第12話
「そこで今回の練習内容を発表する!」
蜘蛛の声は幾分震えていた。
ぼくは、ものが大きく見えるってどういう時かなぁと考えていた。
実際に大きくなった時か、自分が小さくなった時じゃないかなぁ。
つまり、空気が澄んでよく見えるようになった星の光が、蜘蛛には大きくなったと感じられた。もしくは、蜘蛛が縮んだ。
(小さくなる? 蜘蛛が?)
「今回の練習内容は……練習に見せかけて突撃、そして端っこを糸で埋めて、これ以上の拡張を止めることだ!!」
「それはただの本番だよねぇ!!!」
ぴーっとぼくは抗議した。
「本番なら先に言ってよ!!! ぼく、これからほ……おぞんほうるまで飛んで行く事になるの!?」
「敵をだますにはまず味方からっていうでしょ。相手は拡張できるんだよ? おそんほうるには意思があって、体を伸び縮みさせられるのかも知れないじゃん。
現実問題、今も拡がってる以上、真相を確かめてる時間だって、あるかわからないんだ。
過酷なことに付き合わせて、悪いとは思ってる、でも……」
説明するうち、蜘蛛の声はしゅおしゅおしぼんで小さくなっていった。
蜘蛛にそんな声を出されたら、ぼくの気持ちもしゅおしゅおして、しゅおしゅおぶんがぎゅうっと凝結して、一滴の涙にかわってしまう。
「蜘蛛、悪いことなんかないよ。ちょっとびっくりしたけど! ぼくなら大丈夫だよ。行こう。世界を救おう!」
「鳥……」
「そうだ! 世界の話をしてよ! ぼく実は、まだ、蜘蛛のいう世界と地球とのこと、よく理解できてないんだ。蜘蛛はずっと、地球とは違う、世界の話をしてるんだよね? それどういうことだろう、とかさ!」
「そっか……そんなこと思ってたんだ…………それは、新事実だな……」
「えへへ! しんじじつ! おあいこだね!」
蜘蛛が笑った気配がした。
ぼくの胸の内側に、冬毛が生えたみたいにふわっとあったまる。
「そうか……世界とちきゅうか……あたしもちきゅうのことは最近知ったばっかりだから、うまく説明できるかわからんけど……そうだな……」
蜘蛛は、少しの間考えて、言った。
「あんた教わった話だと、ちきゅーってたいよーの周りを公転じゃん?
でも世界はそうじゃなくて、自分で好き勝手転がせる感じ。わかる?」
わからん。
ぼくは考えようとして、したんだけれども、
「あ。人間」
蜘蛛がいきなり言うものだから、ぴーーーーっと叫んで高度を上げた。
「Gが!!」と蜘蛛から悲鳴が上がったけど、ぼくは構わず空に昇りながら、地上を確認した。
ぼくらは、いつの間にか風に乗って林の上を抜け、巨石群がならぶ平原にの上を飛んでいた。
人間は、大きな個体小さな個体でぞろぞろ列をなし、ひとつの巨石に向かって俯いていた。
全員下を向いてるから、空のぼくらには気づいてないようだった。
でも、数がいる!!
「蜘蛛、だめだめ、林に逃げるよ!!」
「えぇ!? この距離なら大丈夫でしょ、人間だよ? 飛べないんだよ?」
「飛べないから何してくるのかわかんないのがあの生き物だよ!!!」
「まぁ。あたしも殺されかけたことあるから反対はしないけど」
「ぴいいい、殺されかけたの!!?」
ぼくは勢いよくターンして、多少の羽音は気にせず、一目散に林を目指した。
殺されかけたっていうのに蜘蛛は呑気なもので、ぼくの尾のほうに移動して人間観察を始めた。
「うーーん、あれは人間だれか死んだなー」
「蜘蛛、落ちないとこに戻って!!」
「あんた葬列ってわかる? 葬儀は? 埋葬ならわかるか??」
「リスがドングリ隠すことでしょ! あれ掘り起こして食べちゃったことあるよ!」
「それ埋めてはいるけど葬ってはないなぁ。いや、でもリスは葬ってるつもりなのか……?」
「林突っ込むよ!! つかまって!」
こうして、ぼくらの二度目の世界の救済は失敗した。
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