25 閑話 ミネルバ=アムス=ワドナー

私はかつて、S級冒険者として大成し、その強さと美貌で王国の公爵にすら求婚された。


しかし、自分より弱い人と結婚等考えた事もなく、だからと言って公爵相手ではどうにもならないから仕方無く逃げる様にこのフォレストタウンにやって来たの。


そこで、最初は勢いだけの若い領主・ナグドリアに会ったのだけれど、当時から女癖が悪かったナグドリアに当初、嫌悪感しか持てなかった。




そして私は、自分より弱い人とは組む気も起きなかったから常にソロで行動していたのだけれど、ある時、魔物暴走スタンピードの時に運悪く遠出をして魔物暴走スタンピードに巻き込まれ一人孤立したの。


当時も瞬間移動は出来たが今よりも短い距離でとても逃げ切れず、迫り来る魔物相手に戦うしかなかったわ。


しかし、幾ら私が強くとも所詮は一人、一万を越える魔物の大群に徐々に逃げ場も戦う場も失い体力すら限界になる。


私は自身に襲い掛かる最後の魔物を目にした時覚悟を決めたの、そしたら突然、目の前の魔物に投擲の岩が飛び込んで来て押し潰したわ。


しかも、その岩にはナグドリアがしがみついていた。


私は何が何だか分からなかったは…はっきり言って無茶苦茶な話だもの。


投擲の岩にしがみついていた飛び込むだなんて自殺行為。


しかし、ナグドリアはやったの。


当時の彼は自分でも私を口説くが無理だと分かっていたから声すら掛けては来なかったけれども、ナグドリアは本気でわたしを愛してくれていたみたい。


その私が一人森にいるのを聞いて今にも飛び出さんとするのを必死で自制し街の防衛を指揮したけるども、それが終わる頃には時間が経ち過ぎていた、絶望視していた所に遠見の衛兵から私が孤立して戦っている報告を聞くも距離がある、時間が無い、魔物が前にいる。


ならば、どうする?


簡単だ…飛んでいけば良い…安易な発想と無茶苦茶な…無鉄砲な賭けをするナグドリア。


しかし、彼は私のいない世界に用は無かったと後から聞いたの。


そして賭けに勝った…岩が地面に直撃する威力に耐える程のスキル・金剛とナグドリアが持つ最強広範囲攻撃スキル、メテオ・サークル。


自分の周囲3mを中心に結界の様な闘気結界を張り、更に自分を中心に半径500mの範囲に自身で打ち上げた闘気弾を雨の様に降らせる。


その威力は一発で鋼鉄の鎧を撃ち抜く程だ、それが雨の様に降る。


500m圏内にいる魔物約1000体の魔物を瞬殺した。


あまりの威力と爆音に魔物も動きを止めて沈黙、スキルを使ったナグドリア本人は全力の為に疲弊し膝をつく、この一瞬の隙を付き私はナグドリアを掴むと全力で瞬間移動を始める。


一度では魔物の群れを抜けれない、動いている魔物を躱しながらは無理。


しかし、止まっている今なら魔物の”体の上”に飛び乗り瞬間移動すれば良い。


私は魔力尽きるまで自分の限界を越えて瞬間移動し続けた。


ただ助かりたい為じゃない、命懸けで自分を助けに来たナグドリアを助けたい為に、そして礼を言うために。


私は自分ですら気付かない淡い恋心が、やった事の無い連続瞬間移動を実現させた、しかも人を抱えての荒業だ。


しかし、慣れない瞬間移動と限界の体力、精神力、魔力…街の城門を目の前にして動き出す魔物の群れ。


力尽き地面に膝を付き息を荒くする私の横に抱えていたナグドリアが同じ様に息を荒くし立ち上がる。


見上げる私の目には何時もの軽薄な笑顔のナグドリアなのに此のときは頼もしく見えたわ。


しかし、私にも分かっている、ナグドリアも限界だと。


何も出来ず二人で魔物の餌食になると、しかし、不思議と恐怖は無かったそうだ、此のときの私はナグドリアと一緒ならそれも悪くないと思ったの…そして気付いたは…自分の気持ちに。


吊り橋効果もあるかもしれないけれども、今まで守ってばかりの自分が初めて守られている事実。


自分が…私がナグドリアを好きだと言う気持ちに…立ち上がるナグドリアを見上げ思った事は死にたくないと…この人と一緒に…未来を…。


そう思った瞬間、ナグドリアを中心に闘気の結界が張られる。


私は目を見張り見渡す、結界に阻まれ魔物が近付けない、しかし、何故?


体力も精神力も魔力もナグドリアも殆ど残っていないのは同じ筈と…そして気付く最後の力…生命力…生命力なら一つで三つの力と同等…しかし、使えば寿命が縮まるのは必須。


私は止めたかった、しかし、自身も限界で声すら出なかった。


指すら動かず、次第に霞む目…気を失う直前の目に映るのはナグドリアが再びメテオ・サークルを使う瞬間だった。




私が再び目を覚ましたのはフォレストタウンの城門の上だった。


しかし、横になったまま周りを見てもナグドリアは見当たらない、目は覚めても体力が戻っている訳では無いために起き上がり探すことの出来ない自分の無力さを呪ったわ。


焦燥感に苛まれていると高らかに笑いながら城門の上を歩く男の声が聞こえてきた…ナグドリア…生きていた…自然と涙が溢れてきた。




「おぉ!ミネルバさん…目を覚ましましたか?何処か痛いのですか?救護班…早く…彼女を…」




私が目を覚ましているのに気付いた彼が駆け寄る様に近付くと泣いている私が痛みを感じていると勘違いをして救護の人を呼んでいた。


確かに痛い…胸が…心が…彼を思う気持ちが…そして、近付いて来た彼を見たとき、私の胸は更に張り裂けんばかりに傷んだ。


綺麗な金色の髪がくすんだ濁りのある金髪に、頬も痩せ肌も張りがなくなっていた…生命力を使った後遺症だ…時間が経てば少しは戻るだろう…しかし、寿命までは戻らない…彼が後何れだけ生きられるか分からない。


そんな事を思うと私は…彼を直視出来なかった…話し掛けられた事すら無い私を何故…普段の軽薄な彼は上辺だけ…本当に大事な事は慎重になりすぎて機会すら失うと彼の友達に聞いたわ。




私は無意識に体が動いたの、そして彼の体に抱き付いていた。


本当に強い人は自分からは何もしないし言わない、そう、彼の様にただ寄り添う様に。




「ミ、ミネルバさん…ど、どうしたんですか?あぁ、色々あって少し動揺してるんですね?大丈夫ですよ…こんな田舎だから強い人がおらずに人で狩りをする事になってしまって…今、父に頼んで知り合いの別の公爵を伝にミネルバさんに求婚した公爵からの圧力を止めて貰える様に頼んでますから…もう暫くすれば王都に帰れますよ」




彼は私に愛を囁く処か裏で王都に戻れる様に頑張っていてすらくれていたのです。


叶わぬ恋ならば…せめて好きな人の為に何かをしたいのだと彼の友達から聞いていました。


当時の私には、その時の事を持ち出せば直ぐにでも受け入れていたでしょうに、彼は取引にも似た駆け引きをする気もなく私の応援をしていてくるたのです。




彼は抱き付く私を優しく抱き締めた後、まだ、やるべき事があるからとゆっくり私を引き離し寝かせてくれました。


その時にはもう、私の心は彼への思いで一杯でした。


彼が立ち去ると掛けられた毛布を掴み頭から被ると、もう周りが見えなくなる程に混乱し顔は真っ赤だったでしょう。




最初の魔物暴走スタンピードから数日が経ち、ようやく魔物の掃討も一段落を見せた頃には私も力を取り戻しS級冒険者としての義務を果たしていたわ。


けれども、私の目は何時も遠くで指揮をするナグドリアを見ていた。


時折、彼と目が合うと彼は私に優しく笑い掛けてくれるのに私は真っ赤になって横を向いてしまう。


仕方ないでしょ?生まれて此の方、人を好きになった事なんて無かったんだから…此からも好きになるとは思わなかった…思わなかったのに…好きになった…どうして良いのか分からないくらいに…。




更に数日後、私は彼に呼び出された…場所は彼の屋敷…つまり領主。館だ。


煮え切らない私に求婚でもしてくれるのかしら?


私は臆病な自分を棚上げて彼からの行動を待ってしまった。


そして彼と…彼の父親が部屋に入ってくる。


私は一礼をしながら彼を見る。


遠目からは分からなかったけれども、生命力を使った見た目は元に戻ったみたいだ…良かったと私は安堵する。




「ミネルバさん、お待たせして申し訳無かった…公爵との話は付いたから、これで王都に帰れますよ…今回よ魔物暴走スタンピードの掃討協力をありがとうございました」




彼は私が予想していなかった…いえ、或いはそうかも思っていた事を告げる。


すなわち、彼との別れだ…永遠では無い…けれども、直ぐに逢える距離でもない…私は自然と涙が出ていた。




そんな私を見て彼は驚き、困惑し、困り果てていた。


彼の横に抱えていた父親…今の私の義父は私を見て直ぐに分かったらしいが、遊び半分の女同士事なら分かる彼も本気の女性の気持ちは分からないらしい。




私は彼に抱き付いていた、離れたくないと、一緒に居たいと…貴方が好きなのだと。




変な意地を張っていれば本当に大事な物を失う…私もそうだ…だから、私はありったけの思いと気持ちを嗄れに伝えた。


そんな彼は困惑と嬉しさが入り交じった表現しがたい顔をしながら私を抱き締めた。


当時、私は18才、彼が22才だ。


そして私はS級冒険者を止め、家庭に入った…。




あれから20年…二人の息子と三人の娘が生まれ、幸せな家庭に恵まれ、このフォレストタウンを第二の故郷にしている。




彼の女好きは相変わらず治らないけれども仕方無いのかしら?


私はあのときの無理が体の限界を越えたのか魔力全快なら一人でなら100km位は瞬間移動出来る様になったから彼が何処に逃げても見付けて追い掛けれる様になったわ。


例え、彼が何処に行こうとも…誰と居ようとも…逃がさないし離れない…何処までも追い掛けれる能力に感謝しているわ。

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