第25話 吉岡とプレゼント

 物語はハッピーエンドを迎えた。


 大団円だ。


 大と言うほど登場人物はいないが。


 とにかく、これ以上語ることはないほどにきれいに幕が引かれた。夢の中の女の子と出会えた僕は自分の目標を叶えて、目指すべき目標を失ったが、ありふれているけど大切な普通の日常を過ごしていくのだ。


 僕はそんなことを考えながら、吉岡の話を聞き流していた。


 こいつは本当に子供の頃から全く変わってない。何ていうか成長が見られない。


 身長ばっかり伸びた、竹みたいなやつだ。竹は地下茎で繋がってるから、協調性はあるんだった。じゃ、竹以下じゃないか。いや、これ以上考えるのはやめよう。僕にもダメージがいく。


「聞いてるか、スプー。そういうわけで、二次元幼女は神の作った造形物の中で最も美しいものの一つだ。それをなんとか人の手で再現しようという試みに俺は挑んでいるんだよ」


 こいつにとって二次元というのは普通の意味じゃない、イデア的な何かなんだろうか。精神世界とかそういう。


 こいつの話はさっぱり理解できたことがない。何回聞かされても心のどこかが納得していない気がする。大体、何回目だよ。僕は何回同じ話を聞けばいいんだよ。


 そんな感情を薄っすらと視線に込めながら、吉岡を見ていると、


「何だ真剣な顔をして、やっと俺の話の価値が分かってきたか」


 と随分的はずれなことを言ってきた。とことん残念なやつである。


「話が脱線してるなって思ってただけだよ」


「そう言えばそうだな、もともとはなんだったけ? ああ、そうだ。今季のアニメの『ラノベなのか、ラノベじゃないのか、それが問題だ』がいかに面白いかだったっけ?」


 何を言ってるんだこいつは。


「違う違う。何で僕がそんなこと聞く必要があるんだ。お前の姉ちゃんの話だろ。またプロレス技かけられたって話」


「そうだった、そうだった。父さんが遊園地のチケットもらってきたから、今度は姉さんが使いなよって言ったら、技かけられたんだよ。酷いだろ」


 多分どうせ、というか九割型こいつが悪いとは思うが、一応話しだけは聞こう。


「で、お前はなんて言って譲ったんだ?」


「いや、俺も前回のことを反省してな、今度は怒らせないように、『俺が前回もらったからさ、今回は姉さんが友達と交流深めるために使いなよ。数少ない大事な友達なんだから大事にしたほうがいいって。あんないい友達、二度と姉さんにはできないよ』、そう言ったんだ。そしたら、なんか急にキレてきたんだよ。ホントわけわかんないよな」


 言ってるな、明らかに言ってる。


 だが、僕は何も口は出さなかった。


 吉岡の性格はもう治らないし、第一こいつも助言なんて求めてないのだ。ただ、誰かに話したいだけなんだろう。


「それで、姉さんと喧嘩になってな。今も喧嘩中なんだ。だから、お前に頼みがある」


 そう言われても僕にできそうなことなんてないんだが。


「喧嘩の仲裁とかは無理だ。僕も怒られたくないし」


 こいつとは小さい頃からの付き合いなので、当然こいつの姉ちゃんとも話す機会は多い。ただ、僕はあの人のことがどうにも苦手なのだ。


「いや、お前を連れて行ったらなんか逆に怒られそうだし。それは別にいいよ。頼みたいことってのは、姉さんに何かプレゼントして機嫌を直してもらおうと思っててな。それをお前に手伝ってほしいんだよ。今日とか暇か、暇だよな」


 連れてったら怒られるって僕何かしたっけ。


「まぁ、それくらいなら別に構わないぞ」


 こいつ僕が暇だと決めつけてやがったな。いや、暇であることは事実なんだが。


「けど、自分一人で選んでもいいと思うんだが」


「俺一人だけだと、なんかプレゼントしてもまた怒られるような気がしてな」


 そう言われて、確かにそうだなと思った。


 そんな感じに、放課後プレゼントを買いに行くことが決まった。ハッピーエンドの物語のその後なんて案外こんなものなんだろう。こうやってありふれた日常を繰り返していくのだ。


 僕はそのことに、満足している。


 うん……満足している。

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