27 花嫁争奪戦?

しかし、まぁ、それだけで終わらないのがこの街の特性なんだよな?


宴会所に何人かの男達が雪崩れ込んで来た。

それぞれが殺気だっている。


「その結婚式に異議を申し立てる!」


一際大きな男が背中に担いでいたミスリル製らしいハルバードを振り上げながら叫ぶ、どうやら結婚反対派の様だ…って言うか、反対されても俺達の事なんだから他人が兎や角言う理由も権利も無いのだが?

大男はギルドでも何回か見たことがある、確かB級目の前のパーティーメンバーのリーダー・ゾルディだ。

グリズリーベアの獣人だと聞いている。

他にも何人かの獣人や人間もいるかな?


「何事だ!俺の前で問題を起こそうとは、それなりの覚悟があるんだろうな?」


領主・ナグドリアが立上がりゾルディ達の元に行く、俺も後を付いて歩く。

ナグドリアはかなり怒っているな…まぁ、そうか…仮にも自分の出席している結婚式…それが一市民の式だろうがケチを付けられては沽券に関わるもんな。


「りょ、領主様…貴方まで…」


おっ?流石のゾルディも領主相手は腰が引けるか?他の奴等も後退りしてるな。


「そんな物まで持ち出し振り回し…明らかな戦闘準備での暴挙…確たる理由無き場合は…覚悟を決めろよ?さぁ、言ってみよ!」


おぉ!ナグドリアが領主らしく威厳を持って話をしている…って言うか、ナグドリアの実力も個人でA級らしいんだよな…やっぱり領主ともなると文武両道なのかな?


俺がナグドリアを観察していると動きがあった。


「例え領主様相手でも、今回は引くわけには行きません!そこの男!我等がルナさんとルルさんとの結婚を破棄して貰う!お前の様なぽっと出の訳の分からない男に二人を任せられるか!」


後ろにいる男達もそうだそうだと騒ぎながら俺に向かって話す。

様は相変わらずのルナ達のファンクラブの連中の暴走か。

しかし、今回は何時もとは違うな。

明らかな態度に出ている、何より他の奴等は別としてゾルディの目は別の意味で本気だ。


「フム?君は彼の事を知らないから彼女達を渡せないと?彼女達の事は君の許可が無いとダメだと?そう言いたいのだな?」


あっ!ナグドリアが怒っている…そりゃまぁ、そうだわな…簡単に考えれば自分が親か何かみたいで、自分の知り合い以外には嫁がせないって言ってる様な物だもんな…貴族の婚約、結婚じゃあるまいし…赤の他人が赤の他人の結婚にケチを付ける理由にはならんな。

流石のゾルディも殺気立つナグドリアの正論の前に一歩後ろに下がった…それだけで踏み留まったのは大した物だ…俺なら飛び退いてたぞ?

しかし…。


「領主様…此処は俺が対応しまし…仮にも彼等は俺を指名してますし…ルナ達の夫は俺ですからね…今後の事も考えると、こんなバカな連中の遺恨は無くしておくに限ります」


俺はナグドリアに任せると彼等の地位だけでなく命すら危ういのを感じ対処を自分がする事を提案する。


「んぅ?しかしな…彼等は君の結婚を邪魔しに来たんだぞ?しかも、俺が認めているにも関わらず…」


流石に簡単にはナグドリアは納得しないか?

仮にも領主だ、自分の出席した式にケチを付けられては威厳も何もあったもんじゃないよな。


「悪いな、貴方のプライドとか分かるけど、此は俺の問題だ…自分の女を手に入れるのにケチを付けられたんじゃ、この先も分からない…なら、此処でハッキリと分からせてやる必要があるんだ…特に冒険者なら分かりやすい方法がな…」


ナグドリアの気持ちも分かるが、腹を決めた所での物言いだ…流石に俺も少し腹が立つ。

俺は目の前のゾルディを睨みながら服を脱ぐ。

折角の正装が汚れては困るからな。


「「イズルさん(はん)!」」


後ろから二人が心配そうな声を掛けて来る。

俺は軽く振り返り笑みを見せながらゾルディに向き直る。


「晴れの日にわざわざご苦労様だ…しかし、領主様の顔に泥を塗り、俺の式にケチを付け、俺から二人が引き離そうなんて野暮をするんだ…覚悟は出来てるよな?」


俺は殺気混じりの怒気を放った口調でゾルディに話し掛ける。

少し離れた場所では以前、似たような気を感じたバグド達が震えているのは余談だ。

目の前のゾルディも俺が見た目以上、噂通りだと直感したらしい…ゾルディの後ろにいる連中は足が震えて動けなくなっている。


「か、仮に…そうだとしても…お、俺は…俺は認めん!お前を倒す!」


恐怖を振り払う様にハルバードを振り上げるゾルディ、俺はそれを見ながら溜息を付く。

こいつも本気でルナ達の事を心配しているんだなと気付く。

そして、それが分かるからこそ手を抜く訳にも行かない。


「我は金剛…」

「我が肉体は砕ける事無き強き高みへ…」

「我が力は金剛力を持って振るう者なり!」


「剛王拳武道原語!”金剛鎧”!」


俺は足を開いて腰を落とし両腕を頭の上でクロスさせ腕だけでハルバードを受ける体勢を取る。

直後、ドゴーン!と音を響かせハルバードの衝撃で爆風が起きれば地面の土が大量に巻き上がり辺り一面が砂ぼこりで見えなくなる。


「イ、イズルさ~ん!」

「い、いやや~!」


二人の叫び声が響くのが聞こえる。

二人の目には俺がハルバードの直撃を受ける姿が最後に見えた筈だ…まぁ、普通なら心配するよな?


突如、辺りの砂ぼこりが風で吹き飛ばされる…誰かが風魔法を使ったみたいだ…そして、全ての人が驚愕する。

普通にあり得ない状況…スキルを使わなかったとしても巨大なハルバードを全力で振り落としたのだから、普通なら鉄の鎧ですら真っ二つだろう。

だが実際は俺の両腕で止められている。

一番驚いているのはゾルディだろう…目の前で目を見開き固まっている。

此の世界に来て、一つ良いことがあるとするなら、知識と力の持ち腐れが無くなった事だな。

俺の記憶にある対神魔格闘拳法は前の世界では使うことすら困難な物だ。

しかし、この世界なら魔力が有るために辛うじてでも簡単な技なら使う事が出来る。

この”金剛鎧”もその一つだ。

簡単に言えばバトル・オーラの様な物だが、闘気と精神力、魔力を融合させて体の表面に纏わせる物だ。

今の俺には薄皮一枚の厚さでハルバードが当たっていないが傍目からは腕で受け止めている様に見えるだろうな。

そして、ゾルディも本気だったからこそ、俺も全力で応え受け止めた。


「さて?どうする…お前の力は通じないぜ?次は俺から攻撃した方が良いか?」


軽く腕を押し出す様に上げれば驚愕し力の抜けているゾルディが持つハルバードは簡単には押し戻せた。

俺は拳を構える。

流石に殺す訳には行かないからな…そのまま闘気と魔力を集中する。

別に対神魔格闘拳法が技の全てじゃない…腰の捻り、腕の振り、全身の筋肉をバネにして打ち出す拳…太極拳発勁…普通の発勁に魔力を上乗せした物だがグリズリーベアの獣人なら耐えれるだろう。

俺の拳はそのまま吸い込まれる様にゾルディの腹にめり込む。3m近くはある巨体がくの字に折れ曲がり、そのまま地面に膝を付く。

叫び声にもならない嗚咽を漏らしながらゆっくり顔を上げるゾルディの目は信じられないとばかりの目だ。

領主達やバラン、ルナ達も驚きのあまり声も出せないでいる。


「此でもまだ文句はあるか?言っておくが、今の全力は出した…だが本気は出さん…本気とは相手を殺しても構わないと言う気持ちの時だけだと俺は思っているから…だから、俺は全力しか出さなかった…文句があるなら、また掛かってきな…俺が本気になれる位に強くなったら考えてやるよ」


俺は踵を返しルナ達の所に戻っていく。

途端に周りから喝采があがる。

因みに、俺の冒険者ランクはいつの間にかB級になっていたらしい…ここ最近の問題事を片付けてからだとか…こんな事ばかりしてたら直ぐにA級になりそうだな。


「イズルさ~ん!無茶しないで!僕…僕、心配で胸が張り裂けるかと思ったよ!」


泣きながら抱き付いて来るルナ、可愛いな…っじゃなくて心配を掛けてしまった、反省、反省。


「ウチかて心配したんや!新婚早々、未亡人はイヤやで!」


ルルには文句を言われてしまった…ごもっともです…。


俺は抱き付く二人を抱き締めながら謝りつつ前を見る。


「あれで本気じゃ無いなら本気だと私らの一撃も止めれるんじゃないのかしら?」


何処からか持ち出した斧を片手に良い笑顔のルカが目の前で不穏な事を言っている。

この人、何だかんだ言ってバトルマニアだよな?


「義母さん…怖いから止めてくださいね?」


斧を軽く素振りをするルカに義母呼びをしたすると、顔を真っ赤にして斧を落とした腰をくねらせ嬉しそうな顔をする。


「義母さんだなんて…良い響きだわ…息子も良いわね…ねぇ、貴方?もう一人位、頑張らない?」


横で我関せずの顔をしながら酒を飲んでいたガオンが綺麗に酒を吹き出しルカを見る。

まぁ、気持ちは分かる…こんな衆人の中で子作りアピールされてはな…周りからルカのファンらしい連中からの殺気も飛んでくる。


「あら、お若い…ねぇ、貴方?うちもまだまだですわよね?もう一人位…良いのでは?」


触発されたのか、浮気防止の為か領主夫妻も何やら話始める。

妻帯者持ちは俄に子作りアピールが始まったみたいだ。

独身者には耳の痛い話かと思ったが、どうやら独身者同士でナンパが始まった。

結婚披露宴はそのまま婚活会場に変わったよ…まぁ、良いけどね。


「イ、イズル…」


そうこうしている内にゾルディが回復したのか腹を押さえながら近付いて来る。

俺はルナ達を離しゾルディに向き直る。


「気は済んだか?」


俺は悪戯好きな子供の様な笑顔でゾルディに言う、ゾルディは再び目を丸くしながら驚く。


「何故…何故怒らない?俺はお前を殺そうとまでしたんだぞ?」


俺はゾルディの言葉に首を振る。


「本気ならスキルも使っていただろうし、殺気も籠っていただろ?勿論、あの一撃でも人は殺せるがお前は俺があれで死なないと確信していたから振り落としたんだろ?最悪は躱せば良いんだしな…まぁ、試されてると分かっていて逃げるのも癪だったから全力で受け止めて見たけどな」


俺はニヤニヤしながら分かっていたとばかりに言う、まぁ、領主が来てる事くらい知っているだろうし、それでも出た暴挙なら…自分へのケジメと俺への再確認だろう。


「済まない…俺は…俺達の大切な人を任せれるか…俺達の手で確かめたかったんだ…申し訳無い…」


やはりなと思う…最初の森であった奴等以外は全員、ルナ達に好意的だ…いや、寧ろ神聖視すらし兼ねない勢いだ。

本人達が無自覚なのか、その気が無かったのか、俺が居なくても結婚位は出来たと思うくらいに好意を寄せる奴等は多いかったからな。

まぁ、無自覚のお陰で二人は俺の奥さんになったから俺的には良かったけど…。


「まぁ、良いさ…っで?結婚祝いはくれるんだろうな?」


ゾルディの謝罪を簡単受け流し、俺は笑いながら手を出す。

ゾルディは簡単に許す俺を見て驚くが直ぐに気を取り直し後ろに合図を送ると数人の男達が大きな箱を持ってきた。


「勿論だ、此を受け取ってくれ…俺達全員で集めて買った物だ…」


ゾルディ達のくれた箱を開けて覗き込むと中には上級用錬成窯が入っていた。

此は上級ポーションを作る時に必要なのだが、かなり高価で簡単には手に入らない…それこそ王都にでも行かないと難しいだろ。


「良いのか?こんな高価なもの…っと言ってもお前達にもメリットはあるか?此があれば上級ポーションも作れるからな…」


俺はニヤりとしながらもゾルディ達を見れば、ゾルディ達も顔を引き攣らせながら笑って誤魔化しているが、まぁ、物が高価なのは確かで良い物だからまぁ、良いか…。


こうして俺達の結婚式はゾルディ達も含めて、夜遅くまでの宴会に雪崩れ込み、バタバタの内に終わっていった。




イズル(神田川 出流)

ステータス


種族:人間

性別:男

職業:新米薬師(ポーション特化)

冒険者ランク:G

名前:イズル

年齢:19才

Lv.  15(188/3500)

HP  1220/1230(1845/1845)

MP  3070/3400 (5100/5100)

ATK 820(1230)

DEF 420(630)

AGI  1210 (1815)

DEX 825 (1238)

MIND 22243(33365)

LUK 1852(2778)


〈スキル〉

鑑定Lv.MAX(能力限定/鉱物及び植物)

異世界言語翻訳

アカシック・ライブラリー(鉱物及び植物のみ)

詠唱破棄


魔力付与Lv.1

魔法付与Lv.1

魔法効果短縮Lv.3

魔力消費軽減Lv4

並列思考Lv.3

スキャンLv.2

アイテム・ボックスLv.2


〈魔法〉

風魔法Lv.3(ウィンド・カッター)

(ウィンド・ウォール)

(ウィンド・スパイラル)

火魔法Lv.2(ファイヤー・ボール)

(ファイヤー・ウォール)

水魔法Lv.2(ウォーター・ボール)

(ウォーター・ウォール)

土魔法Lv.1(クリエイト・シェイプ)

光魔法Lv.1(ライトアップ)


〈称号〉

願望者

黄泉姫の加護

皐月の加護


〈エクストラ・スキル〉

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