第二六話 内通者探し

 もしかしたらシリルが解放されたのは、ヘリムが逃げた事により居場所やシリルの事がバレるのも時間の問題かもと思ったから……。

 リーフはそう思いつく。

 でも、ダミアンが言っていた通り、魔術師の狙いがヘリムの命ではないとしたら?

 一回目に襲った時だって、気付かれないように襲えば殺せたかもしれない。だがそうしなかった。シリルに襲わせ、自分は加担していない。

 そう言えば一回目も二回目もフランクが関わっていた。そう思いチラッとリーフは、フランクを見る。


 「フランク、あなたは森で襲われたそうだな。相手はあの魔術師だったか?」


 そうロイがフランクに聞いた。

 リーフと同じく、彼に疑惑を持ったようだ。

 フランクは、強張った顔つきでロイを見ていた。


 「それは、団長に話した通り、突然火の玉が飛んできて剣を構える暇もなく……。ですので、相手は見ておりません。申し訳ありません」


 そう答えたフランクは頭を下げ、そのまま俯いた。


 「ロイ、彼を疑っているのか?」

 「疑うも何も一番怪しいでしょう? 彼は剣を奪われています。剣の情報はどこから? 研究者の一部と召喚師の者しか知らない話ですよ、父上」

 「しかし……」

 「肩を持ちたくなるのもわかりますが……」

 「何!? そんな事はない! 公平に見ている!」

 「どうだか……」


 ガッドとロイの二人の会話に、その場の者は固まった。

 仲が良かった二人が、争いを始めたからだ。


 「あの、殿下。陛下はその様な方ではないと思いますが……」

 「あなたが言うか? ダミアン」


 ダミアンは、ガッドの右腕と言ってもいい。一番信頼を置いている者だ。それは、ロイだけではなく、他の者も知っている事だった。


 「………」

 「ロイ!」

 「父上。作り話をでっち上げて、彼と何を企みで?」


 そう言ってチラッと、ヘリムを見た。

 ロイは、城に犬がいたと言う事も嘘だと思っているようだ。


 「私が何故彼と?」

 「では何故、儀式をしないなどと言い出したのです?」

 「それは、ゴーチェからリーフがヘリムのマスターのようだと聞いたか……」

 「いいえ。その前から儀式などするつもりはなかったですよね? 父上。何もご用意を始めていなかったではありませんか!」


 ロイの言葉に、皆驚いた。

 ゴーチェは、リーフが召喚師の様で、召喚師の能力の封印する許可をもらったと伝えてあった。

 その後、アージェからの資料に添えてあった、リーフがヘリムのマスターになっていた事をこの会議の為に城についた時に報告したのだ。


 「ゴーチェ、ヘリムにブレスレットを付けたのは誰だ?」

 「フ、フランクですが。しかしあれは、私が命令し渡した物……」


 ゴーチェは、ロイの問いにそう答えた。

 ロイが言いたい事はわかった。フランクが偽物もしくは、効果がないブレスレッドをヘリムに付けたと言いたいのだ。

 魔獣が本来の力がなければ、魔術師用のマジックアイテムで十分。つまりロイの言う通り、もしただのブレスレッドだったならば、容易に外せヘリムは逃げ出す事が可能だ。勿論これはリーフが、マスターではないと言う話の場合だ。

 そして、ロイの思っている通りならフランクは、ヘリムを逃がした事になり、ガッドと策略していなくともあの魔術師とは繋がっている事になる。

 皆、チラッとフランクを見るも彼は俯いたままだ。それが逆に、肯定しているように見えなくもない。


 「失礼を承知で申し上げますが、あのブレスレッドはそうそう手に入る物ではありません。フランクが同じ物を持っていたとは思えません。それに怪しいのはどちらかというと、シリルでしょう」

 「!」

 「え?」


 立ち上がって言ったゴーチェの言葉に、オルソとアージェが驚きを見せる。

 リーフも驚いた。いや、リーフも怪しいと思っていた。ただ認めたくなかった。

 それは、魔術師がシリルを自分達の手に渡す為に接触を図ったという事だ。

 一回目はシリルを捕らえさせる為、二回目は剣を奪う為。そう考えればこれもつじつまが合ってしまう。


 「魔術師はシリルが目的だと思われる襲撃を過去に二度行っております。七年前に村が焼かれました。あれは、その魔術師の仕業でしょう。勿論シリルが目的だった。だがその時は、シリルはうまく逃げ切った。ですが二年前にもう一度彼を襲い、今度は捕らえるのに成功しております」

 「そうだな」


 ゴーチェの話に、ロイは頷く。

 オルソもアージェも強張った顔つきだ。二人もまた、その事に行きあたっていた。だが言えずにいたのだ。

 チラッとゴーチェは、オルソも見るも話しを続ける。


 「そこまでした彼を魔術師は、いとも簡単に手放すとは思えません。それなのにシリルは今、私達の手中です。今までの行動を考えれば、わざと私達に彼を渡したのではないのでしょうか? 彼を殺さずに生け捕りにするのは、相手はわかっていたはずです」


 ゴーチェが語り終わると、ロイが立ち上がった。


 「そんな事は言われなくてもわかっている。だからこそだろう。彼を何の為に送り込んだかという事だ! 普通は事を運ぶ手はずを整える為、あるいは内通者と接触させる為だ」

 「まさか! フランクが内通者だと仰るのですか!」


 ロイの言葉にガバッと立ち上がり、ダミアンが問う。


 「流れから言ってあり得るだろう?」

 「ヘリムは? お疑いだったのでは?!」


 ロイの返答に、またダミアンが問う。


 「フランクが疑われない様にする為に送り込んだろう」

 「支離滅裂だな。ガッド……陛下と俺が悪だくみをして、その魔術師ともつながっている。しかもシリルをも送り込んで、内通者はフランク? それなら君も疑わしい。内通者は君の相棒、ウリッセではないのか?」

 「何故、私が!」


 ウリッセが驚いて立ち上がる。


 「魔術師とつながりのあるイサルコと仲良しなのは君だろう? 君は剣の事も知っていた」


 驚く事言うヘリムに皆、唖然としていた。

 王子のロイも疑わしいなど、この国の者なら思っていても言わないだろう。


 「ウリッセが疑わしいのはわかるが、ロイ王子まで疑いますか」

 「な……」


 ゴーチェがそうヘリムに言うと、ウリッセは驚いた顔をした。

 自分も皆に疑われているのかと驚いたのだ。

 しかし考えれば、一番魔術師と繋がりがありそうなのは、ウリッセだ。

 今度は皆、ウリッセを見る。


 「バカバカしい! 自分の子供を危険な目に遭わせてまで、あんな事はしない!」


 ウリッセは叫ぶように言った!

 それには、それもそうだとウリッセの事情を知っている皆は頷く。

 リーフもそれはないと思った。


 「ゴーチェ、取りあえずシリルからは目を離すな。以上解散!」


 ガッドは突然ため息交じりにそう言い立ち上がる。収拾がつかなくなったので、一旦終了といったところだろう。


 「ゴーチェ、後は頼んだ」


 そう一言言うと、ロイも部屋を後にした。

 バタンと扉が閉まると、はぁっと皆、気が抜けた様になる。


 「一体殿下は、どうなされたのだ……」


 ダミアンは呟いた。


 「今日は、皆には城に泊まって頂く。部屋はもう用意してある」


 ゴーチェがそう皆に言った。


 「それって最初から私達を……」


 ゴーチェの言葉に、アージェが言う。最初から帰さないつもりだった。


 「皆さん、申し訳ありません。私の剣が奪われたばかりに、こんな事に……」

 「フランク、あなたのせいではない」


 オルソはそう言って、ポンとフランクの肩を叩いた。


 「皆さんは、私を疑って……」


 ウリッセは、俯いたままそう聞いた。

 ダミアンが伝えに行くと言ったのに、わざわざ城に来た。様子を見に来たと捉えられてもおかしくはない。

 ロイを疑わなくとも、自分は疑われているのかと聞いたのだ。


 「そういう訳ではない。フランクがと言うのならウリッセ、あなたも疑わしいと言うだけだ。まあ残念だが、陛下は大小なり全員お疑いなのかもしれないな」


 ゴーチェがそう言うと、皆もそう思った。

 どっと疲れた会議になったのだった――。

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