第一九話 アージェの優しさ?
アージェは、布団を床に置いて辺りを見渡す。
リーフが、水の魔法を使って綺麗にしたので、隅々まで汚れが取れて先ほどまで倉庫として使っていたとは思えない程だ。
「どうやりました?」
「どうって。普通に魔法で……」
「魔法ですって!」
リーフの答えにまたもやアージェは驚く。
「一体何の魔法でここまで綺麗に……」
「水魔法ですが。ここでは、そうやってお掃除しないんですか?」
「水魔法って……。水魔法を使う方に、掃除なんて言う仕事をさせる訳がないでしょう!」
驚いて返され、そう言えばとリーフも頷いた。
水魔法を扱える者は、貴重な人材なのだ。魔術師団に入っているだろう。魔術師団の者が、掃除の仕事を請け負いする訳がない。
「まあ、手伝わずにすみましたし、疲れたでしょう。下に行って休憩しましょう」
一応手伝う気はあったのだと驚き、そこまで冷たい訳でもないとリーフは思った。
◇ ◇ ◇
アージェの提案で、事務所で紅茶を飲んでいると、布団を買いに行った時に頼んでおいたと言うパンが届き、遅い昼食を二人で取った。
リーフが取得した魔術師証の試験は午前と午後にあり、リーフは午前中に受け、魔術師証は直ぐに発行。
騎士団から事務所に帰って来た時には、昼はとっくに過ぎていた。
「さてと予定より早く掃除も終わりましたし、早速働いて頂きますね」
リーフがその言葉に驚いていると、アージェは研究室から紙を持って来て、テーブルの上に置いた。
今日はもうゆっくりできると思っていたリーフは、その紙に目を落とす。
ここの場所や何でも請け負いますという宣伝文句が書いてある。
「それは宣伝用のチラシというものです。私の研究所があるのは知られているのですが、請け負いをやっている事をご存知な方が少ない様なのです。まずは知って頂かないといけません。それを全部配って来て下さい」
「もしかして、僕一人でですか?」
「勿論です。これくらいなら一人で出来るでしょう?」
「一人で行動してもいいんですか?」
「あなたが逃げる気なら困りますが、今更そんな事はなさらないでしょう? それにちゃんと働いた分は、お支払いします。お金が必要なのですよね?」
逃げる気もないし、お金も必要だ。
アージェは、ちゃんとリーフの事を考えていてくれていた。
敵かもと疑った事もあったが、オルソから事情を聞きアージェではないとわかった。それに、村を焼き払ったのもあの紫の髪の魔術師だとすると、当時十二歳のアージェが共犯者という説はあり得ない。それにシリルの事を知らなかった。
心配なのは、リーフ自身が狙われているかもしれないって事だった。しかしアージェは、ヘリムが狙われたと思っている。
(まあぁ大丈夫か)
相手は人目を避けている。今日も二年前も王都内では襲ってきていない。
それにチラシを配るくらいならそんなに大変でもないだろう。
「わかりました」
「ちゃんと街中に配って下さいね」
「街中! もしかして研究所の前を通る人に、渡すんじゃないんですか!?」
「それでは、行き渡らないではないですか。半分になったら反対側の店舗にも配ればいいだけです。難しくはありません」
「………」
確かに難しくはない。
チラシぐらい簡単だと思っていたリーフだが、一軒一軒配れと言われ、優しいのかそうじゃないのかわからないと溜息をついた。
しかし、今日した犬を捕まえる仕事よりはマシだと思い頷いた。
「行って来ます」
チラシを持ち事務所を後にする。
トボトボと歩き最初のお店の方に、宜しくお願いしますと手渡す。そしてまた次と、順々に配って行く。
だが一向に減った気がしない。
枚数は三百枚程度だと思われ、だんだん手がだるくなってきた。
はぁっと、リーフは溜息をつく。
これ、魔術師の仕事じゃないと、ふと思ってしまったからだ。
研究者として雇われた事になっているので、仕方がない。
悲しくなるので違う事を考え様と襲ってきた魔術師の事を考える。
あの魔術師はたぶん、この国の出身の者ではない。
なぜ魔術師は、執拗にシリルを狙ったのだろうか?
村を焼いたのはきっと二年前の魔術師で、シリルを狙っていたからだろう。だからチェチーリアは、シリルとリーフを連れ身を隠した。
でもシリルが魔術師証を取りに王都に行った事で、その魔術師に襲われた!
(もしかしてシリルとオルソさんの関係を知っていた!?)
つまり召喚師の能力と魔術師の能力を持っているから襲った?
でもそうなると、この国に住む人達さえ知らない召喚師の事情をどうやって知ったのかという疑問が生じる。
(もしかして魔術師に命令した人物がいる?)
裏で魔術師を操る者がいる。その者は、召喚師の事を知っている者。
だとしたら騎士なのかもしれない。
召喚師の事は、極秘のはず。
騎士は王都の外には出れない。だから魔術師を使った!
(でもそうなると、今回自分を襲った意味がわからない)
リーフが召喚師だとわかったのは偶然だ。
それに何故シリルを差し向けたのかも謎だった。
「全然わかんないや……」
「何? 何がわからないの?」
独り言に返事が返って来て驚いて振り向いた。
そこには、見かけた事がある女性が二人ニッコリと立っていた。
「ほら、やっぱりこの子だ」
女性の一人が言った。
リーフは、二人をまじまじと見て気が付いた。
研究所の張り紙を見るきっかけになった女性達だ。
「私達が手伝ってあげるわ!」
ほうけていると、女性の一人がチラシを半分奪った!
「え? あ! そんな事をしたら僕がアージェさんに叱られます!」
「大丈夫よ。一緒に叱られてあげるから」
そう行ってウィンクを飛ばして来る。
この二人は、最初に会った時、リーフの服装を見て笑っていたはずだ。
何なんだこの人達はと、リーフは驚く。
「で僕、お名前は?」
「え? ……リーフ」
「じゃ、リーフ君。ちゃちゃっと配って、アージェさんに会いに行きましょう!」
張り紙を見るきっかけになった時も、アージェがと言っていた。
やっと彼女達の目的がわかり、リーフは溜息をつく。
彼女達は、アージェに早く会いたいのか、ダッシュで配って行く!
そのお蔭で、チラシは軽くなって行った。
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