったようだな。あの王子には感謝せねばな」

 「よくも! のこのこと! え!? ロイ王子?」

 「さあ、三人でお礼をしに行こうではないか」


 ハッとする。シリルが傍に立っていた!


 「何をする気だ! 彼を開放しろ!」

 「何をする気かは、ついてくればわかる。それにこの子は保険だ。事が済めば開放する」


 止めようにも無理なのもわかっている。そしてこのまま自分が死んでも、自分がマスターだった事は伝えられない。せめてエミールの目的を明らかにし、出来れば自分がマスターだった事を告げた上で死のうと思った。

 そうすれば、弱くなったエミールを仕留める事が出来るかもしれない!


 そう思いついていくと、思わぬ所に連れて行かれた。

 城の地下だ! 扉まで来ると地下から話し声が聞こえる。

 見ればダミアンもいる! 皆に懺悔すると決めたのに、足がすくんで動かない。


 「どうした? 動けないか? では、私が呼ぶまでそこにいるがいい」


 そう言うとエミールは、シリルを連れて地下に入って行った!

 そして、自分から言おうと思っていた事をエミールは、次々と話し出す!

 耐えられない! この場から逃げ出したい!

 そう思ってもまたもや、すくんだ足は動かなかった!

 エミールは、アージェをおとしめようとする。もう誰も傷つけて欲しくなった!

 だからフランクは、事の結末を話し出したのだった――。

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