第一七話 二人の関係
オルソは、全員が出て行くと、リーフの横に来た。
「こんな事に巻き込んで申し訳ない」
オルソは深々と頭を下げた。
突然の行動にリーフは驚く。
確かにヘリムが魔獣だった事で、リーフはここに来ることになった。
だがリボンをほどいたのは、リーフだ。
「あの、頭を上げて下さい。オルソさんは、何も悪くないですから」
「いやアージェが、君にあんな事をさせなければ、こんな事態にはなってはいない」
「いやわかりますけど……」
原因を作ったのが、アージェとも言えなくもない。
つい本音が出て肯定してしまう。
「あの……騎士って皆、召喚師なんですか?」
その質問で、オルソは顔を上げリーフをジッと見つめる。
「いや王都に任務している騎士だけだ。王都に配属になっている者のほどんどが、召喚師だ」
「僕はどうして、召喚師なんでしょうか?」
「きっと初代王の目に留まらなかった者の子孫なんだろうな。俺も驚いた。まさかリーファーまで、召喚師とはな」
「え!?」
さらっと言ったが、オルソは確かにリーファーと言った!
やはりバレていた。だから二人っきりで話をしたいと言い出したんだと、リーフは気が付いた。
「バレていたんだ。アージェさんは、気づいていないようだったから……」
「研究所に行った時は驚いた。アージェからは雇った少年が、俺の紹介状を使ったようだと聞いていたからな。名前どころか性別まで偽っているようだから、余程の事だろうと今まで黙っていた」
頷いてオルソはそう語った。
見てすぐに気が付いていたらしい。
「チェリ……チェチーリアは元気か?」
その言葉にリーフは困惑する。
シリルが目の前に敵として現れただけで、かなり動揺していた。本当の事を話して大丈夫だろうか?
でも一番知りたい情報だろうと、意を決してリーフは教える事にした。
「先日、亡くなりました……」
「亡くなった……」
ッガタ。
やはりショックを受けたようで、ふらつきテーブルに手をついた。
「大丈夫ですか?」
「いや、すまない。大丈夫だ」
「椅子どうぞ」
ヘリムが座っていた椅子を引っ張って来て、自分の隣に置き、リーフも自分の椅子に座ると、オルソもその椅子に座った。
「ありがとう。そうか。亡くなったか。無理をさせ過ぎたな。結局俺は、彼女を不幸にしただけかもしれない……」
オルソはそう呟いた。
何か訳アリの様だった。
「そ、そんな事ないと思います。あの……今更なのですが、おばあちゃんとオルソさんの関係って?」
「そうだな。君も十五歳だ。話してもいいだろう。もしかしたら君にとって、ショックな事も含まれているかもしれないが宜しいか?」
リーフは真剣は顔で頷いた。
今聞かなければ、知るチャンスはないだろう。
そして聞けば、記憶がまた戻るかも知れないとも考えた。
リーフは、膝に手を置きギュッと握る。
話を聞く、万全の体勢だ。
「少し、いやかなり昔の話になるが……」
オルソはそう切り出し、話始めた。
◇ ◇ ◇
――時は、四十年程前に遡る。
オルソが二十四歳、チェチーリアが二十歳の時に、二人は王都で出会った。オルソの一目ぼれだった。何とか口説き落とし、交際がスタートした。
チェチーリアは、村から買い出しに来た魔術師の娘だったが、オルソは彼女と結婚する気でいた。
だがオルソに、見合いの話が持ち上がった。
召喚師の血を継ぐ者の大半が、陛下が探し出した身元がはっきりとした人物と結婚していた。
オルソは、チェチーリアに自分と結婚して王都に住んで欲しいとプロポーズをした。
だが彼女は、結婚は受けるが村で暮らしたいと、頑として譲らなかった。
オルソも自分がそう出来れば、そうしたかった。しきたりがあり、王都の外で暮らす事は出来ない。しかも、その理由さえ話す事は、許されなかった。
結局チェチーリアを説得できず、オルソは彼女と別れお見合いの相手と結婚し、翌年に娘が生まれた。
その娘は魔術師を選び、結婚してアージェを産んだ。
そしてアージェが八歳の時、突然チェチーリアから連絡が来た。
息子に会って欲しいと。流行病にかかり後少しの命で、その息子はオルソの子だと言うのだ!
チェチーリアは、オルソと別れた後に身ごもっている事に気が付いた。彼女は、一人で育てる決心をする。
その子は、すくすくと成長して結婚もし孫も出来た。だが、流行病にかかってしまったのだった。
オルソは、親友の魔術師ダミアンに頼み、一緒に村についてきてもらった。
召喚師である騎士は、一人では外出許可がおりる事はないからだ。
村に着き、死ぬ間際に息子と会う事が出来た。だが問題があった。本来は召喚師の血族の者は、十歳になるまでは王都で暮らさなければならなかった。
息子には子供がいた。まだ五歳だ。
オルソは、チェチーリアに召喚師の話をした。
そして孫のシリルを連れて、一緒に王都に来て欲しいとお願いをする。
だが、また断られてしまう。
村には稼げる魔術師が少ない。自分がいなくなれば、今回の流行病の事もあり、存続していけなくなるとして断られたのだ。
この場合、本来ならシリルだけでも連れて帰らなければならない。だが、息子を失ったばかりの彼女から孫まで奪う事は出来なかった。
だから、シリルが十歳になった年に、儀式を行わせる為に連れに来ると言って、儀式の事は約束させたのだった。
シリルは、息子と幼馴染の家族に育てられる事になった。リーフの家族だ。
チェチーリアも一緒にお世話になる事になり、二人をその家族に託し村を後にした。
ダミアンも孫の事は、シリルが十歳になる時まで黙っていてくれる事を約束した。
そして、シリルが十歳の年に、また二人で村に向かった。
だが村に向かうにつれ、焦げ臭い臭いが漂い、ある程度近づいた時には、村を取り囲む様に山火事が起きていた!
慌てて二人は、村に向かった。
ダミアンは消火活動をオルソは村人の救助を。
しかし村には、誰もいなかった。逃げたのか、それとも連れ去られたのかさえわからなかった。
オルソは今回、王都を出る時に直接陛下に話をし、頭を下げて来ていた。チェチーリアとシリルの事を告げて出て来ていた!
その後、捜索するも進展はなく、チェチーリアもシリルも行方不明になってしまったのだった。
勿論、王都の外に子供どころか孫までいた事が、最悪の事態で家族に知れた。
特にアージェはショックを受けたようで、あんなに懐いていたのが近づきさえしなくなった。
アージェは、既に召喚師を選んでいた。
十五歳になった彼は騎士になり、それと同時に研究者にもなった。
それから微妙な関係のままに時は過ぎ、アージェが十八歳の時に、シリルが魔術師の試験に訪れた。この時も、突然連絡が来たのだった。
生きていたとオルソは安堵する。
そして恨んでいるかもしれないが、シリルに合わせようとアージェに告げた。
この日シリルは、試験を受ける前に城を訪れ儀式を受けた。勿論魔術師を選んでいる。召喚の能力を封印した。
その後シリル達は、森林のトンネル付近までオルソとアージェに見送られ、元気に村に帰ったはずだった。
オルソは、久しぶりにアージェときちんと話をしたいと思っていた。近場のベンチに座り、二人は話し合った。
あの時より大人になったアージェは、シリルに会った事もあり許してくれた。
だが、その嬉しさを打ち消す様な事が起きたのだ!
森林のトンネルから逃げて来た男性が、火を放つ魔術師に襲われたと言うのだ! しかもシリル達が、まだ襲われているらしいと話す!
慌てて二人は、トンネルに向かった!
二人が目の当たりにしたのは、恐ろしい山火事だった!
トンネルの出口が炎に包まれていた! とてもじゃないが、熱風と煙でその場に居られなかった! そして三人の姿も見当たらない!
消火活動後に辺りを検索し、アージェは自分があげたペンダントがちぎれて落ちているのを発見した!
彼はその場に泣き崩れた! やっと受け入れたのにと……。
その後、三人が住んでいた村を発見するも戻った形跡はなかった――
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