第二〇話 魔獣とマスターの関係
「ただいま」
リーフが扉を開け、三人で中へ入って行く。
「おかえりな……そちらの二人はどなたでしょう? 依頼人ですか?」
「いえ……。お、お手伝いをしてくれた方で……」
「手伝って頂いたのですか? しかも女性に?」
アージェは明らかに怒っている。声のトーンが低い。顔はまだ、怒り顔ではないが無表情だ。
(だから嫌だと言ったんだ)
「ご、ごめんなさい。一応断ったのですが……」
「アージェさん。彼を叱らないであげて……」
ドンドンドン!
女性の一人がアージェに話しかけた時、強く扉がノックされた。
「リーフは無事か!」
そして、返事を待たずにそう言ってオルソが入って来た。驚いていると、続いてフランクも入って来る。
「無事ですが。……申し訳ありませんが、先輩方がいらっしゃったので、お引き取り願いませんか? お手伝いありがとうございました」
心のこもってなさそうな礼を言って、アージェは頭を下げた。リーフも慌てて下げると、彼女達は渋々残念そうに部屋から出て行った。
「全く、女性をたぶらかせて手伝わせるとは……」
「な! そんな事してません! あの人達は、アージェさんのファンの方です!」
「それをわかっていて、連れて来たのですか?!」
「え!?」
「アージェ! リーフも断り切れなかったのだろう」
「次はきちんと断って下さい!」
「………」
オルソが肩を持ってくれたが、何となく理不尽さを感じるリーフだった。
「すまないなリーフ。女性が絡むとこうなのだ」
オルソは溜息をつきそう言った。
(女性が絡むと? って! もしかしてアージェさんって女性嫌い?!)
考えれば心当たりがある。
性別は関係ない仕事だったのに、募集は男性だった。
オルソが言っていた、アージェに女性だとバレると……という意味はこれだったのだ!
アージェにリーフがリーファーだと知られれば、女性だったのかと毛嫌いされる恐れがあったからだった。
「で、リーフさんがどうかしましたか?」
「いや、リーフさんではなく、ヘリムさんが姿を消しました」
アージェの問いに、フランクが答えると、アージェもリーフも驚いた。
逃げる素振りなどなかった。
「確かブレスレットを……」
「彼には聞かなかったようですね」
またアージェの問いに、フランクが答えると、何故か三人はリーフを見た。
その目はまるで、原因はリーフだと言わんばかりだ。
「え? な、何ですか?」
リーフは、たじろき聞く。
嫌な予感がひしひしとしてくる。
「あなた、彼と契約を結びましたね? つまり、今はあなたがマスター」
「魔獣は、マスターを得る事で、本来の力を発揮出来ます。彼は、マスターはもうこの世にいないと言っていました。もしマスターが不在ならば、あのブレスレットは有効だったはずなのです」
リーフにアージェが問い、フランクがマスターと魔獣の関係を説明した。
(だからマスターになってと言ったのか!)
ゴーチェの言う通りなら、ヘリムはリボンをほどいた事によりリーフが召喚師の能力を持っていると気が付いた。
事情を知らなさそうなリーフをそそのかし、マスターにした。
「どうなのだ?」
オルソが優しく聞いた。
「……犬に戻って欲しかったので、マスターになって欲しいと言われてなりました。何も知らなくて……。ごめんなさい」
三人は一斉にやっぱりという顔つきになった。
リーフの召喚の能力を封印すると言った時に、止めたヘリムの態度を見て、疑ってはいたのだろう。
「全くあの食わせ者が。何が召喚師でない者に、儀式を行うとどうなるかだ。召喚師だとわかっていての台詞じゃないか!」
「えぇ、本当に。マスターが死んだと聞かされて油断しました」
オルソに続き、フランクも悔しそうに言った。
「やはり確認をするべきでした」
そしてアージェがそう呟く。
「ところでリーフさん。体が異常に疲れたりとかは、ありませんか?」
アージェにそう問われ、マスターになると自分に何か起こるのかと不安になった。
「ありませんけど。あの、今更なんですが、マスターになったら何か体に害があるんでしょうか?」
「害はありません。ですが契約した魔獣と魔力が共有になります」
「え? それだけですか?」
アージェが、脅す様な聞き方をしてきたので、長らくマスターになったりすると害があるのかとリーフは懸念していたが安堵する。
「それだけですかって。わかっておりますか? 魔獣が膨大な魔力を使えば魔力が無くなり、いざ使いたい時に使えない状態になるかもしれません。私達は騎士です。魔力が無くなったとしても問題はありませんが、魔術師であるあなたは違うでしょう?」
アージェにそう言われ、リーフはハッとする。
仲良く使う分には問題ないが、好き勝手に使われたら困る状態になる。
そして、だから召喚師を選んだ者は、騎士なんだと納得した。
「彼は一体、自分本来の力を手に入れて何をする気なのだ?」
「わかりませんが……。リーフさん、彼は何か言っていませんでしたか?」
オルソが呟くと、アージェがリーフに問う。
だがリーフは、聞いていないと首を横に振った。
そもそもついでの様に、マスターになってくれと言われ承諾した。
魔獣にとっては、マスターがいるのといないのとでは、大違いのなずなのにそんな風には見えなかった。
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