第一八話 お掃除の仕方
オルソの話を聞き終えたリーフは、ショックを受けていた。
「僕は、二人と本当の家族じゃなかったんだ……」
オルソは静かに頷いた。
「やはり知らないままだったか。二年前にチェリからリーファーは、シリルを本当の兄だと思っていると聞いていた。まあ仕方がない。あの時はまだ、君は三つだった。家族ぐるみの付き合いだったようだし。……血が繋がっていなくとも二人は君の家族だ」
リーフは、こくんと頷く。
チェチーリアは、本当の孫ではないリーフをずっと育てていてくれたのだった。
「それにしても、アージェさんがオルソさんの孫だなんて信じられません。全く似てませんよね? 特に性格が……」
最後の方は、呟くように言った。
二年前にオルソといたのは、騎士団の後輩だからではなく孫だからだった。
「あぁなったのは、俺のせいなんだろうな。前は素直な子だった……」
オルソも呟くように返した。
人間不信になったのだろう。
オルソがせめて息子がいた事がわかった時点で、家族に話していれば、少しはアージェが受けたショックが違ったのかもしれない。
「そうかもしれない。でも僕にとっては、シリルやおばあちゃんと家族になれたのはそのお蔭で。えっと、だから……元気出して下さい!」
その励ましにオルソは、嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。ところで一つお願いがある。三日後の儀式までは、リーフで通して貰えないだろうか? 魔術師証の件も何とかしてもらえるように頼んでみるから……」
「え? あ、はい。僕の方は構いませんけど……」
何故、リーフのままがいいのだろうかと、疑問に思うもリーフは、最初からそのつもりだった。
ただ問題なのは、自分達を襲ってきた相手の事だった。
リーフが狙いだったとするならば、もうバレている可能性がある。リーファーに戻ろうが、リーフのままだろうが変わらない。
「あの、今日襲われた件ですが……。もしかしたら僕が狙われた可能性はないでしょうか? オルソさんの紹介状を使ったからリーファーだとバレて、襲われたのではないかなって。よく考えると、シリルの時も試験を受けた後だったし」
「なるほど。そうなると、試験に関わる者に内通者がいるかもしれないな。……俺も今日の事は、もしやとは思っていた。相手は巧妙だった。あの時、アージェが炎を消滅させなければ、森に火がつき山火事になっていたかもしれない。そして、山火事が起きれば、消火活動をしただろう。どちらにしても馬車を降りていた」
リーフは、言われればそうだと、頷いた。
それにしても魔術師は、森を燃やすのに何も感じていないのだろうか?
リーフは疑問に思った。
この国で育ったのであれば、森を愛し共存する事を学ぶ。
そう考えると、あの魔術師はこの国の者ではないのかもしれない。
「あの二年前の魔術師は、緑色のローブを着ていました! でも、森に平然と火を放っています。この国の人じゃないかも!」
「そうだった! 二年前の話を聞きたいんだった! そうか。この国の魔術師の格好を真似ていたか。他に特徴は?」
オルソは、チェチーリアの安否の確認だけではなく、二年前の事も聞くつもりでいた。まだその時の犯人は、捕まっていないからだ。
「えーと。あ! 髪は紫でした! 砂埃の中だったので絶対かと言われると困りますけど、そう見えました!」
「紫! この国では、あまり見かけない色だな……」
リーフもうんと頷く。
「大変役に立った。ありがとう。儀式はすぐに終わるし痛くも何ともない。王都にいる間は観光でもするといい」
「あ……うん。でもアージェさんは、仕事させるつもりだと思いますけど。あ! アージェさんにリーファーだと言えばいいんだ!」
「その件だが、アージェには黙っていてもらえないか? ほれ、女性だとバレると……」
「……わかりました」
オルソの言う通り、気まずくなるかもしれない。
(僕は気にしないんだけどなぁ)
リーフは、男として二年間過ごして来た為、あまりそういう事を気にしなくなっていた。そりゃ裸でうろつかれれば困るが、そうでなければ大丈夫だ。
そういう事で、頷いで王都から出るまでの間は、男で過ごすことに決めたのだった。
「さて、あまり遅くなるとアージェが煩い。行こうか」
「はい……」
二人は、騎士団の馬車でアージェが待つ研究所に向かった。
◇ ◇ ◇
とんとんとん。
研究所についたオルソが扉をノックする。そして、オルソとリーフは中に入った。
「リーフです。戻りました」
二人が中に入ったと同時に、研究室の扉からアージェが出て来る。
「オルソさん、お疲れ様です。もう戻って結構ですよ」
「……そうか。ではリーフをお願いする。無理は、させるなよ」
そう言い残すと、オルソは言われた通り帰って行った。
「もう少し優しくしてあげればいいのに」
事情を知ったリーフは、ボソッと呟く。
「何か言いましたか?」
「べ、別に何も」
アージェが振り向いて聞くので、リーフは慌てて首を横に振った。
「そうですか。こちらです。部屋は二階に用意しました」
そう言ってアージェは、研究室へ入って行く。
研究室には窓はなく、入って右と左に少し大き目なテーブルがあり、そこに一つずつランプが置いてあって、それが部屋に明かりを灯していた。イスはない。
テーブルには、資料だと思われる書類や、実験に使う器具などが置いてある。
アージェは、そのテーブルの間を奥へ歩いて行く。
奥には白いカーテンが引いてあった。
真ん中辺でカーテンが重なっているので、その間から更に奥へ行く。
そこには右側にテーブルとイスがあった。
正面の壁の左の方に扉がある。アージェはその扉を開けた。
「こっちです」
リーフは、頷いてついて行く。
扉の向こう側には、階段があった。ここから二階に登って行く。
階段は、壁伝いに右に向かって続いていた。
登り切って右側に廊下があった。
部屋は三つ。正面と右手の二つ。
「奥にある正面の扉が私の部屋です。あなたは、こちらです」
アージェの部屋は正面で、リーフは、右手奥の扉だ。アージェが、リーフの部屋を扉を開けた。
正面に窓はあるが、カーテンはなかった。
そして、右と左に段ボールが積まさっている。
「すみません。私以外が住む予定がなかったものですから、倉庫として使っていました。可能な限り隣に移したのですが。どうせ三日です。それと掃除はご自分でなさってください。私は、あなたの布団を買いに行って来ます」
「……え?」
「言ったでしょう。私以外住む予定はなかったと。布団などありません。村に帰るお金がなかったあなたに、布団は買えないでしょう?」
「はい……。ありがとうございます」
驚いたリーフが何とかそう答えると、アージェは頷いた。
ゴーチェに問われた時に、部屋はあると答えていなかったかと思うリーフだが、アージェが言った通り三日だ。
それに布団も自腹で用意してくれるという。わがままは言えない。
「井戸は裏手にあります。バケツは、下の研究室にあります。では、行って来ますね」
「………」
何も答えないリーフだが、アージェは気にせず階段から一階に降りて行った。
部屋は、倉庫として使っていた為か、綺麗にしないとかなり埃だらけだ。
外へ出る扉は、一か所しかなさそうだった。
井戸で水を汲み、この部屋を一人で掃除しろと言われ、リーフは唖然としていた。
「うん。お客さん扱いではないね……」
そう言うとため息を一つして部屋の中に入り、窓を開けた。
そこからは、色んな建物が見える。村とは違う建物が建ち並んでいた。
下を見れば、アージェが言っていた井戸がある。
「あそこか……」
リーフは、窓を開けたまま部屋を出て一階におり、研究室でバケツを探す。それはすぐに見つかり、バケツを持って裏の井戸に向かった。
勿論井戸は使った事がある。いや村では一般的だ。
王都でも使われている事に驚いたくらいだった。
「よし」
水がいっぱいになったバケツを手にリーフはフワッと浮き、開けてきた窓から部屋に入った。
他の人を浮かせるのは出来なかったが、自分には浮遊を掛け自由に飛ぶ事は出来た。
部屋に入ったリーフは、窓を閉めた。
「さてやりますか」
そう言うとリーフは、バケツの前で下から上に両手を上げた。そしてその手を左右に広げる。
手の動きと連動して、バケツの中の水が飛び出した!
それは四方に飛んで行き、スッと壁や天井そして床に消えて行く。
手をバケツに向けると、再び水はバケツへと戻る。
水は真っ黒だ!
「ふう。終了」
さっきとは違って、部屋中綺麗になっていた。
リーフは、水魔法が得意だ。
村ではこうやって、掃除担当をしていた。
水の膜で埃や泥を覆い、汚れを取る掃除の仕方で、慣れるまで大変だったが今ではお手の物だ。
リーフは、バケツの水を捨て事務所のソファーに座って、アージェを待っていた。
暫くすると扉が開く音が聞こえ見ると、アージェが布団を抱え入って来た。
「おや。もう終わったのですか?」
「はい。終わりました」
そう返すリーフに、アージェは驚いた顔をしていた。
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