第三八話 対策
「さて、あなたには協力を得られないようだし、私は勝手にさせてもらう」
「何を言っている! そんな事はさせない!」
フランクは、剣を抜いた。
それを見たエミールは、深いため息をつく。
「そんななまくらで、私をいくら傷つけても無駄だ。私達は、治癒力が高い。わかりやすく言うと、戦闘向きだ。わかるか? あなたには、万が一にも勝ち目はない! どうしても止めたいと言うのなら方法はある。私達は、マスターが居なくなれば、この世界の普通の人間と同じぐらい弱くなる」
ニヤッとしてエミールはそう告げた。
エミールが言う方法とは、フランクの死を意味するものだ。だが彼は、弱くなるだけで、向こうの世界には戻るとは言わなかった。
フランクは、もう自分ではどうする事も出来ない。そう悟った。
エミールが姿を消した後、フランクは騎士団長に面会した。
素直に話そうと思ったからだ。今はそれしか思いつかなかった。
「で、何だ? 私も忙しい身なんでな」
「無理言ってすみません。その……魔獣の事で相談が……」
そうフランクが切り出すと、団長は大きなため息をつく。
「まだ諦めてないのか? お前には無理だ!」
「え!?」
「出来ると思っていたのか? 陛下さえお出来にならない事を? よく考えろ!」
よく考えろって言われてもそれは納得できなかった。
目の前でアージェが召喚したのをガッドも団長も見ている。しかもフランクも召喚できたのだ!
「何故私が出来ないと断言するのですか! ベランジェが出来たのに、私には出来ないと?!」
「彼は特別だろう。魔術も武術もそつなくこなす。それに幼いので無垢で雑念がなかったのだろう? つまり偶然。まぐれ! 二度と起こらない。わかったか!」
「あなたは団長なのに、召喚出来ると思っていなかったのですか? 万が一にも可能性があるとか考えた事はないのですか!?」
フランクは、召喚を否定された事も、自分が否定された事にも怒りを感じた!
召喚師を選んでおきながら、真っ向から否定するのにも驚いていた。
「なかったな」
「なかったって……。ではなぜ、召喚師を選んだのですか?」
「私は兄弟の中で、一番魔術の出来が悪くてな。だから騎士を選んだ。どうせなら団長になって見返してやろうと思ってな」
「そんな、理由で……」
まさかそんな個人的な理由で、団長にまでなったとは、フランクは思いつきもしなかった。
団長になるぐらいなのだから、誇りを持っていると思っていたのだ。
「私欲でトップを目指して何が悪い! 召喚師を選べば、王都に缶詰だ! 結婚だって好きな者と出来ない事が多いと聞いていた! 犠牲を払ってまでこっちを選んだんだ! まあ、子供の頃にそこまでは、考えてはいなかったがな」
団長がフランクに近づき、肩にポンと手を乗せた。
「フランク。君だってあの時、魔獣を見て焦っていただろう? もし対策を立てずにほいほい召喚したらどうなる? 文献によれば我々じゃ敵わない相手らしい。マスターがしっかりしていないと、大変な事になるのは目に見えている。ベランジェの様な幼い子が、召喚して大丈夫だと思うか?」
「だったら……だったら対策を立てましょう!」
自分には召喚出来ないと言われ、腹を立ててここに来た目的を忘れていたが、今の団長の言葉で思い出す。
団長が言う事はもっともだった。身に染みてわかっていた。
そして、もう今更召喚してしまったとは、言えなかった!
「対策だと? ほう。何か案でもあるのか?」
「魔獣は治癒力が高いらしい。だからそれにも勝る剣を作ってはどうでしょうか?」
「治癒力が高い? それはどの文献に載っていた?」
「えっと。それは……」
「まあいい。騎士の我々が出来そうな事と言えば、それだからな。一応、陛下に進言しておこう」
「ありがとうございます」
そして、この提案がまさかで通った!
アージェが魔獣を呼び出した為、対策が必要だと思っていたのだろう。対策の一つとして、研究する事となる。
元々、魔術に対抗する剣は開発されていた。その延長線の様なものだ。
これは提案したフランクとダミアンが中心となり、元召喚師も含め、召喚師の事を知っている者達で、チームを作り研究を行う運びとなった。
そして、エミールを召喚してから五年の月日が経った。
エミールを召喚した事を忘れそうな程、エミールからは音沙汰もなく、安堵し始めていた。
ただ何をしてるかは、気になっていた。
そんな時、またダミアンがオルソと王都を出ると聞いた。
「実は今日、オルソの孫を迎えに行ってくる」
「は? 孫ですか? アージェですか?」
「いや。別の者だ」
フランクは、ダミアンが言っている意味がわからなかった。オルソにアージェ以外の孫がいるとは聞いた事がない。オルソの子供は一人娘で、魔術師になりその子供もアージェ一人。
「まあ、何と言うか。昔付き合っていた彼女がコッソリと生み落としていた息子がいてな。その子供だ」
「はぁ? 隠し子ですか!」
驚きの事実だった!
オルソとは、ダミアンと幼馴染の事もあって、仲良くしてもらっていた。とてもそんな事をするようには、見えなかった。
「勘違いするなよ? チェチーリアさんに子供が死ぬから会いに来てほしいと言われるまで、知らなかったのだ。そしてその時に、孫の存在も知った」
「チェチーリアさんですか……? で、何故いきなりそんな凄い話を私に話して聞かせるんです?」
きっと二人の秘密の話だろうと察しはついた。
だがそれを自分に話す意味がわからない。愚痴でもなく、相談でもなく、突然の暴露。
「その子は、これから王都に連れて来て、儀式を行う予定だ。そうなれば、オルソの家族に知れるだろう。それはオルソもわかっている。だから連れて来たら、アージェに紹介するそうだ」
「儀式ですか……? では十歳なのですか?」
「あぁ。そうだ。いや、私が言いたいのは、アージェのケアを頼みたいと思ってな。突然外から孫が現れたら、流石のアージェもな……」
アージェは、実年齢よりずっとしっかりしていた。それに、オルソを慕っていた。かなり衝撃を受ける事だろう。
先にフランクに伝えたのは、もし万が一噂で聞いてよりは、ちゃんとした事実を知って、アージェを支えてほしかったからだ。
「わかりました。私に出来る事はします。で、父さんは、大丈夫なんですか? たぶんそれ、陛下もご存知ない事では、ないんですか?」
「大丈夫だ。今オルソが、陛下にお伝えしている所だ。まあ彼もひと悶着あったからな。それよりお前は、いつまで独身でいるつもりだ? もう29だろうに……。ことごとく断るから、私の立場も……」
「あぁ! ほら早く行った方がいいんじゃないですか!」
フランクは、慌てて話を変える。
あれから五年、陛下から見合いの話があったもののフランクは全て断っていた。結婚など出来るはずもなかった。
魔獣がもし何か起こせば、家族にも迷惑がかかる。そう思うと、新たな家族を作る事など出来ない。
そんな事は知らないダミアンは、断る度にぐちぐち言っていた。なので研究が好きなんだと、いつも言い訳をしていたのだ。
そして、フランクが恐れていた事が、これから次々と起こる事になったのだった――。
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