第三一話 魔獣召喚
アージェとオルソは、唇をかみしめる。
まさかヘリムがやられ、リーフが捕らわれるとは思ってもみなかった。
「オルソさん、かなり好ましくない状況です。もしかするとリーフがリーファーだとバレているのではないでしょうか?」
「気づいていたのか……」
「昨日、部屋を訪ねた時に伺いました。そんな事より、もしそうだとすると何とかしないといけません。あの魔術師はきっと、二回とも目的を達成していたのでしょう。そして今回は、リーフを手に入れる事が目的ならそれを阻止しないと!」
「それはそうだが……」
オルソもアージェに言われなくともリーフを助け出さなくてはいけない事はわかっていた。
何が目的かわからないが、やはりリーフも狙っていたのだ!
ずっとヘリムが狙いだと思っていたので油断していた。
「俺達が攻撃を仕掛けに出たところで、近づけもしないだろうな……」
悔しそうにオルソは言う。
オルソ達も気が付いた。ダミアンが術を封じられている事を。
だったら二人は、浮く事が出来ない!
宙に逃げられれば終わりだ!
「フランクさん! ダミアンさん!」
二人を呼ぶ声に驚いて皆、振り向いた!
ヘリムが開けた五階の穴からウリッセが顔を覗かせていた!
「今、そちらへ向かいます!」
「気を付けろ! 魔法陣に触れたら術が封じられる!」
ダミアンが叫ぶ。
どうやって術を封じられたか三人はわかった。
ウリッセは頷くと、壁を伝う様に地面の向かう。
「っち」
「……っや」
魔術師は舌打ちすると、リーフに手を伸ばす。
「お待ちなさい!」
アージェは、慌てて走り出した!
そんな事をしても間に合わないのは、わかっている! だが走り出していた。
チラッと魔術師はアージェを見るも何故か、ダミアン達に向かって術を繰り出した!
「え!?」
驚いてアージェは振り向いた。
フランクは剣を構える! そこに氷の刃が降り注ぐ!
今フランクが持っている剣は、魔法を跳ね返すだけの剣だ。魔獣対応の剣に予備はない。だがそれでも、術は跳ね返せるはずだった。だが、まるで効果がない!
フランクは、それでもダミアンの盾になった!
「くっ……」
「フランク!」
ダミアンを庇う様に立ったフランクに、ダミアンが叫ぶ!
「フランクさん!」
結界が届く範囲に来たウリッセが、二人に結界を張った!
だが一瞬で破られた!
「え!?」
ウリッセが驚く。
前回の術の時は、リーフが張った結界は壊されなかった!
また剣で受け止めた三人も、かすり傷程度だった!
手加減していたのかと驚くもウリッセは張り直す。
だがフランクは、その場に崩れ落ち倒れた!
「フランク!」
ダミアンは、慌てて駆け寄った!
声を掛けるが、フランクは反応を示さない!
「許しません!」
魔術師が、ハッとしてアージェを見る。
アージェは、左手を開き空に向かって伸ばしていた。
「いでよ! 召喚の扉!」
「アージェ! 待て!」
アージェの手の上に魔法陣が出現し、そこに門のような扉が浮かび上がった!
オルソが驚いて止めるもアージェは続ける。
「我が名はベランジェ! ここに契約を願う!」
扉が光り輝き、真ん中からかぱっと開くと、エメラルドグリーンの光が二つ見える。それは魔獣の瞳だった!
扉からは、長い黒髪に黒いローブの男が出現した!
(あれが召喚……)
リーフは、凝視して見ていた。
ハッとして魔術師は、アージェに向けて術を放つ。だがそれは寸前で弾かれた!
「来て早々、えらい歓迎だな」
「申し訳ありませんが、サポートをお願いします」
黒髪の魔獣が術を防いだのだ!
アージェは、魔術師を睨み付け剣を握りしめ走り出す!
それを見た魔術師は、スッと空中に浮いた。
アージェも黒髪の魔獣と共に浮いて、魔術師に向かう。
魔術師は、アージェに術を放つも彼は気にせずに、そのまま突き進む。魔術師の攻撃は、アージェに届かない!
黒髪の魔獣が張った結界で、弾き飛ばされていた!
アージェは、魔術師に剣を振るう。それを魔術師は、剣で受け止めた。
「剣で私に敵う訳ないでしょう! 観念しなさい!」
リーフは、三人を見上げていた。
人数で言えばリーフ達の方が有利なのに、魔獣であるヘリムがやられ、まったく歯が立たなかった。だが魔獣を呼び出しただけで形勢逆転した!
魔術師の術は、黒髪の魔獣の結界で阻まれ、剣などアージェに敵うわけもなく、今度は魔術師が押されていた!
アージェが持つ剣も魔獣に有効な剣だ! 魔術師の顔に余裕はなくなっていた。
と、大きく間合いを取ったと思ったら手にしていた剣を魔術師は投げた!
驚いてアージェが振り向く。
剣はダミアン達の方角に向かっていた!
いや違う! ダミアン達に向かっていたロイに向けてだった!
事に気づいたのか、ロイはいつの間にか駆けつけていた!
「ロイ王子!」
アージェは叫ぶ!
ロイは驚くも剣を抜き、投げつけられた剣を弾き飛ばす! 魔術師が投げたフランクの剣はその拍子に真っ二つになった!
安堵してアージェが振り向けば、魔術師の姿はなかった!
「逃げられましたか……」
ため息交じりにアージェは呟く。
スッとアージェは、下に居たリーフの元に降りる。
「怪我はありませんか?」
リーフは、こくんと頷く。
「でも、ヘリムが……」
「どれ、気を失っているだけのようだな」
黒髪の魔獣が、ヘリムに触れるとそう言った。
切られた傷は、既に血が止まっていた。人間と違い治癒力が高い様だ。
「そうですか。取りあえず、気を失っているだけなら問題はありませんね」
アージェは、ポケットからリボンを取り出すと、ヘリムの首に巻いた。ヘリムは一瞬で犬の姿になった。
それをアージェは、抱きかかえる。この方が運ぶのが楽だからだ。
リーフは、リボンを持ち歩いていたのかと驚いた。
「殿下! お願いします。息子を助けて下さい!」
(え? 息子!?)
ダミアンの言葉にリーフは驚いた。
アージェとリーフもダミアン達の所に向かう。
「大丈夫だ。何とかする」
ロイはそう言うと片膝をつき、横たわるフランクの体に右手を当てスライドさせた。
「まずいな……」
ロイはボソッと呟くと、着いたばかりのリーフに振り向く。
「リーフ、手伝え。君も治癒が出来ると聞いた」
「え?! でも僕は……」
「つべこべ言うな! やらないとフランクが死ぬぞ!」
「わ、わかりました……」
青ざめ震えた声で、リーフは頷いた。
ダミアンは、顔面蒼白だ。
息子のフランクが自分を庇い、死ぬかもしれないからだ!
「私が治療する。急激に治すので心臓に負担がかからないように、君は心臓をケアしてくれ」
「はい……」
言われた通りリーフは、右手に左手を置きフランクの心臓当たりに手を置いた。
微かだが、フランクの心臓が動いているのがわかる。
「準備できました」
「では始める」
ロイは、足の方からリーフの様に右手の上に左手を重ね、スライドして治癒していく。
出血は止まり傷も塞がって行く。
「よし終わった」
そのロイの言葉に、皆安堵する。
ロイは、ふうっと息を吐き出した。
「アージェ……」
振り向いたロイがアージェを呼んだ。
アージェは、ハッとする。魔獣を呼び出した事を思い出した。
「ありがとう。助かった。まさか私もこんな事になるとは思わなくて。皆もすまない」
立ち上がったロイは、意外な事を言った。
アージェ達は、何を謝られたのかわからなかった。
「兎に角城へ入りましょう」
そう言うとウリッセは、ひょいとフランクを抱き上げた。
浮遊の術を掛けたのだ。
リーフ達は、朝日を見ながら城へと戻った。
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