第二七話 アージェの本心

 用意された部屋は、五階だった。窓がなくアージェの事務所より広いのに、ベットがポツンと一つだけ。そして、驚く事に城自体に結界が施されていた!

 あのヘリムが捕らわれていた離れと一緒だった。


 リーフは、王都に来てからロクな事がないと思うも、それは全て今日一日の事だ。

 やっぱり来ない方がよかったかもしれない。そう思いながらベットにごろんと身を預ける。

 しかし来なければ、オルソやアージェの事も思い出せなかった。シリルにも会えなかっただろう。


 「良かったのか。悪かったのか……」


 リーフは呟く。

 トントントン。

 控え目にノックが聞こえ、リーフは上半身を起こす。


 「はい?」


 一体誰だろうと、扉を開けるとそこにはアージェが立っていた。

 まさか彼が訪ねて来るとは思わなかったリーフは驚く。


 「少し宜しいですか?」

 「え? あ、はい。どうぞ……」


 あまり気は進まないが招き入れる。


 「体調はどうですか? 疲れてはいませんか?」


 その質問に、リーフは目をぱちくりとする。

 わざわざそんな事を聞きに来たのかと驚いた。

 巻き込んだで悪かったと思っている事は、馬車の移動中の話を聞いていて知っていたが、ここまで気にしているとは思っていなかった。


 「大丈夫です。えっと、アージェさんは大丈夫ですか?」

 「私は大丈夫です」


 私は……オルソは大丈夫じゃないのかもしれない。

 リーフはそう思うと、シリルが気になった。


 「あの、その……シ、シリルさんの具合はどうなのでしょう?」

 「会わせて頂けないのでわかりません」


 そう返したアージェは、悲しい顔をしていた。


 「オルソさんもですか?」

 「やはりあなたは、オルソさんから二人の関係を聞いたのですね」


 リーフは頷いた。

 オルソがリーフと二人で残った時に、話を聞いたのかと聞いたのだった。聞けるのはその時しかないからだ。


 「オルソさんとアージェさんの関係も聞きました」

 「私達のもですか!? 何故、そこまで!」


 リーフが言うと、アージェは驚いて言った。

 アージェが言う事はもっともだ。リーフがリーファーでなければ、話す必要がない内容だ。疑問に思っても不思議はない。


 「オルソさんてアージェさんのおじいちゃんですよね? オルソさんって呼んでいるから聞いて驚きました」

 「騎士は、親兄弟であっても名で呼ぶ事になっています。ですので私達が、親族だと知らない者の方が多いです」

 「そうなんだ……」


 聞かれもしなければ、わざわざ言う事でもない。

 それに、ずっと仲違いをしていたのだからあまり仲良くも見えなかっただろう。


 「あなたはどう思います? ヘリムさんの事を……」

 「え?」


 どうと言われてもリーフは困った。

 そもそも魔獣の事も召喚師の事もよく知らない。

 未だに、何故自分をマスターに選んだかさえよくわからなかった。


 「よくわからないです。僕を召喚師だと気が付いてマスターにしたとしても、何故僕なのか……。ヘリムは城に居たと言っていました。ならば、騎士が召喚師だった事を知っていたはずです。なのに何故、僕を選んだのか……」

 「それは私も思います。不思議でなりません」


 そこまで言われれると、リーフも凹む。


 「すみません……」


 言い過ぎたと謝りながらアージェは、ジッとリーフを見つめる。


 「えっと……」

 「す、すみません」


 アージェは、慌てて顔を背けた。


 (ま、まさかと思うけど、アージェさんって!)


 男の人が好きの対象の人なのかと、リーフはドギマギする。女だとバレたらそれこそ殺されそうだ。


 「ある人に、面影が凄く似ているものですから……」

 「え?! 似ているって……」


 どうやらリーフの勘違いだったようだ。


 「と言ってもその方は、女性なのですけどね」

 「………」


 その女性は、リーファーの事だろう。似ているとは思っていたんだとリーフは驚いた。


 「あ、誤解なさらないでくださいよ。別に想い人ではありませんので」

 「………」


 きっと凄く驚いた表情をリーフがしていたからだろう。アージェはそう言った。


 「シリルの妹です。二年前に一度お会いしただけですが……。あの子は今どうしているのでしょうか?」


 そう言ったアージェの顔は、憂いを帯びた表情だった!


 「一緒にいなくなったんですか?」

 「ええ、そうです。シリル達の祖母と一緒に……。もしシリルがあの魔術師に捕まっていたのなら二人の行方も知っているかもしれないのです。早く聞いて助け出さなければと思っていたのですが、陛下達は違う様です」


 そう言ってアージェは、顔に影を落とす。

 リーフは、いたたまれなくなった。オルソと約束はしたが、アージェはシリル達の事を嫌ってはいない。そう感じた。


 「た、大切な人達なんですね……」


 でも言い出せない!

 まるで確認をするように聞いていた。


 「大切ですか。どうでしょう? どちらかと言うと憎らしい相手です。彼らのせいで私は、一時期誰も信じられなくなりました。って、私が子供だっただけですが。憎らしい相手だったのに、会って話せばシリルは真っ直ぐて妹思い。リーファーは無邪気で素直そうな子でした……」


 そう語るアージェの目には、きらりと光るものがあった。

 そして胸元からペンダントを取り出し握りしめる!


 「私は、その日を境に彼らと仲良くしたいと思っておりました。そしてプレゼントを差し上げたのです。なので彼らとの想い出は、その日しかなく……」


 リーフは気が付けば、涙を流していた。

 アージェが握りしめるそのペンダントは、リーフの胸からちぎり取られ魔術師が放り投げたペンダントだった!

 アージェは、大切に持っていたのだ!


 「結局、役に立たなかった……。もしかしたら二人は、魔術師がシリルをよこした時に……」


 アージェの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。彼はそれを慌てて拭く。


 「すみません。話していたら感極まって……」

 「生きています……」

 「え? そうですね。まだ希望はあります……」


 リーフは、首を思いっきり振った。そうすると、涙が飛び散る。

 アージェは、大泣きしているリーフに驚く。


 「僕がリーファーです。ちゃんと生きています! アイテムも役に立ちました! それがなければ、僕はここにいません!」

 「何を言って……。え? 私、彼女の名前言いましたか?」

 「言ってません。ずっと言い出せなくて……」

 「ほ、本当に……リーファーなのですか? 生きて……よかった!」


 頷き答えるリーフをアージェは抱きしめた!

 そっくりなリーフが言うのだ。アージェも間違いないと思ったのだ。

 リーフは、アージェのまさかの行動に固まった。

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