第27話 吉岡とUFOキャッチャー

 流石にそのまま帰るのは悔しいということで、何か探してみることになった。


 残された金額は320円のみだ。これで何が買えるだろう。吉岡と話し合いながら、イオンモールを回る。


 だが、どこに行ってもまともなものが買えそうにはない。


 妙案も思いつかないし。三人いないからだろうか。文殊の知恵が得られない。やはり、友達がたくさんいるのは、それだけで得なんだろうかと考えてしまう。


 このままでは、僕の「たいがいのことはひとりでできるもん!」理論が破綻してしまいそうだ。


 諦めて帰ろうかと思い始めたとき、大きな音がなっている一角が見えてきた。明らかに他のエリアとは一線を画した子供の遊び場、ゲームセンターである。そしてそこのUFOキャッチャーにどこかで見たようなぬいぐるみが入っている。


「これ、どっかで見たことがある気がするんだよな、吉岡は分かるか?」


「これは姉ちゃんの部屋に置いてある可愛くないジュゴンのぬいぐるみだな」


 やっぱり、そうか。


「これ、プレゼントにできないか」


 そう言うと吉岡も同じことを考えていたらしく、こちらを見て頷いた。僕と吉岡は一つ博打を打つことに決めた。

 

 吉岡がUFOキャッチャーの台の上に300円を置く。


「いいか、スプー。チャンスは三回、それまでに俺達はこのぬいぐるみをゲットしなければならない」


「でも一人プレイだし、僕は得意じゃないからな」


 この前とった景品も何回かかったことか。


「ちなみに俺は一回もやったことがない」


 そう言われると僕のほうがマシなのかもしれない。とった経験があるわけだし。でも、キーホルダーとぬいぐるみじゃ、ほとんど別ものみたいなものだ。


「僕にやれってこと?」


「いやもしかしたら、俺に才能があるかもしれない。だから、一回だけ挑戦してみる。それでだめだったら、後は頼む」


 そう言って、100円を投入した。真剣な表情でボタンを操作していく。おお、結構いい線いってるんじゃないか。これはこいつの集中力の賜物だろう。


 そして、アームが目的のジュゴンに触れる。しかし、かすっただけでつかみもせずにアームは上昇してくる。


「うーん、だめだったな」


 吉岡はあっけらかんとそう言った。


「まぁしょうがない。後は頼んだぞ、スプー」


 そう言って吉岡が僕の肩を叩いてくる。


 痛い。


 こいつ加減を知らないんだよな。あと、二回も肩を攻撃するんじゃない。やっぱり人と接するのは大事だな。そう、しみじみと思った。


「まぁ、やるだけやってみるよ」


 そう言って、100円を投入する。要領は大体、前やったUFOキャッチャーと変わらないし、これならなんとかなるかも。アームがゆっくり降りていって、今度は仰向けのジュゴンを掴んだ。


「おおっ」


 隣で吉岡がそんな声を上げる。だが、頂上に着いた時、アームが少し揺れた。その衝撃で、ジュゴンは少しずれた位置に落ちてしまう。


「ああっ」


 吉岡は悔しそうに唸る。まぁ、お前の金だしな。


「どうする。後一回だけど、お前がやる? それとも僕がやったほうがいい?」


 吉岡はしばらく悩んだ後、


「お前がやった方が確率高そうだし、頼んだぞ、スプー」


 そう言って、一〇〇円を渡してきた。まぁ、そう言うなら、別にいいけど。すこし緊張しながら、一〇〇円を投入する。最後だし、気合を入れなければな。


 吉岡からとは言え、誰かに期待されたからだろうか。横方向の調整は不思議と理想通りにできた。そして、縦方向の位置を合わせようと、ジュゴンの方を見る。


 だが、ジュゴンがさっきあった位置にタツノオトシゴが埋もれているのが見えた。


 あれは……


 あのぬいぐるみは……


「どうしたスプー、押し忘れたか」


 そう吉岡が言う言葉で気がつくと、いつの間にかアームは端まで行っていて、落ちてしまっていた。当然何もつかめず戻ってくる。


「ごめんな、吉岡。僕最後少しボッーとしてて」


 僕がそう言うと、


「まぁ、だめでもともとだったし、別にいいよ。手伝ってれてありがとな」


 と笑って許してくれた。

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