夢なのか、現実なのか
第9話 転校生と朝礼
「スプーどうした?珍しく考え事でもしてんのか」
朝礼前、前の席の吉岡がそう言ってきた。
「ちょっと、な」
「あれか、俺が昨日ツイッターに上げた冬空未来ちゃんのイラスト、あれでついにお前も二次元にハマったか」
昨日のイラストはよほど自信作だったらしい。
「いや、それはどうでもよくて。ちょっと相談に乗ってほしいんだけど」
「どうでもいいってことはないだろ。俺のフォロワーの人たちは大変喜んでくれたんたぞ」
今日の吉岡はちょっとめんどくさい。まあここはとりあえずなだめておこう。
「分かったから、お前の絵はどうでも良くはないから、とにかく聞いてくれよ」
吉岡は少しだけ不満げな顔になった。
「まあ、聞くだけは聞こう」
そう返してきた吉岡だったが小声で何か呟いているのが聞こえてくる。
「あれは結構自信作だったんだけどな」
そんなにショックだったのか、ちょっと悪いことをしたかもしれない。とりあえず聞く姿勢になってもらったし、話をするだけしよう。
「それでな、僕は今どこにいるかも、そもそも存在してるかも分からない女の子にどうやったら会えるのかってことを考えてるんだ。もしかしたら、お前はそんなことできないって言うかもしれない。でもな、僕には会えるって確信があるんだよ。だから、協力してくれないか」
僕の発言が終わりに近づくにつれ、吉岡の目がだんだんと点になっていく。 最後まで、一応話を聞いた吉岡は、
「ふーん、そうか。大変だな」
と心にもない感じで言葉を発すると、前を向き手元の英単語帳を音読し始めた。こいつは友人の悩みより2限の小テストのほうが大事らしい。腹が立ったので後ろで古文単語を読み上げてやった。
「neglect、おこたる」
「おこたる、病気が治る」
「serve、つとめる」
「つとめて、早朝」
「mark、しるし」
「しるし、はっきり分かる」
「混ざる、混ざっちゃうから、やめろ。何なんだ一体。朝からおかしなことを言ってるやつがいたら、無視したくもなるだろう」
そういってジト目でこっちを見てくる。全然可愛くないし、むしろキモい。
「その目をやめろ。僕はそこまでおかしな事は言ってない。お前のいつも言ってる二次元嫁と大差ないだろ」
「スプー、俺の愛を馬鹿にする気か。現実にあるものを愛する、そこには妄想に恋してるお前には決して分からない真剣な愛があるんだぞ」
二次元は現実にあると言えるのか、とか思ったがここは話を進めるためにあえて流そう。
「いや、妄想とかじゃなくて、夢なんだ。夢に出てくる女の子にどうにかして会いたいんだよ」
真剣味が足りなかったかもしれないので、声音を真面目なものに変え、真剣な表情を作って言ってみた。
「いや、どっちにしろやばいと思うが。頭大丈夫か」
「一度や二度ならそう思われても仕方ないかもしれない。でも、本当に何度も何度もその女の子に会うんだ、きっとこれは何かあるんだと思う、運命的な何かがな」
吉岡は急に気遣わしげな目を向けてきた。
「スプー本当やばいって、俺が先生に言っといてやるから今日は帰って休め」
「いや、大丈夫だから。失礼なやつだな」
それからも色々と心配されたが、じきにチャイムがなり、吉岡も渋々と話をきりやめた。
始業時間前の緊張してしまうほど静かな教室が出来上がる。
しばらくすると、その中に響く音が聞こえてきた。いつもの足音ともう一つ聞きなれない足音の2つが重なっている。
一つはおじいちゃん先生のうちの担任のもなんだろうが、もう一つが分からない。
その音は教室の前で止まった。教室の引き戸を開け、
「今日も一日、よろしく」
と言って担任が教室に入ってくる。
いつもはすぐ教壇横の椅子に座るのだが、その日は珍しく立って朝礼を始めた。
そして、
「今日は転校生を紹介したいと思う。入ってきなさい」
と外に向かって声をかける。
引き戸が開くその瞬間、僕は驚きのあまり、声を発することもできなかった。
ショートカットの黒髪に、色白の肌、そして優しげな目元が印象的なその女の子は、黒板に自分の名前を書いて、教室の方を向いて顔を赤くした。
黒板には『
夢の中で出てきた女の子と全く同じ容姿のその女の子に僕は放心してしまって、気づくと朝礼が終わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます