第一五話 尋問

 リーフは、騎士団の館の三階に連れて行かれた。いや正確には、シリルとフランクを除く四人は、三階の対話室に通された。

 そこには、大きな丸いテーブルがあり、十個の椅子が設置してあった。

 入り口を向いて時計回りに、アージェ、リーフ、ヘリム、オルソと並んで座る。

 そして暫くすると、フランクと初めて会う騎士が入って来た。

 フランクは、手の治療を終えてから来たのだった。


 アージェとオルソは、立ち上がり軽く礼をする。

 慌ててリーフも立ち上がり、真似て礼をした。

 もう一人の騎士は、騎士団の団長だ。

 フランクはオルソの隣に、団長は入口を背にちょうどヘリムの前の席に座った。彼が座るとアージェとオルソも腰を下ろす。

 リーフもやや遅れて座った。


 「団長、そのシリルは……」

 「彼はまだ寝ている。心配はない。人はつけたが、乱暴をするつもりはない」


 心配そうに聞くオルソに、団長はそう答えた。オルソは、ホッとした表情をする。

 団長は、オリーブ色の髪に瞳。他の三人の騎士同様に緑のマントに、今いる中で一番濃い緑の服装、腰に剣を下げていた。


 「さてはまず、自己紹介からだな。私は、この騎士団を束ねる団長のゴーチェ。宜しく頼む」


 そう言うと、鋭い視線を二人に飛ばして来た。


 「リーフです……」


 リーフは、消え去りそうな声で名乗るが……


 「ヘリム」


 リーフと違いヘリムは、物怖じなくそう名乗った。


 「では本題に入ろう。魔獣かも知れないと報告の件で来たのではなかったか? 犬はどうした? それとお二方は、それと関係ある者なのか?」


 ゴーチェの問いに、スッとアージェは立ち上がり、深々と頭を下げる。それをゴーチェは、目だけ動かし見た。


 「申し訳ありません。私の伝達ミスで、隣にいる彼が封印を解いてしまいました。そこにいる魔術師の格好をしたヘリムさんが魔獣です」

 「そうか。アージェ、これをリーフさんに」


 説明を聞いたゴーチェがそう言うと、アージェは頭を上げ、彼の元に行って紙を受け取ると、リーフの前にペンと一緒に置いた。


 「これに署名をお願いします」

 「え!? 僕は魔術師団には入りません!」

 「何を言うかと思えば。よく御覧なさい。これは、ここで見聞きした事を他言しないという約束事の誓約書です。それにここは、騎士団の館であって、魔術師団の館ではありません!」

 「す、すみません……」


 強引に魔術師団に入れらると思ったリーフは、拒否をするもアージェは呆れ顔だ。

 言われてみればそうだと、誓約書にリーフは目を通す。

 確かに言われた様に誓約だった。

 しかも、もし情報を漏らした場合は、如何なる処罰も受けますと言う文面もあった。


 「あの……これにサインしない場合はどうなりますか?」

 「あなた何を言って!」


 リーフの質問にアージェは驚くが、ゴーチェは笑い出す。


 「そんな事を聞いて来たのは、あなたが初めてだ。それは、我々と秘密の共有はしたくないと取って宜しいのかな?」


 笑い終わると凄んだ声で、ゴーチェは問う。

 リーフはゾクッとする。

 別にそう言う意味ではない。だた何となく、こんな誓約をするような内容を聞かされるのが怖かったのだ。


 「あなたは村へ帰りたいのですよね? でしたら署名した方が賢明です」


 まだ傍に立ったままのアージェは、上から鋭い視線を送りリーフにそう言った。

 リーフは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 署名しなければ、束縛すると言っている様に聞こえた。


 「署名します!」


 青い顔をしてリーフは、署名する。

 それをアージェはゴーチェに手渡し、自分の席に戻り着席した。


 「ご協力感謝します。さてそれでは、彼の封印をどうやって解いたのか、あなたの口からお話頂けますか?」


 何かを話すのかと思ったが、逆にゴーチェから説明を求められた。

 ゴーチェが発する言葉のトーンは、先ほどに比べると柔らかくなったが、目は依然として鋭かった。

 ごくんと唾を飲み込み、リーフは隣に座るヘリムをチラッと見た。

 ヘリムは平然としているが、こちらも何故か目は笑っていなかった。

 リーフは、こわごわと口を開く。


 「あの僕、村に帰りたかったんです。でもお金がなくてアージェさんに頼み込んで、今回の仕事だけでもいいからとお願いしてさせてもらったんです……」


 今回の仕事。それは犬を捕まえる仕事の事だ。

 ゴーチェは、うむっと頷く。


 「言われた通り犬を確保しました。実は、本当は犬が大好きで、帰してしまうともう会えないと思い、すぐ近くの森で少しだけと思って遊んでいたのですが、その時にリボンをほどいてしまいました。なんか苦しそうだったので、緩めようかと思って……。まさか魔獣だなんて思ってなかったし、人間の姿になるとも思ってなくて……」


 リーフは、お願いされてリボンをほどいた事を黙っておく事にした。

 犬と話せた事がバレるからだ。それは犬が普通の犬じゃないと、ほどく前にわかっていた事実を隠す為で、知れれば魔獣たとわかっていてほどいたという事になりかねないからだった。


 「よく、犬に戻ってくれましたね?」


 そう質問を投げかけてきたのはアージェだ。

 アージェは鋭い視線をリーフに向けている。


 「え? あ、えーと、お願いしました。犬を渡さないと、お金が貰えないと……」

 「それで彼は納得を?」


 アージェは鋭い視線を向けたまま、更に問い詰める。

 普通はそんな事で納得はしないだろう。

 何か取引があった。そう勘ぐって当然だ。

 実際、取引ではないが、逃げる手はずはあった。ヘリムが自分でリボンをほどいて逃げるだ。

 その為に片方を長めにしておいた。そしてアージェの目の前で、本当に自分でほどいてしまったのだ。

 だがお願いしたのは、事実はだった。

 その事を話すと、魔獣に加担した事になるのではないかと、リーフは困った。

 ゴーチェはどう思っているのだろうかと、リーフがチラッと彼を見ると、向こうはジッとリーフを見ていたらしく目が合う。


 「続きをどうぞ」


 そうゴーチェが言った。

 続きとは、納得したか答える事だろうか?

 そう思うも話の続きを話す事にする。


 「えっと。後は、アージェさんに引き渡そうとすると、ゲージに怯えて入るのを嫌がって……」

 「そうですね。あなたに助けを求める様に、後ろに隠れました。でもあなたは、助けるどころか、ゲージに入れようとした。だから彼は、自らリボンをほどいた……」


 リーフは、驚いてアージェを見た。

 アージェは、ニッコリと微笑んで『でしょう?』と言った。

 彼の言う通りなのだが、何か引っかかるリーフだった。


 「リーフさん。あなたは森で、彼から彼自身の事を何と聞きました?」


 話を聞き終えたゴーチェが、核心をついた質問をしてきてリーフは戸惑う。

 普通ならどうして犬にされたのか問うだろう。

 だが名案がリーフには浮かばない。仕方なく本当の事を言う事にする。


 「ま、魔獣だと聞きました……」

 「あなたは、それを信じたのですか?」


 さらにゴーチェは問う。


 「いえ。魔術師だと思っていました。話を合わせて犬に戻ってもらって、アージェさんに引き渡そうと思ったんです。そうしたらアージェさんまで、魔獣だと言うから……」

 「なるほど。それで魔獣だったと納得したわけだな。リーフさんが封印を解いたのは、間違いないようだな」


 驚いたと続けようと思っていたが、ゴーチェがそう締めくくった!

 違うと言いたいが、もう今更どっちでもいいような気がしてきたリーフは、肯定も否定もせず俯く。

 余計な事を言って、ぼろが出ても困る。


 「リーフさん。あなたは召喚師のお話をご存知ですか?」


 俯くリーフにそうゴーチェが問いかける。

 魔獣と召喚師。切っても切れない関係だ。


 「召喚師ですか? 確かその昔、悪だくみをし世界を滅ぼす様な魔獣を召喚しようとした為、この国の初代王が召喚師を滅ぼした。……そんな内容だったかと。その為、現代には召喚師はいない……はずですよね?」


 そう語りながらリーフは、ヘリムを見た。

 もしヘリムが魔獣なら誰かが彼を召喚した事になる。

 そしてヘリムが言った、召喚師は存在するという言葉を思い出す。

 ゴーチェがこんな事を訪ねて来るのだから召喚師が存在するのかもしれない。


 「俺、いえ私に話させて頂けませんか?」


 リーフが困惑していると、ゴーチェにそうオルソが発言し、いいだろうとゴーチェは頷いて許可した。

 一体どんな話だと、リーフはごくりと唾を飲み込んだ。

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