第11話 吉岡と手紙
「スプー、俺は悲しいよ。なんで友人がストーカーに落ちる姿を目撃せねばならん」
吉岡はそう言うとしくしくと泣き真似をした。
うっとうしい。
今日は紅葉秋が来てから土日が開けた月曜日、僕は昼食を教室で食べながら、あれからずっと続けている紅葉秋の観察を今日も行っている。
「ストーカーとお前は言うけど、別に家までついていってる訳じゃないし。学校にいるときにずっと見てるだけだろ」
「それでも大分ストーカーじみてると思うけどな。話しかければいいじゃないか、こうやってこっそり見るんじゃなくて」
こいつはいちいち正論を言ってくるので、厄介である。
「僕にも色々あるんだよ、いいから好きにさせてくれ」
彼女、紅葉秋が夢のあの子と関係があるのか、ここしばらく観察してもよく分からなかった。
正直、話しかけて確かめるのが一番いいんだろう。けど、なんて言って確かめたらいいのか、よく分からない。
『夢で会いませんでしたか』、これでは昔のナンパみたいだし、『君が僕の夢に出てくるんだ』、この場合そのまま告白みたいになってしまう。だいたい僕は夢のあの子に会いたいだけで、紅葉秋に興味があるわけじゃない。
そんなことをぐるぐると考えて、なかなか前に進めずにいるのだ。イライラしてきたので、吉岡に言い返してみる。
「そうは言うけどな。例えば、お前が同じ状況だったら話しかけに行けるのかよ」
「なんで俺が三次元の女に話しかけなきゃならないんだ。俺は二次元にしか興味ないぞ」
こいつ……。
「お前、僕に話しかけろって言ったよな」
そう言うと吉岡は少し考えて、
「そうだなぁ、例えばお前が草食動物だとする。そんなお前のエサ場を荒らす雑食動物がいたとして、お前がそいつに文句を言ったとしよう。それに対して、雑食動物がじゃあお前も肉を食えば解決するじゃないかと反論してきたとする。どう思う?的外れだと思うだろ」
と相変わらず訳のわからない例えをしてきた。
「つまり、どういうことだ」
そう問いかけると、
「たらればの話をしてもしょうがないってことだ、俺は三次元の女に興味がないし、もし俺が興味を持っていたら、なんて話はまったく無駄なんだよ」
こいつは結構こういうところがあるのだ。人にはっきり自分の意志をぶつけてくるというか。悔しいがどうにも言い返せないことも多い。
それでも僕がウーウーと唸って威嚇していると、面倒に思ったのだろう。吉岡はため息をついて、
「仕方ない。恋愛経験豊富な僕がアドバイスしてやろう」
と言ってきた。
明らかに経験はギャルゲーだけなんだろうが、一応ありがたくもらっておこう。
「女子の秘密に触れるには、まずは仲良くなることだ。急がば回れって言うだろ」
その返答にちょっとびっくりしてしまった。
二次元にしか興味のない吉岡にしては意外にもまともなことを言ってきたからだ。今度僕もやってみるかな、ギャルゲー。
だが、こいつの意見には致命的な欠陥がある。
「仲良くなるったって、僕も彼女もコミュ障だから普通にやっても仲良くなれないと思うんだけど」
コミュ障同士が仲良くなれるというのは嘘だ。コミュ障というのは決して自分から話しかける事はしない。なぜなら話しかけたことで失敗した経験からコミュ障になるからだ。
つまり、お互いに話しかけられないコミュ障では友達になりようがないのだ。
これが僕の持論である。
「恋愛マスターの俺からもう一つアドバイスだ」
いつのまにか恋愛マスターになっていた吉岡は胸を張って、
「古式ゆかしくいこうじゃないか、文通ってのはどうだ」
と言った。
翌日、早朝に学校に来た僕は紅葉秋の机に、手紙を入れておいた。
『はじめまして、いきなりこんなものが入っていて、びっくりしたと思います。紅葉さん、この間初めてあなたをお見かけして、それ以来あなたのことがずっと頭から離れません。だんだんとお話がしたいという思いが強くなっていったのですが、どうしても直接会う勇気が持てませんでした。それでもあなたとお話がしたくて、こんなものを送りつけてしまいました。自分のことも明かさないこんな状態で厚かましいのですが、もし返信してくださるなら、放課後三階の空き教室、右から二番目、前から三番目の机に入れて置いてください。』
これで返事がくるかは分からない。気持ち悪い、と思われて捨てられてしまうかもしれない。そんなことを考えて、その日は授業にも全然集中できなかった。
だが放課後空き教室に行ってみると、
『私の何がそんなに気になるんですか。』
と書かれた手紙が入っていた。
手紙だと饒舌なんだな。
僕はてっきり何も入っていないか、バカにしないでと書いてある手紙でも入っているのかと思っていた。コミュ障は誰かに関心を持たれてるという期待感に勝てないということかもしれない。
あと、やっぱりやろうかな、ギャルゲー。
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