第10話 転校生と観察
「それじゃあ、あの転校生がお前の夢に出てきた女の子だってのか」
吉岡は本当に大丈夫かこいつという顔をしながら、こっちを見てくる。
「正確には、夢に出てきた女の子かもしれないだな。名前が違うし、なんか雰囲気もだいぶ変わってる」
彼女、紅葉秋は先程から、転校生にお馴染みのあの同級生に机の周りを取り囲まれるという僕からすると、いじめに思えるような目に遭っている。
転校生に対しておなじみのあれは、コミュ障の僕には耐えられないだろう。僕は転校生にはなりたくないと祈った。
まあそんな状態なので、話しかける勇気がない僕は見てないふりをしながら、聞き耳を立てているのである。
「好きな食べ物って何?」
「……」
「前の学校で何かスポーツとかやってた?」
「……」
紅葉秋は何か言葉を返そうとはしているようだったが、声が小さすぎて、実質返事を返せていない。僕もあんなに取り囲まれたら、ああなる自信はある。だが、あれではきっと友達はできないだろう。
僕は吉岡の方を振り向いて少し安堵し、
「僕にはお前がいて良かったよ」
と言ってみた。
「気持ち悪、お前本当に大丈夫か?」
と失礼なことを言ってくる吉岡だったが、その顔は少し頼もしげに見えた。
まあ、こいつに僕以外の友達ができる可能性があったとは思えないので、こいつとつるむことになったのは半ば必然なんだろうが。
とにかく、このままだと彼女はきっと遠からずぼっちになると思う。ただ、コミュ障の僕にはそれをどうすることもできないという現実もまたある。
休み時間のたびにだんだんと減っていく周りのクラスメートと彼女との会話を盗み聞きしていると、一日が終わった。
次の日も僕は同じように聞き耳を立てていた。その日も何人か話しかける人がいたのだが、
「紅葉さん、好きな曲とかある?」
「……」
相変わらず、返事できていなかった。
そして僕の予想通り、午後になる頃には誰も話しかける人はいなくなった。ここで話しかけに行けばいいのだろうが、コミュ障である僕にとってそれはとてもハードルが高く、実行できそうにない。彼女の席にたどり着くまでの動きがロボットダンスになる自信がある。
うだうだと悩んでいるうちに放課後を迎えた。ちなみにその日、彼女はチョココロネを食べていた。
その次の日も相変わらず話しかける勇気が湧いてこなかった僕は、彼女に気づかれないようにそのぼっち生活を観察した。
その日分かったことは、相変わらずチョココロネを食べていたことが一つ。
授業によって明確に好き嫌いがあるらしく現国の授業ときはしっかりと聞いていたのに、英語の授業となると夢の世界へ船を漕いでいたことがもう一つ。
そして、タツノオトシゴのキャラクターがお気に入りらしく、シャーペンや消しゴム、筆箱、クリアファイルに至るまでそのキャラクターのもので統一されていることの3つぐらいだった。
僕は話しかける勇気が出ないまま、彼女の観察を週末まで続けた。
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