第7日目 夢と現実の境目の話

幼い頃の夢は、プロ野球選手になりたいと思っていたのだ。しかも、中日にゴメスが居た頃の話だ。だいぶ昔の話。野球選手になるためには、足が速くなくてはいけないと思い、陸上の少年団に入ったのが運の尽き。中学校に入っても陸上を続けていたのは、惰性の一種だろうね。


高校生になってからの夢は

「風変わりで飄々とした軽佻浮薄な訳の分からん人になること」

というベンジャミンバトン並みの数奇な運命を辿りたいと夢見ていたのだ。しかも、その夢は今も続いているのかもしれないし、諦めてるかもしれない。不思議なことだろうが、磁器の弱ったはずのコンパスは未だに北の方角を示しているらしい。


現実問題を考えると、そんな風変りになれるわけもないし、僕は働かなくてはならず、そうしないとおまんまの食い上げになってしまう。だから、現実にどうやっても結びつかなくてはならないのだと、最近は深く思うんだ。風船を繋ぐ糸を求めてる感じかな。勿論、働くのは嫌だけど。


小さいけれども、目標ができた。

これは、昔ほどたいそうな夢でもないし、ただただつまらないお中元のバスタオルみたいなものだと思ってもらっても構わない。


「真面目に、ただ普通に生きる」

ということ。


これまでの僕自身、尊大不遜な人間で、お喋りの才能にあふれていると思い込み、何とか人を笑わせたり、楽しませられると思っていたんだ。しかも、不特定多数の人間をだ。スポットライトを浴び、拍手喝采の中を悠然と歩く自分自身を描けていた。そうだね、余程、阿呆で軽佻浮薄な人間の思いつきそうなことだね。すげえだろ。悪魔の実をすでに食べていて、後はワンピースを手に入れるだけのつもりだったのだ。こあああい。


真面目と普通について語ろう。


真面目ということに関して、僕は、毛嫌いする気質がどうもあるらしい。

何でか、僕は、本音と建て前をうまく使い分けることができないからだろう。真面目な人を見ていると、人間とは何かを考えさせられる。大空を羽搏くの翼を捥がれた鳥のように、手錠を嵌められた囚人のように、台詞通りの芝居をする俳優のように感じてしまう。僕だけではないとは思うのだが。

真面目腐っている裏を知りたいと思う。

「おそらくこの人は、そう思ってはいないのだろう」

と僕に向かって放たれた言葉は、疑惑の対象になるのだ。煙草の先から伸びる紫煙の如くね。僕に向かって言ってるわけではなく、ただ消えていくだけの意味のない煙のような気がするんだ。


普通ということに関しても、なんだか、座りの悪いパイプ椅子に座っているように本来の意味から遠ざかっている感覚がする。異常が先にあり、その平均値を普通とするはずなのに、いつの間にか倒錯が起こってしまって、普通からの逸脱が異常になっていることに息苦しさを感じるのだ。まるでギュウギュウ詰めのスーツ姿のサラリーマンが沢山乗る満員電車で、ピエロの格好をさせられてるみたいに。自分だけは、違うと思いたい気持ちと世間に帰属していない不安感が渾然一体になって、自分が異常なんじゃないかと思ってるんだね。大丈夫。お酒は飲んでないし、酔ってはないんだが説明が下手だな。


前振りが長いな。

その大嫌いな二つを、正々堂々、真正面から取り組んでいきたいと思っているんだ。本当だよ。人間が哺乳類だってくらい、本当だ。


真面目に働くことを望んでいるのだ。小さな幸せを拾い、自分に才能があるのだったら、それで笑ってくれる人のために使いたい。自分自身の大きさに気が付いたわけだ。逆にこの年になるまで気が付かないとは、自意識過剰も甚だしいがね。


ふう、すっきりしてきた。最近はギャグが少ない。ってことは、単なる自己療養なのかもしれないね。心から出る言葉を素直に表現する練習中。近頃、子供のころの素直さが戻ってる気がするんだ。そして、世界中の事柄が、もしかしたら面白いかもしれないと、明日に希望が持てるん。あれほどまでに呪っていたはずの世界をね。


実は、今日は面接があるんだ。優秀な人材でもない、頭もよかない、気も利かない、僕は自信がないんだ。阿呆だからね。


でも、できることは最大限にしたいと思う。真面目に、普通に。右から来たものを左に受け渡すわけだ。その作業に専念しないといけないね。今まで、右から来たものを何個も落として来た罰みたいなものだ。うん、真面目でいるべきだったよ。


過去に罪を犯した人は、自分自身の記憶の中に潜む自分に責められるという苦しみが待っているのだろう。後悔と良心の二つが行く先の未来を霞ませる。だからこそ、優しくなれるんだとは思うが。


まとまらないね。こんがらがった電話回線みたいに、どこに向かってメッセージを送っているかもわからない。自分の言いたいことが大きく間違ってる気がする。

んでもいいいかもしれない。真面目な文章も山のように書くべきだし、上手くなりたいからね。小説だっていつかは書けるようになるといいんだけど。矮小という意味でも、斜に構えた訳でもなく、小さな物語という法螺を吹く人間でいたいと思う。

んで、笑われるならば結構。それを望んでいるのです。




そうだ、明日は真面目に軽佻浮薄なウソ話をしよう。

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