第一六話 彼らの秘密

 「リーフ。もう感づいているとは思うが、召喚師は存在する。この国に伝わる召喚師の話は、真実とは少し異なるのだ」

 「え……」


 驚くリーフだが、オルソは真剣な顔つきだ。


 「召喚師全員が悪だくみをした訳ではない。加わっていないその者達は、処罰を受けてはいない。現代もその子孫はおり、正体を隠し生活をしている。そして、彼らを王族が管理している」

 「管理……?」


 リーフが呟くと、そうだとオルソは頷く。

 そして詳しく内容を語り始めた。



  ◇ ◇ ◇



 ――召喚師とは、魔術師の中で召喚の能力を持つ者を言う。

 そして現在は、その血筋の者は、十歳になった時に召喚師になるか、魔術師になるかを選択させ、召喚師を選べば魔術の能力を魔術師を選べば召喚の能力を封印している。

 つまり召喚師を選べば、生まれ持った魔術を使えなくなる。

 その者達は、騎士として生活する事を義務付けられ、不用意に王都から出る事を禁じられる。

 勿論、どちらを選んだとしても、召喚の能力の事は秘密にしなければならない――。



  ◇ ◇ ◇



 その話を聞き、リーフは強張った顔で皆を見渡した。

 オルソが語った話が本当ならば、騎士は召喚師という事になる!


 「そうだ。ここにいる我々は全員、召喚師だ。だが勝手に召喚する事は、禁じられている。要は、召喚師だが、ただの騎士という事だ」


 ゴーチェはそう語る。

 ここにいる者達は、元魔術師だったって事だ。

 アージェが、リーフに怒った訳もわかった。

 自分で選んだとはいえ、奪われた能力があるのにって言う所だったのだろう。


 「な、何故僕にそんな話を?」


 あの署名は、この話を聞かせる為のものだったと、今更ながら気が付いた。

 でもリーフは、何故そんな重大な話を自分に話したのか、初めはわからなかった。

 別にヘリムの事を口止めするだけでいいはずだ。

 きっと自分の魔術を封印するつもりなのかもしれない!

 そうリーフは思ったのだ!


 「魔獣を封印したリボンは、普通の魔術師にはほどけないだろう。何せ召喚師が特別に掛けた術だ。召喚師にしか解けない。という事は、あなたは召喚師という事になる」


 ゴーチェがそう答えた!

 リーフが思った通り、召喚師として魔術を封印するつもりだ!


 「僕は……」

 「リーフさん!」


 嫌だと言おうと思うも、ゴーチェに強く名を呼ばれ恐怖でそれ以上言えなくなった。


 「お願いがあります。あなたは魔術師ですよね? たっだら召喚の能力は必要ないでしょう? その召喚の能力を封印させて頂きます」

 「え? そっち?」


 ゴーチェの言葉に、リーフは目をぱちくりとする。

 よく考えれば、そっちの選択の方が最良だ。リーフには、剣など振るえない。

 それに魔術師証を取得している。魔術師を選んだのだ!


 「言っておくが、リボンの封印はある条件によって解けるようになっていた。リーフが、召喚師だとは限らない」


 リーフが安堵した矢先、ずっと黙っていたヘリムが、驚くような事を言った!

 一体なぜそんな事を言い出したと、リーフは焦る。

 別にリーフにとって召喚の能力など必要ない。

 そこでハッとする。


 (そう言えば、マスターになってと言われた!)


 もし本当にヘリムのマスターになっているとすれば、ヘリムにとってはリーフの召喚の能力がなくなる事は問題だ!

 実際どんな能力はわからないが、それ以外ヘリムがそんな事を言い出す理由が思いつかない。


 (大変な事になった! どうしよう!)


 マスターになった事が知れれば、魔術の方を封印されるかもしれない!


 「あなたは、その条件をご存知で?」


 リーフが内心ハラハラしている中、ゴーチェはヘリムに問う。

 だが口を挟める雰囲気ではない。


 「勿論。施したのも俺のマスターだ」

 「で? その人物は今どこに?」

 「もうこの世にはいない」


 そう淡々とヘリムは答えた。

 リーフは、気が気じゃない。

 このまま今のマスターはなんて聞かれたら、自分だと言われそうだとリーフは一人青ざめていた。


 「話にならないな。条件も答える気はなさそうだ。あなたは、リーフさんの召喚の能力を封印させたくない。そう言う事かな?」


 (もうダメだ……)


 ゴーチェの核心に迫る問いにリーフは覚悟を決める。

 だが、意外な事をヘリムが言う。


 「では聞くが、召喚の能力が最初からない者に、その封印を行った場合はどうなる?」

 「何?」


 ゴーチェもそんな質問が返されると思っていなかったらしく、直ぐには答えられない。


 「あなた何を言って! リーフさんは……」


 ヘリムに向かって何かを言おうとしたアージェだが、そのヘリムに睨まれ、あの口うるさいアージェが口ごもる。

 有無を言わせぬ目線で黙らせるという事は、本当にヘリムは魔獣なんだとリーフは今更ながら驚く。そうかもと思っていても今一確信がなかった。

 そして何か言おうとしたのだから、アージェは何かを知っている!


 「何だアージェ。リーフさんがどうした?」

 「いえ、何でもありません……」

 「そうか」


 本当にアージェは、口を閉ざした。

 それにゴーチェは、ヘリムを睨むだけで留め、追及はしなかった。


 「あなたが何と言おうとも封印の儀式は行う。そういう訳で、この話は終わりだ」


 ゴーチェは追及はしないが、ヘリムのいう事も聞く気はなかったようだ。


 「では、ここに来る時に襲われた件を聞こう」


 そう言ってゴーチェは、この話を打ち切った。

 そう言えばそうだったとリーフは、その時に怪我を負ったフランクを見た。

 今は、怪我は完治しようだ。


 「何故狙われたか見当はついているか?」

 「思い当たるとすれば、魔獣の件ぐらいですが……」


 そうゴーチェの問いにオルソが答える。


 「この件は知っている者がかなり限られる上、襲ってきた者が二年前にシリルを襲った者と同一人物かもしれないとすると、わからなくなります。目的もどうやって情報を仕入れたのかも」


 続けてアージェが言った。

 リーフが二年前に、シリルと一緒に襲われたリーファーだと知らないアージェ達は、ヘリムが狙われたと思っているようだった。

 だがたまたまヘリムが居合わせただけで、リーフが狙われた。それが真相だろう。

 リーフがオルソの紹介状を使った事で、リーフがリーファーだとわかり、後をつけていた。

 ただし何故、シリルを使って襲わせたかは、リーフにもわからなかった。


 「そうか。もし二年前の事と繋がりがあるとすると、その者に内情を漏らした者がいるのは確かだ。不自然な行動を取った者がいないか、今一度調べるとしよう」


 ゴーチェがそう言うと、アージェ、オルソ、それにフランクが頷いた。

 もう自分が、二年前の当事者のリーファーだと名乗る勇気など、リーフにはなかった。

 言えば魔術師証を剥奪される覚悟も必要だ。

 リーフは、小さくため息をつく。


 「アージェ」

 「はい」

 「あなたはリーフさんをかん……いや保護してもらいたい。陛下と儀式の封印の段取りが済み次第行うまでの間だ。三日ほどだろう。勿論、彼を雇い寝泊りする場所を提供という体裁でだ。部屋はあったな?」

 「はい。わかりました。その間、普通に仕事をさせても宜しでしょうか?」


 勿論とゴーチェは頷いた。

 リーフは焦る。まさかの展開だった!

 アージェは、あまりリーフによい感情を持っていないように感じていたからだ。

 こき使われる……。

 そう思うリーフだが、拒否権はなかった。


 「さて後は、ヘリムさん。あなたは、この館に留まって頂く」


 ガシャ。

 ゴーチェがそう言ったかと思うと、自分の席を立ちヘリムの横に来ていたフランクが、ヘリムの左手を取り手首にブレスレットはめた!


 「それはリボンの代わりだ。勝手に動かれて何かあっても困るのでな。今のところ、元の世界に戻る気もないのだろう?」

 「ないな。まあ犬にされないだけマシか」


 ヘリムは、ゴーチェにそう返す。

 ゴーチェは、フランクからある程度話を聞いていた。

 知らないふりをして、リーフとヘリムに話を聞いていたのだ!


 「以上で解散する」


 そう言うとゴーチェは、立ち上がった。


 「あの、団長! 少しここでリーフと二人でお話をして行っても宜しいでしょうか?」


 オルソが何故かそう申し出た。


 「構わないが。一人では帰さない様に」

 「はい。送って行きます」


 ゴーチェは頷くと、フランクとヘリムと一緒に部屋を出て行く。


 「私は一足先に研究室に戻っています。早めに帰して下さいね」


 アージェの言葉に、わかったとオルソは頷く。

 リーフは、何の話だろうと、オルソを見た。

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