第八話 エメラルドグリーンが決め手

 リーフは、研究所の前に着くと、大きく息を吸って、はぁっと吐き出す。

 ヘリムを一旦地面に置き、研究室の扉をノックする。


 トントントン。


 「リーフです。戻りました」


 リーフは扉を開け、ヘリムを背中から持ち上がる。


 「遅かったですね? どこで油を売っていたのです?」


 リーフは、アージェの言葉にドキリとする。


 「すみません。少し、森で休んでいました……」


 リーフの言い訳を聞き、アージェは、はぁっとため息をつくと言った。


 「では、その犬をこちらへ」


 信じていはいないが、これ以上追及するつもりはないようだ。


 「はい」


 リーフは両手でだらんと下げた状態で持っていたヘリムをそのまま胸の位置まで持ち上げた。


 「あなた、もしかして……」

 「え?」

 「犬は、お嫌いですか?」

 「に、苦手です……」


 リーフは、何がバレたとドキドキするが違い安堵した。

 普通なら両手で胸に抱く者が多いが、リーフは嫌そうに持っている様に見えた。


 『なんだよ、そのオリ! 結界付きじゃないか!』

 「え?」


 突然しゃべったヘリムに驚いて、リーフはヘリムを落としてしまう!

 アージェには、「ワン!」と吠えただけにしか聞こえなかっただろうから、余程嫌いだと思ったに違いないが、ヘリムは何故かリーフの後ろに隠れた!


 「ちょっと何隠れてるの!」


 ボソッとヘリムにリーフは言う。


 「おや、苦手なのに懐かれておりますね。仕方がありません。リーフがそのゲージに入れて下さいませんか?」


 アージェは、スッと彼の後ろにあるゲージを指差した。

 先ほどヘリムが言っていたオリだ!

 ヘリムは嫌だと言わんばかりに、ジッとリーフの目を見つめる。その為、チラッとリーフがアージェを見れば、あちらもジッとリーフを見ていた。


 仕方なしにリーフは、ヘリムに手を伸ばす。


 『待て! あのオリは結界付きだ! あれでは元に戻れない!』


 きゃんきゃん吠えるヘリムを無視し、リーフは捕まえようとする。

 リーフにしてみれば、犬のままでいてもらった方がいい! 知らないフリして、逃げられる!


 『だからちょっと待てって! 作戦中止だ!』


 ヘリムは四本の足をバタつかせ、暴れて抵抗する!


 「そんなに嫌ですか?」


 そう言って見かねてアージェがヘリムに近づいた時だった!

 ヘリムの姿が歪み、人の形を取った!

 片方をリボンの先を長くしたままだったので、ヘリムが踏んで解いたのだ!


 「ったく。待てって言ってるのに……」


 この場で人間に戻るとは思っていなかったリーフは驚く。


 「あぁ、リボンがほどけちゃった……」

 「リボンですか……」


 ついでたリーフの言葉に、アージェがジロッと睨む。咄嗟に自分の口を押えるも遅い。

 人間になったヘリムを見てもアージェは、驚いた素振りはなく、床に落ちているリボンを拾った。


 「これがほどけると、こうなると知っていたと言う事で宜しいですか?」


  そしてアージェは、拾ったリボンを掲げ、リーフに質問をした。問いかけ方は優しく語りかけてはいるが、目が笑っていなかった!

 怒っている! そうリーフは思った。


 「ごめんなさい。実は、森の中で少し遊んでいたら、リボンがほどけて……」

 「こういう状況になったと……」


 アージェが続けた言葉に、リーフは頷いた。


 「まあ、逃げ出さなかっただけマシですか……。まったく余計な事を。しかし困りましたね」


 アージェは、腕を組み、人間の姿になったヘリムを見て言った。

 リーフが思っていた通り彼は、ヘリムが人間だった事を知っていた様子だ。


 「あの……この人は何をして犬にされていたんですか?」


 リーフは、思い切って聞いてみた。

 もう犬が人間だったと知れたのだから、答えてくれるかもしれない。そう思った。


 「犬にされた経緯などは知りませんが、この者は人間ではなく魔獣でしょう」

 「え!?」


 リーフの問いに驚く回答をアージェは返してきた!

 ヘリム自身が言っていた通り魔獣だという。

 魔獣は、召喚師が召喚すると言われている。現代に召喚師がいないとされているのに何故そうなるのだと、リーフはあんぐりとする。


 「普通の犬が、エメラルドグリーンの瞳であるわけがありません。私も自分自身で見るまで、半信半疑でしたが、魔獣だったようですね」


 アージェも犬だったヘリムの瞳がエメラルドグリーンで、更に人間の姿になった事から魔獣だと確信したらしかった。

 つまり犬ではないかもしれないと、思っていただけだったらしい。


 「あの、ヘリムをどうするのですか?」


 どうやらリーフがリボンをほどいた事で、完全に封印が解け、ヘリムが魔獣だとアージェが確信に至ってしまった。

 もしかしたら魔獣ではないかもしれないヘリムは、魔獣として殺されるかもしれない。そう、リーフの頭によぎった!


 「ヘリムと言う名ですか……。先ほどから大人しいですが、そのまま大人しくしているのならすの姿でも構いませんが、一緒に来て頂きます」


 ヘリムは、頷いた。

 アージェは、ヘリムをやはりどこかへ連れて行く気らしい。そして、それにヘリムは従うようだ。


 「あ、じゃ、僕は……」

 「勿論、当事者なのですからあなたも来て頂きます!」


 アージェは、やはりリーフを逃がしてはくれない様だ。


 (僕は、巻き込まれただけなのに……。って、アージェさんは、魔獣が怖くないのかな? 魔術師でもないのに、どうする気なんだろう?)


 このままだと、自分も殺されるのではないかと思うリーフだが、ふとアージェを見て疑問が浮かんだ。

 ヘリムは、魔術が使えるようだった。

 封印するゲージを用意していた事から、きっとそれは想定内済みだったのだろう。だが人間の姿を取ったヘリムをそのままにしておくのだろうか?

 抵抗したらすべがない。マジックアイテムを他に用意しているって事だろうか?


 どこにマジックアイテムがあるのだろうと、ちらちらとリーフは周りを伺う。


 「諦めなさい。逃げれはしません」


 周りを伺うリーフが、逃げ出そうとしてると思ったアージェがそう言った。


 「え!? あ、そうじゃなくて……。えっと、アージェさんは、魔獣が怖くないんですか?

 「騎士が怖がってどうします」


 何を当たり前の事をという顔をして、アージェはリーフの質問に答えた。

 騎士は、魔獣に対応できるって事だろうかと、リーフは驚く。

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