第三〇話 魔術師の正体
リーフが目を開けると天井が見えた。
夢を見たようだ。心臓はバクバクと高まり、手が小刻みにまだ震えている。
(夢? いや、昔の記憶だ!)
チェチーリアに会いたい! 両親の事を知りたい! そして、思い出を思い出したい! そう思いつつ眠りについた。
リーフは、ゆっくりと体を起こす。
両親の顔も村人達の事も思い出した!
オルソとチェチーリアが言っていた山火事は、この日の事だろう。
リーフは、全て思い出したのだ!
(今、皆はどうしているだろう? 助かった? でも……)
あの後、落ち合う場所には誰も現れなかった。
思い出した七年前の魔術師は、二年前に襲ってきた魔術師と同一人物だろう。同じ紫色の髪だった。
(僕があの魔術師に、おばあちゃんの孫だと明かしたんだ……)
チェチーリアの孫だと魔術師に教えてしまったのが自分だと、リーフはそう思うと涙が溢れて来た。
それは仕方がない事だった。ただ最初に会ったのがリーフだったというだけで、子供はリーフとシリルしかいなく、すぐにわかった事だ。
(風にあたりたい)
リーフはそう思うと涙を拭き、扉へ向かう。
部屋に窓はない。廊下の突き当りに窓があったと思い出し、そこへ向かう。
皆寝ているのか廊下は静かだ。そっと窓に向かう。
外は白みかかっていた。夜明けだ。
窓を開けようとするが、この窓はフィックス窓で、固定されていて開けられない。
一階の出入り口から外に出るという方法もなくはない。だがまだ夜が明けきる前。止めれるかもしれない。それに今は、誰にも会いたくなかった。
(少しだけ……)
右手を窓にピタッとくっつけた。
城には二重に結界が張ってある。一つは敷地ごと囲っている大きな結界。そして、城の建物自体に施された結界だ。
建物自体に施された結界は、結界と一緒に物体も歪ませる事がリーフには出来た。そのお蔭で、ボシェロ家の離れも穴を開ける事が出き、ヘリムを連れだせた。
その術で、風を通す為に窓を歪ませようとした時だった。
「何をする気だ?」
その声にビクッと肩を震わす。
リーフは、声がした後ろにそっと振り返った。そこに立っていたのは、厳しい顔つきのダミアンだ。
「あ、えーと……」
「まさかと思うが、そこから逃げようとしているのか?」
リーフは、慌てて首を振る。
確かに結界に穴を開けようと思ったが、逃げる為ではない。だが今のリーフの行動を見れば、そう思われても仕方がない。
「す、すみません。風にあたりたくて窓を開けようかと思ったんです。でも開かない窓でした……」
本当の事だ。だが穴を開けて風を通そうとしていた。その前でよかったとリーフは思う。穴を開けていたならば、この言い訳は通用しないだろう。
「だったらあの時の様に、穴を開ければいいのではないか。君ならそれぐらい簡単に出来るだろう?」
突然現れたヘリムに、二人は驚く。スッと現れ余計な事を言った!
「あの時?」
そしてダミアンは、何をしたんだという目つきでリーフを見た。
「べ、別に何もしていません!」
リーフは慌てた。
不法侵入の様な事をした挙句、建物に穴を開けて犬だったヘリムを連れ出したなどと言えない。
この事は、アージェにも言っていない事だ。
「風にあたりたいんだろう?」
そう言ってヘリムは、窓に手をかざす。
ギョッとするリーフの横で、ヘリムは窓一枚分の穴を開けた。
結界に穴を開ける行為は、結界を壊すより難しい。結界を得意とする魔術師でなければ、物体ごと穴を開ける事はそうやすやすと出来ない。
リーフも開ける事は出来るが、長い間は無理だし大きさも犬だったヘリムが通れる大きさぐらいまでだ。
なのでリーフは、唖然としていた。
「さすが魔獣と言ったところか」
ダミアンも関心する。
「どうせなら、外であたったらどうだ」
城は高台に建っている。そしてその建物の五階なので、結構風が強く短い髪を揺らす程なのに、そう言ったヘリムはリーフを抱き上げた!
お姫様抱っこされたリーフは、驚きで固まった。
それを肯定と取ったのか、そのままヘリムは開けた穴から外へ飛び立つ。
「待ちなさい!」
予想だにしていない行動に、ダミアンは慌てて二人を追う。
穴から出て少しの所でヘリムは止まった。その横にダミアンも並ぶ。
そっして三人は、ジッと前を見つめた。そこにはあの魔術師が立っていた!
「どうやって敷地内に入った……」
驚いてダミアンは呟く。
サーッと強い風が吹いた。魔術師のローブはめくりあがり、顔が露わになる!
七年前と同じ紫色の髪の魔術師だった!
リーフは、ギュッとヘリムの胸元の服を掴む。
魔術師は、ニヤッとすると左手を振った!
リーフがビクッとするも何も起こらない。いや、自分達の目の前に、微かに魔法陣が見える。
シリルに襲われた時と一緒で、トラップ仕掛けられたのだ!
「この魔法陣に触れるなよ」
ヘリムがボソッと呟くと、ダミアンは魔術師を見つめたまま頷く。
「一旦、城の中に戻りまし……うわ!」
ダミアンがそう言いながら一歩後ろに下がった時だった。突然ダミアンが落下した!
魔術師の方を見たまま目を離さずに下がった為、前だけではなく後ろにもトラップが設置してあったのに気づかなかったのだ!
フランクと違いダミアンは魔術師だ。慌てて浮遊を掛け直すが、発動しない!
「これは魔封じか!」
その言葉が言い終わらないうちにヘリムは、リーフを放し凄い速さでダミアンの元へ向かう。
リーフは、突然放り出され驚くもその場でに浮き、ゆっくりと地上に降りる。
ダミアンも何とか地面に叩きつけられる前に、ヘリムがキャッチし地面に降り立った。
だが安堵する暇もなく、魔術師の攻撃が来た!
それは降り立ったリーフを狙う!
リーフは、慌てて結界を張った! だがそれはすぐに、術の威力で破壊される!
驚くもヘリムがリーフに結界を張り直し難を逃れた。
「剣だ!」
ダミアンが叫ぶ。
フランクから奪い取った剣を構え、今度はヘリム目掛けて魔術師は急降下して来た!
それを交わすも三人はバラバラになった!
「君のマスターは誰だ!?」
それを聞きいたのは、驚く事にヘリムだ! 彼は宙へ浮かぶ。
魔術師はそれを剣を構え追いかける!
ヘリムの台詞を聞いた二人は驚いた!
「あの者は、魔獣!?」
「そっか! ヘリムさんが弱いんじゃなくて、相手も同じだけ強かったんだ……」
今の状況はかなりやばいかもしれないと、リーフは思った。
自分達が浮けば、トラップを仕掛けられなくとも落とされるだろう。
実際シリルは落とされた! それをチェチーリアは、解除できなかった。
それを考えると、ダミアンに掛かった術をリーフが解除するのは難しい。
「リーフ! ダミアン!」
考えを巡らせていると、呼び声が聞こえ振り向けば、オルソ達が向かって来ていた。
アージェとフランクそれにオルソの三人は、地面に足を付けていた。浮かんではいない。騎士だけだったのが幸いした。
「絶対に浮くなよ!」
チラッとオルソ達を確認したヘリムが叫ぶ。
言われた意味がわかり、三人は走りながら頷いた。
と三人に、魔術師は術を放った!
結界を張るにしてもリーフからは遠く、ダミアンは術を封じられている!
アージェ達は、剣を抜いて構える。
だが三人に衝撃は来なかった! ヘリムが結界を張ったからだ。
「あなたは邪魔だ!」
魔術師は、ヘリムが三人に結界を張るのを計算しての攻撃だったのだろう。術を放ってから直ぐに、剣を構えヘリムに向かった!
前回の攻撃も誘導して攻撃して来たので、ヘリムもそれを交わす。
だが魔術師は、その剣を横に振った!
「ぐわー!」
「嘘!」
ヘリムは、断末魔の叫びをあげ、驚く事にそのまま真っ逆さまに落下する!
剣に突かれた訳ではなく斬られた! それでも効果があるのかと、リーフは驚いた。
どう見てもヘリムは、気を失っている!
リーフは、ヘリムに走り出した。
ヘリムに浮遊を掛けるも弾かれたからだ! 二年前と同じだ!
四人は起きた事がわからなかった。
研究で作った剣は、刺している間だけの数秒間、相手の動きを封じる付加をつけたものだ。
リーフがヘリムに向かうのを見て三人は慌てる。浮遊が不得意だったと思い出したからだ!
アージェとオルソは、ヘリムの元へ向かおうとするが、フランクは何故かダミアンに向かった!
フランクは気が付いたのだ。
普段のダミアンなら真っ先にヘリムの救出に向かっているはず。それが今は、悔しそうに二人を見ているだけだった。
術が封じられている!
それは結界を張れない事を意味する。狙われればアウトだ!
(だめだ! 走っていては間に合わない!)
ヘリムの救出に向かっていたリーフは、飛んでヘリムの元へ向かった!
まるで体当たりをする様にリーフは、ヘリムにしがみつく。
自分ごと浮遊を掛けたのだ。それでもやはり、ヘリムにはかからない。
だが地面に叩きつけられず、ふんわりと着地する事が出来た。
「リーフ!」
安堵したリーフは、アージェが自分を呼ぶ声でハッとする。
真横に魔術師が降り立ったからだ!
(殺される!)
リーフは青ざめる!
魔術師は、不敵な笑みを浮かべた――!
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