第4話

ふさふさ期? を経て翼の形が出来てくると、僕らはいよいよ、世界を救うための作戦会議にはいった。


「いい!? 今、世界は未曾有の危機に直面しているの」


蜘蛛の真剣な声が、カマクラに響いた。

ぼくはごくりとつばをのみこんだ。


「あんたは鳥目だから、夜の空がどうなっているかわからないでしょう」


ぼくはそっ…とカマクラから顔を出して空を見上げた。快晴。秋晴れ。まだお昼。

そっ…とカマクラ内に戻って、また、ごくりと咽をふるわせて、蜘蛛に続きを促す。


「夜空にはね、無数の穴があいていて、これはおぞんほうるっていうの」


ぼくはおっかなどきどき聞いてみた。


「それは…どんな穴なの」

「光ってるよ」

「光る無数の穴…。…。…。…。…。…。…。…。…。…。…?」


それって星じゃない?

鳥目で生まれたてのぼくにはあんまり馴染みがないけれど、ほんのうの範囲内で知っている。猛禽類っていう夜の捕食者や夜行性の猫が、光源として利用するものだ。だからぼくらみたいな夜目のきかない鳥は、夜になると月や星明かりから身を隠して眠る。


「おぞんほうるはね、光るから一見きれいなの。でも、そこからはシガイセンっていう毒が入ってきていて、それをあびると、知らず知らず身体がむしばまれていくんだよ」


ぼくのほんのうの範囲内では、紫外線は昼の太陽からも出ているし、過剰じゃなければ身体に有益だ。

「ほんとうだよ!」

ぼくがあんまりわかりやすく疑念を顔に出してたのか、蜘蛛は身振り手振りでおぞんほうるについて熱弁をふるった。


「今は明るいから見えてないだけで! 夜空にはね! ぶわーっと一面に、穴があいてシガイセンが入ってきてるの! ぶわーっと! すごいんだら。しかもシガイセンは、はいってきてることに気づかないの! 目に見えないの。光って見えるのはね、あたしら生き物をおびきよせるためなんだよ。

蜘蛛は物陰の方が好きだけど、大体の羽虫は光のあるほうに行くしょや。

奴らシガイセンはそういう連中から汚染してくんだよ!

にゅうすでやってたんだから!」


にゅうす、は人間の情報源のひとつで、蜘蛛と一緒にいるとたまに会話に出てくる。

箱の中から、時代のいちばん新しくて、正しい情報を伝えてくるんだそうだ。


「あたしはね、毒を垂れ流すその穴をこの糸で塞いでやるんだ。そのためには、奴らが油断して光り忘れてる真っ昼間に奇襲をかける。

あんたはそこまであたしを乗せて飛んでくんだよ。

ごめんね、過酷なことに巻き込んでる……」


蜘蛛はしゅんとしょげたけど、ぼくはどう反応して良いかわからなかった。

ぼくのほんのうの範囲内の情報と、蜘蛛の話が整合しない。


「ぼくは、いのちを助けてくれた蜘蛛の力になれるなら、なんでもいいけど……その……それは、ほんとうに世界は……地球は、ほんとうにほんとうにそんなにピンチなの?」


ぼくはとっても難しい顔になったと思う。「それ勘違いでは?」をもてる限りの婉曲な表現で伝えることは、とっても難しかったから。

そしたら蜘蛛はきょとん、とした顔をして、


「ちきゅう。なにそれ」


と言い放った。

ぼくは驚いたなんてもんじゃなかった。

だって、ずっと、ぼくは、蜘蛛が世界とよぶものは、この星、地球のことだと思っていた。

うすうす感づいてはいたけれども、ほんのうの範囲内の知識っていうのは、どうやら虫と鳥とで大きく違うみたい。


その後はぼく主導による、蜘蛛のちきゅう勉強会になった。

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