第二三話 姿を現した魔術師

 少女達が見つかり、和んでいる時だった!

 突然、バン! っと、森の方から大きな音が聞こえ全員が振り向くと、森は勢いよく燃え上がっていた!

 そしてその上空には、薄緑のローブを着て、深々とフードを被った魔術師が浮かんでいる!


 「ナディア! ネリー! 馬車の中へ入るんだ!」


 ウリッセは、二人に叫んだ! 言われた通りナディアとネリーは、慌てて馬車の中に避難した。

 それと同時にダミアンは、森へ向かう。消火活動の為だ。

 ウリッセは、馬車と森を見ている。

 リーフは、ウリッセが森に行くべきか迷っていると思った。


 「僕が森へ……」

 「リーフと言ったか。君は結界は?」

 「出来ますけど……」

 「では、子供達を頼む!」


 リーフが頷くと、ウリッセはオルソに言う。


 「私が出ます!」


 ウリッセは、消火活動をするか、ナディア達を守るか悩んでいた訳ではなかった。ナディア達の安全を確保出来れば、魔術師に向かおうと思っていたのだ。


 「いや、ウリッセさんは、子供達を……」


 オルソが言うもウリッセは、首を横に振った。


 「彼に任せた」

 「では君は、森の消火活動を! 俺が行く!」


 そう言ったのは驚く事にヘリムだった!

 そして、フランクの手を振りほどくと、魔術師に向かって行く!


 「ちょっと待て!」


 フランクは慌てるも空中に行かれては、どうしようもない。


 「どうします? 見ていますか?」

 「我々が言ったら彼も戦いづらいだろう。ひとまずは、ここで待機だ」


 アージェの問いにオルソはそう返す。


 「では私は、ダミアンさんだけでは大変でしょうし、彼の言う通り消火活動に回ります。子供達をお願いします」


 オルソ達が頷くと、ウリッセはダミアンの元に向かう。

 リーフは、ヘリムの行動に驚いていた。

 逃がすつもりなのか? でも逃げるならもう逃げていたはず。

 戻って来た目的は?

 ヘリムがあの魔術師に向かっていたのは作戦?


 (一体どうなっているのかわからない……)


 リーフは、一人考え込んでいた。


 「あの魔術師の目的は何でしょう? どうしてここに、現れたのでしょうか?」


 アージェの質問にも誰も答える事が出来なかった。

 宙に浮いたが二人は、睨み合っている。

 っと突然、体はヘリムに向けたまま魔術師は、森へまた火を放った!


 「な! いい加減にしろよ!」


 そう言いながらヘリムは、その火の玉に向けて、森でやったように水の玉を放し包み込む。

 魔術師は、その隙を突き、今度は地上にいるリーフ達に向け、風の刃を放った!

 オルソ達三人は、慌てて剣を抜き構えた!

 そしてリーフも馬車の周りに結界を張った!


 「ナディア! ネリー!」


 森からウリッセの声が響く!

 風の刃が襲い掛かると、辺りは砂埃が舞い何も見えなくなった!


 「何をす……」


 ヘリムが、地上から魔術師に目線を戻すと、目の前に魔術師がいた!

 そして魔術師は、ヘリムに向かっても風の刃を放つ!

 流石にこの距離だとやばいと、ヘリムは咄嗟に結界を張るもその威力に吹き飛ばされた!


 ウリッセは、オルソ達の元へ駆けつけ、砂埃を風で吹き飛ばす。

 馬車の周りは、リーフの結界で守られて無事だったが、三人は吹き飛ばされて砂を被り倒れていた!


 「アージェさん!」


 驚いてリーフは、彼に駆け寄る。


 「オルソさん! しっかりしてください!」


 ウリッセがオルソを軽く揺さぶると、彼は目を開けた。


 「よかった……」


 オルソは、よろっと体を起こし片膝をつく。


 「え! 危ない!」


 リーフがふと空中を見ると、ヘリムを吹き飛ばした魔術師が、こっちに向かって来ていた!

 リーフの叫び声が聞こえたのか、アージェも目を覚ます。


 「……な、なんです?」


 アージェは、顔を上げ強張る。

 急接近してくる魔術師に四人が身構えるも、まだ倒れたままのフランクに狙いを定めた様で、彼に真っ直ぐと向かって行く!


 (どういう事!? 狙いってフランクさん?!)


 前回襲われた時もフランクがいた。

 しかも彼は、怪我を負ったのだ! 次は殺されるかもしれない!

 慌ててウリッセが、フランクに結界を張った!

 だが魔術師は彼を通過し、近くに吹き飛ばれていたフランクの剣を拾うと急上昇する。

 襲われなかった事に皆は安堵するも何故剣を奪ったかわからない。


 「剣など何に使う気です……」


 アージェも体を起こした。

 そしてフランクも目を覚ます。


 「魔術師は?」


 全員無事だと思ったフランクが聞くも、全員無言で空を見上げたままだ。

 フランクも顔を上げ驚く。


 「剣?!」


 フランクは体を起こし、自分の剣を探す。


 「私の剣か!」


 その声に魔術師は、チラッとフランク見るも腰辺りに剣を構えると、ヘリムに向かって一直線に飛んで行く!


 「まさか、あの魔術師は、ヘリムさんが魔獣だと知っていて……」


 アージェは呟いた後、叫ぶ!


 「ヘリムさん! たとえあなたでもその剣で刺されれば、ただではすみません! 回避して下さい!」


 魔獣はマスターを得れば、ほぼ無敵だと言われている。

 だが人間と同じで、心臓を刺されれば死ぬ。


 十年程前から対魔獣用に剣の研究がされていた。

 使う事はないかもしれないが、試験的に研究者の騎士がその剣を所持していた。

 効能は、刺した数秒間だけだが、体の自由を縛るものだった。その時間があれば、急所を突け、必ず仕留める事が出来る事になる。


 今その剣をあの魔術師が手にしている!

 そして、相手は魔獣のヘリム。

 研究が成功していれば、ヘリムは魔術師に仕留められる事になる。


 「え? あの剣って魔獣の術までも打ち消すんですか?」

 「いえ、違います。魔獣を殺傷する能力が備わっています」

 「え! じゃ……」


 リーフは驚いた!

 もし、あの魔術師がヘリムのマスターだったら下手すれば、自分が呼び出した魔獣を殺してしまう行為をしている事になる。

 演技だとしてもしないだろう。

 それに偶然って事もない。

 魔術師が自分の得意な魔術ではなく、わざわざ剣で理由なく戦う事などないからだ。


 (あれ? じゃヘリムのマスターは、あの魔術師ではない?)


 しかしあの魔術師が、犬のヘリムが魔獣だと知っていて捕らえていた事は確かだ。

 そのヘリムが逃げ出し、イサルコを使って探した。

 自分が動くと目立つし、彼なら異国の者だ。動かしやすかったのかもしれない。


 「僕は凄い勘違いを……」

 「オルソさん。彼、魔獣ですよね? マスターもいるのですよね? おかしくないですか?」


 そう言うアージェの言葉がリーフの耳に届く。

 アージェの台詞に、オルソが頷く。


 「え? 何がおかしいんですか?」

 「相手は、君と同じ魔術師だ。俺達からしたら手練れた魔術師だったとしても、彼からしたらただの魔術師のはず。まあこれは、そう言い伝えられているだけだが」

 「こんなものなのでしょうか? 少しがっかりです」


 オルソの説明が終わると、アージェがボソッと呟いた。

 魔獣は、人間より優れていると思われていた。

 だがヘリムを見る限り、あの魔術師と強さは変わらない様に思えたのだった。

 魔術師が手にしている剣を作ったのが、アホらしくなるほどに……。

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