第20話 後輩とカラオケ
何でも聞くという権利を行使して、空は僕をカラオケに連れて来た。そこで僕は、
「プリティで、キュアキュア、ふたりは、プリッキュア〜」
初代プリキュアオープニングを歌わされていた。
なんでこんなことになったんだろう。激しい後悔に襲われる。
「可愛いですよ、春先輩!」
空はそう言って、タンバリンを叩いている。
ぶん殴ってやろうかと思った。
いきなり連れてこられたカラオケで、さっきのペナルティとしてのお願いが、このプリキュアオープニングを歌うことだったのだ。
しかも真面目に歌ってないとか言われて、何度もやり直しさせられた。原曲キーで歌うまで許してくれなかったし。
もうお嫁に行けない。
僕が歌い終わった後、ダメージでしばらくうずくまっていると、
「うん。しっかり取れてますね」
空がスマホをいじりながらそんなことを言っていた。
えっ。
しかもなんだかプリキュア歌っている音がそのスマホから聞こえてくる。ていうかこれ僕の声じゃん。
「消してくれよ」
そう言って手を伸ばすが、ひょいとかわされる。
「なんですか、私に乱暴する気ですか、ケダモノ先輩」
こちらを小馬鹿にした笑顔を向けてくる。
ケダモノ先輩って、それマイブームなの?
そう言われては近づくことができない。僕がさらなるショックで打ちひしがれていると空が少し心配そうに見下ろしてくる。
「そんなに落ち込まないでくださいよ、私が個人的に鑑賞するだけですから。誰にも見せたりしませんって」
そう言われても、最近の女子高生は怖いのだ。SNSでいいねを貰うためだったら、平気で人を売りそうだ。とても信用できない。
「ていうかそれが保存されているだけで、僕は安心して眠れなくなるんだよ」
そう言うと彼女は少し考え込んだ。
「そんなに不安なんですか? まぁ、消してあげてもいいですけど」
そんなことを言ってくる。
「えっまじで」
僕はすぐさますがった。情けない男だった。
「ただし、条件があります。カラオケの点数勝負をしましょう。一曲でも勝てたらいいですよ」
僕も何度も騙されるようなバカではない。
「今度は、僕からは何も賭けなくていいんだな」
その確認は怠らない。
「いいですよ。でも、それを聞くってことは自信がないんですね。春先輩」
「いや、一応の確認だ。、また騙されたら悔しいからな。勝負に勝つ自信なら満々だぞ」
僕が家で一人で何度サンボマスターを歌ってきたと思ってんだ。吠え面かかしてやるぜ。
僕は歌った。死力を尽くして歌いきった。そして、すべての勝負で負けた。
というか歌った全曲中、空に勝った曲などなかった。僕の歌った曲は全部80点台、空のは全部90点台だったのだ。
「なんでお前そんなに歌美味いの?」
「春先輩が何で自信満々だったのかのほうが気になりますけど」
それは、カラオケなんてほとんど来たことなかったからね。家で一人で歌ってると自分ってもしかしてかなり上手い? とか思っちゃうじゃん。
さっきのはプリキュアのせいだと思ってたけど、僕が別に上手くないことに歌ってる途中で気づいたよ僕も。
なんだか傷ついてきたので、空に水を向ける。
「僕のことは、まぁいいからさ。何でそんなに上手いの?」
「そんなに上手いつもりはないんですけどね。まぁ、才能かな」
ムカつくな。
僕が不機嫌な顔になったのを見てだろう。
「じゃあ、才能っていうのが本当であるところを見せるために、私の十八番を披露しましょう」
そう言って、何か曲を入れて立ち上がった。しばらくすると、懐かしい曲が聞こえてくる。
「old MacDonald had a form e-i-e-i-o」
と歌い始めた。
小学生の頃、英語の授業でよく聞いた曲だ。確か、アメリカの農場の爺さんがいて、そこで飼っている動物たちの鳴き声が聞こえてくるという歌だ。
けど、別に普通の歌なんだけどな。童謡も歌えますというアピールだろうか。
そんな感じで訝しんでいると、
「with a “??????” here and a “??????”there」
ん?
「Here a “???”There a “???”Everywhere “???”」
ん?ん?
幻聴だろうか、さっきから動物の鳴き声の部分が擬音語じゃなくて、鳴き声そのものに聞こえる。さっきのプリキュアのダメージが残っているのかもしれない。
そんなことを考えていると、今度はアヒルの鳴き声を歌うパートになった。
「with a “グァグァ” here and a “グァグァ”there」
幻聴じゃない。
「Here a “グァ”There a “グァ”Everywhere “グァグァ”」
確かに動物の鳴き声を発している。
すごい!
すごいけど、歌関係ない!
僕はそのモノマネ自慢にしばらく付き合わされた。
「どうでしたか?」
そう満足げな表情で聞いてくる。こいつは、僕に一体何を見せたかったのだろうか。ここで、歌関係ないじゃん! と突っ込んでも良かったが、わざわざ気分を害すこともないか。
「まぁ、うん、良かったんじゃないかな」
「なんだか不満そうですね、春先輩」
そういって少し挑発してくる。
ただ、反論する気も起きなくて、僕はそんなことないぞと言ってそれを流した。
そのときの彼女はなんだか不満そうに見えた。
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