第二五話 報告会議
リーフは、緊張して通路を歩いていた。城の中は、外壁と違い淡い青い壁だった。
ゴーチェを先頭にぞろぞろと移動する。そして、二階の角の部屋に入った。
そこは、見た事がある風景だった。大きな丸いテーブルに十個の椅子。
ただ少しだけ違いがあった。椅子十個のうち、二個が豪勢な椅子だった。何故二個だけ豪勢か直ぐに想像は出来る。陛下と王子が座る席だ!
つまりは、陛下達も話し合いに混ざる事だと、リーフは気が付いた。
もうその部屋には、ダミアンが来ていた。
「陛下は直ぐに、お見えになる」
ダミアンが、入ってきたゴーチェ達にそう声を掛けた。リーフの思った通りだった。
全員部屋に入ると、直ぐに人が入って来た。
「待たせたな」
「ロイ王子です」
そうアージェが、リーフに耳打ちする。
ロイに全員が頭を下げた。彼は、魔術師団副団長を任せられている。だが格好は騎士だった。
騎士が着る服装で、緑のマントに腰に剣。そして、松の様な深い緑の千歳緑色の髪と瞳。
(まるで騎士!)
リーフもロイが魔術師の副団長だと知ってはいたので驚いた。
そのロイの後ろに、知った人物が立っていた。ウリッセだ!
「どうしてここに?」
ダミアンが驚いて問う。
ウリッセは、リーフ達と一緒に来ていなかった。別に来た事になる。
その問いには、ウリッセの代わりにロイが答える。
「彼は、私に報告に来てくれた。どうせだから会議に参加する様に命じただけだ」
「報告?」
ダミアンはそう呟くと、目を細めてウリッセを見た。ダミアンは、城に報告に行くと告げて別れた。それなのにわざわざ、ウリッセは報告来ていたからだ。
他の者もそこは、不思議に思った。
ウリッセは、城に行くとは何も言っていなかったからだ。
彼は目を伏せ、気まずそうにしていた。まさか、会議に参加すれと言われるとは思っていなかったのだろう。
最後に陛下のガッドが部屋に入り、皆席に着く。
ロイ同様、千歳緑色の髪と瞳で、がっしりとした体つきで、威厳たっぷりだ。
時計回りに、ガッド、ロイ、ダミアン、ウリッセ、アージェ、リーフ、フランク、ヘリム、オルソ、そしてゴーチェの席順だ。
「こんな時間に集まって頂いたのは、連続で襲撃事件が起きたからである。ゴーチェ、一応事件のあらましを頼む」
陛下のガッドが、軽く咳ばらいをした後、そう口火を切った。
そして、指名されたゴーチェは、頷き立ち上がった。
「はい。ご報告致します。魔獣かもしれない犬の捜索を頼まれたとアージェから連絡を受けていた犬は、予想通り魔獣でした。オルソの隣にいる彼で、名はヘリムさんです。彼の話によれば、前マスターにより封印されていたそうですが、それをアージェの横にいるリーフさんが、偶然解いてしまいました」
またここで、改めて話されると思っていなかったリーフは縮こまる。しかも今回は、向かい側に陛下のガッドと王子であるロイもいるのだ。
下手の事は言えない。
「彼は、アージェの所に助手として雇った者です。依頼主であるイサルコさんには、犬は逃げられたと報告してあります。ヘリムさんを保護し、騎士団の館に向かっている最中の森を抜けた辺りで、オルソの知り合いのシリルという少年に襲われました。彼はどうやら、ある魔術師に操られている可能性がありますが、まだ目を覚ましておりません。その後、騎士団の館を抜け出したヘリムさんを森で保護したと連絡を受けました。以上です」
ゴーチェは、終わると軽く礼をして座った。
シリルは今、身の安全を考えて城に移していた。
リーフは、立て続けに色々あって、シリルの事が頭から抜けていた。思い出し、大丈夫だろうかと心配する。
(まだ寝ているなんて、術のせいだろうか……)
そういえば、魔術師はどうしてシリルを手放したんだろう。二年も傍らに置き、コマとして使ったとしても目を覚まさせば、自分の事を話すかもしれないのに。
術が掛かっている間の事は覚えていないとか、目を覚ましても術が解けていないとか?
リーフはそう思うと、シリルは今どういうった状態なのか不安になる。
(目を覚ました後、拷問されたらどうしよう)
ここでは、オルソの知り合いと紹介されたが実の孫だ。
そこまでしないだろうと、リーフは祈る。
「では、先ほどの事件をダミアン頼む」
「はい」
ガッドに言われ、ダミアンもゴーチェと同じく静かに立ち上がる。
「では……。犬の依頼主イサルコの娘とウリッセの娘は仲が良かったらしく、二人で行動を共にしていたようです。夕刻、その二人が犬を探しに森へ向かって戻って来ないと、ウリッセの元にイサルコが現れました。彼の話では、どうやらその犬はアージェに依頼した犬の事だったらしく、それを聞いたウリッセはアージェに聞きに向かいました。私達は、アージェにその犬は、魔獣だったと聞いた次第です。その子供達ですが、無事森で保護されるも謎の魔術師が現れ、我々を襲ってきました。っと言っても襲撃された訳ではありません。そのチャンスがあったのにも関わらず、その者は森に火をつけて、自分が来た事をアピールしました。私には、そう見えました」
ダミアンの言葉に、言われればそうだと周りの者は頷いた。
あれだけの事が出来るのだから奇襲をかければ、自分達をまとめて殺す事も出来た。でもしなかった。
殺す事が目的でないとすれば、何だろう?
そう考えていると、ダミアンは続きを話し出す。
「その魔術師は、その場を立ち去る時に、奪い取ったフランクの剣を持ち帰りました。その剣は、私達が開発した対魔獣用の剣です。もしかしたら剣の能力を知って、持ち帰った可能性があります。ですので、剣を奪う事が目的にあったのではないかと思われます。以上」
ダミアンは、軽く礼をすると、スッと座った。
この場にいる全員がダミアンの考えに同意していた。
殺さず剣を奪った。ただどうやって剣の事を知ったかは謎だ。
ヘリムが魔獣だと知っていたという事は、やはり騎士が召喚師だと知っているという事だろう。
そう誰もが、予測した。
スッと、ロイが右手を上げた。
「追加報告がある。ウリッセ」
「はい」
ウリッセは立ち上がり、軽く礼をする。
「子供達から詳しく聞いた所、今回襲ってきた魔術師の服装が、イサルコさんの知り合いの魔術師に似ていると言う事でした。またイサルコさんの話によると、ジーンさんと言う魔術師の犬らしく、彼にお願いされアージェさんに依頼したようで、イサルコさん自身は犬を見た事はないそうです。以上です」
「多分、偽名だろう」
ウリッセが座ると、ロイがそう言った。そのロイの鋭い視線が、全員を見渡す。
そしてダミアンもまた、同じくジッと聞きいる皆を鋭く見ていた。
「その犬の事だが……もしかしたら城にいた犬かもしれん。召喚師を見守る犬としてずっといた犬だ。いや、今思えば魔獣だったのだろう。エメラルドグリーンの瞳の犬だった」
そう静かにガッドは言って、ヘリムを見る。勿論、その言葉に全員ヘリムに注目する。
犬がヘリムだった事は、わかっている。ガッドが言った犬と同じかどうかが知りたい。
「あぁ。城にいたのは俺だ。ある日連れ出された」
「何故、言わなかった?」
ゴーチェが鋭い視線を飛ばし、ヘリムに問う。
「では聞くが、君はその犬の存在を知っていたか?」
「いや、知らなかったが……。だが、今、言われて合わせたという事もあるだろう?」
「そうか。それもそうだな」
ゴーチェにそう指摘され、ヘリムは頷くと口を閉ざしてしまった!
確かにゴーチェの言う通り、話を合わせて自分がその犬だと嘘をついたかもしれない。
「私はそんな犬、見た事はないが?」
ボソッとロイが呟く。
「私も見た事も聞いた事もありません。ですが、陛下が嘘をつく理由がないのですからいたのでしょう」
ダミアンがそう言うと、うむっとガッドが頷く。
「十二年程前に姿を消した」
「十二年? それで何故今さらひょっこり出て来た?」
ガットが言うと、疑いの眼差しでロイがヘリムを見る。
「勿論、逃げ出したからだ」
「逃げ出した……。それはあの魔術師からか?」
ゴーチェがヘリムに問うと頷く。
「シ、シリルは、その時、シリルは一緒だったのか?」
オルソが聞くと、またヘリムは頷いた。
「どんなよう……」
「嘘かもしれない。オルソ、まともに相手にするな」
ロイは、興奮気味のオルソに落ち着けと、そう言う。
確かに嘘かもしれない。十二年は長すぎる。しかも連れ出した目的が分からない。
(でももし、本当だったら襲って来た目的って……)
自分は全く関係がなかった事になる。逆だった。たまたま居合わせたのがリーフで、巻き込まれ方だった!
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