第二四話 アージェのお願い
「助太刀してきます」
ウリッセは、そう名乗りを上げた。
「いや、俺達が行く! 相手は剣を持っているからな。すまないがウリッセさん。浮遊の術をお願いします。アージェ、行くぞ!」
「はい!」
オルソがアージェに声を掛けると、剣を手に持ち返事を返した。
二人はフワッと浮かび上がる。
「お気を付けて!」
「すみません! お願いします」
オルソとアージェは、頷いて二人の側に向かう。
フランクは剣がないので、一緒に待機だ。
だが魔術師は二人を確認すると、ヘリムを襲うのをやめて、剣を持ったまま凄いスピードで離れて行く!
「逃げ出した!?」
まさかの行為にアージェは驚くもオルソは安堵する。
三人は、リーフ達のいる地上に戻った。
そこに、消火活動を終えたダミアンも合流する。
「すみません。ダミアンさん。結局一人でさせてしまって……」
「いや、問題ない」
軽く頭を下げ、ウリッセが謝った。
「それよりあの魔術師は、剣を持っていなかったか?」
「すみません。私のです……」
「奪われたのか!?」
「はい……」
ダミアンに問われ、フランクは頭を下げる。
「で、彼は何者だ」
ダミアンが、ヘリムを見て聞いた。
ウリッセがポツリと呟く。
「魔獣とか言っていたような……」
「あ!」
アージェが、しまったという顔つきをするも、それを聞きダミアンは、フランクを見た。いつも下げている剣がある場所だ。
「まさか本当に彼は魔獣か? だったらあの魔術師は剣の事を知っていた事になる!」
ダミアンもそこに気が付いた。
全員がそれに頷く。
「事は急を要するな。私は直接陛下にお会いして、事を伝える。オルソ、後は頼んだぞ」
「すまない。宜しく頼む」
ダミアンは、後の事は託し、城に向かって飛び立った。
「くっそ!」
フランクは、ジッと自分の開いた右手を見つめ、ギュッと握り叫んだ!
彼は、あまり感情を普段出さない。余程悔しかったのだろう。
アージェ達は、なんと声をかけていいかわからなかった。
「さてどうしたものか……」
オルソが、ボソッと子供たちが乗る馬車を見て言った。
馬車は六人乗りだ。
子供達を含めると、合計八人だった。
御者を引いても一人多い。
「あ。僕、飛んで帰りましょうか?」
「何を言ってます!」
リーフが一人で帰ると言うと、アージェが止めた。
「では私が、ナディアを抱っこ……」
「いえ。それには及びません。私とリーフさんが運転席に乗ります」
ウリッセが娘のナディアを抱っこすると言うのに、アージェはリーフと一緒に運転席に乗るからいいと断った。
リーフは、運転などした事が無い。
「そうか。では頼む」
しかもあっさりとオルソは、承諾してしまう。
「え……」
茫然とするリーフだが、皆が次々と馬車に乗り込む。
「何をしてます。私達は前ですよ」
「あの、僕は運転出来ませんが……」
「させる訳ないでしょう? 話があるのです」
そうだったのかと、リーフはアージェの横に座った。
馬車はゆっくりと出発する。
「申し訳ありませんでした」
暫くすると、アージェがそう言った。
「私はただ、あなたが使った紹介状の事を調べたかっただけだったのです。任された仕事もあり、あなたにお願いしました。まさか召喚師だったとは……」
「はぁ……。あの、僕、本当にマスターなのでしょうか?」
「ヘリムさんが、魔獣である事は確かです」
リーフは、首を傾げる。
本人が思い込んでいるとしても、どうして人間の姿になったのに、魔獣だとアージェ達が確信しているのかわからなかった。
「あの……ヘリムは魔術師って事はないんですか? 弱かったんですよね?」
アージェは、魔術師と対戦しているヘリムを見て、そう言っていた。
「人間には
そういう事だったのかと、リーフはやっと魔獣だと疑いもせず思っている理由がわかった。
だがそうなると、リーフがヘリムのマスターになった可能性が高い。
そう思うと、リーフは溜息が出た。
「もしかしたらあなたの封印は、中止になるかもしれません。理由があって、あの魔術師を生け捕りにしないといけないのです。確かにヘリムさんは、思っていたよりは弱く感じました。ですが彼に対抗できる希望です。なのであなたには、そのままマスターでいて欲しいのです」
理由とはきっと、シリルに関する事だろう。
アージェは、まだチェチーリアとリーファーが、あの魔術師の元にいると思っているに違いない。
ここで自分がリーファーだと名乗り出れば、それは解決する。
(……いや、解決しない!)
そもそもチェチーリアが、身を隠したのは村が襲われたからだ!
リーフの親達がどこにいるか、リーフは知らない。
二年前、オルソがチェチーリアに火事の事を聞いていた。
でもリーフの親の事は、オルソと二人で話した時に何も言われなかった。という事は、オルソもどこにいるか知らない事になる。
それを知っているは、あの魔術師だけだろう。
リーフは、ギュッと両手を握る。
「わかりました」
余計な事は言わず、リーフはそう言って頷いた。
「ありがとう」
アージェ達はまず、ウリッセ達を送り届け、騎士団の館に向かう。
そこで連絡を受け待っていたゴーチェは、このまま城に向かう様に指示し、彼を乗せ馬車は城に向かった。
城に着いた頃には既に日は沈み、辺りは真っ暗だ。
そこから見渡せる庭園の街グラディナと星空が綺麗に瞬いていた。
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