第11話

ぼくと蜘蛛は、世界を救う練習をすることにした。


「へぇ。お兄ちゃん」

「そう!!! えへへ、時々会ってね、お話するんだぁ!」


背中に蜘蛛を乗せて飛びながら、ぼくはお兄ちゃんとしたお話、美味しい虫やご飯処の情報交換をした事、ほかのきょうだいにつがいが出来たとか、きょうだいの何羽かは大きい鳥に食われてしまったとか、そういう事全部を蜘蛛に話した。


「きょうだいかぁ〜〜。あたしらってひとつの卵からばぁ〜〜っと大量に出るからさ、逆にそういう血縁つーの? 意識する事ないんだよねぇ〜」

「そうなの? いっぱいいるのに、なんだかもったいないねぇ」

「いやいやぁ。虫が一度に大量に生まれるのはさ、結局そんだけ食われるって事だから。次世代残せるまで生き残れるのって、一緒に生まれた連中のうち何匹だよって話で」

「そ、そういえばぼくは虫を食べてるね」

「それを言ったら、あたしも虫を食べてるね……」


空気はぐっと冷えていた。

この空気が「寒い」から「冷たい」になると、冬になったことになる、そうだった。


「今日はあれだ、敵の不意をつけるように動こう」

「敵って、おぞんほうる?」

「そう! 奴はただ存在して、シガイセンを世界にとおす、それだけなんだ。具体的に攻撃してくるわけじゃない」

「う、うん、ええ、そうだね」


ぼくは世界を救う練習を始めてなお、蜘蛛の唱える世界の危機には完全に同意できずにいた。

蜘蛛の言うおぞんほうるは星の事だと思うし、紫外線は過剰じゃなければむしろ必要だ。


「でも……実は、今まで確証がなくて、黙ってきたことがある」

「ぴ、ぴぃ!?」


ぼくはびっくりして緊張して不必要にぴんと筋肉を張ってしまって、がくんと高度を落としてしまった。

蜘蛛が「うわぁ」と悲鳴をあげる。


「ご、ごめん! 蜘蛛、足とかもげてない!? 落っこちてない!?」

「大丈夫、あんたふかふかだから、糸も足も引っ掛けやすいから、そうそう落っこちない。

 仕方ないよ……この段階になって、新事実となるとね、あたしも確証を得たときは、落ちたもん。ほら、気持ちが」

「そそそそ、それで、おぞんほうるの新事実って、なんなの!?」

「うん、これは、落ち着いて、聞いて欲しいんだけど……」


ぼくは蜘蛛の話に集中すべく、なるべく風の流れに乗るままになるように、飛んだ。


「おぞんほうるは……拡張する!!」

「おぞんほうるが、拡張する………!?」


星って拡張するっけ?


ぼくはここにきて初めて、おぞんほうる=星ではなく、世界の危機=蜘蛛の熱烈な勘違いでない可能性を突きつけられた。

世界、ひいては地球は、もしかして本当に危機的状況にあるのかも知れない。


(でも、あれ、蜘蛛は、地球って概念を知らなかったよね?)


となると、うん、あれ?


「おぞんほうるはね! 大きくなるんだよ! あんたは鳥眼だから見えないだろうけど、夜、暗くなった時ね!? 前はあたしの脚の節ひとつぶんだった光が、今は脚の節ひとつと半分くらいの大きさになってんだよ!! やーばいよ!!」


ぼくは、冬は空気が澄んで星の光がよく通るようになるため、夜行性猛禽類には特に注意しなければならない、という本能情報を思い出した。

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