21 激突!スラムボス!
俺は今、何を見ている…どうしてこうなった?
北のスラムボス・ガダリオン…最初の対応とは違いかなりの強さの筈だ、そんな男が何故、斬られている?
ガダリオン…そんな所で寝てると風邪を引くから起きろ…血が出過ぎている…ガダリオン…。
北のスラムボス死亡の噂はあっという間にこの街の話題となった、今、この街の裏の均衡は崩れたのだ。
《時間はガダリオンが殺される少し前に戻る…》
「じゃ、問題は無さそうだし俺は少し用事が出来たから出掛けて来る…夜までには戻るから大人しく待っていてくれよ?」
俺は横になっているアルとアルのベットの周りを歩き回っているエルに声を掛ける。
エルは不思議そうな顔をして俺を見るが一応、頷いたのを見て少し安堵する。
何せ着いて来られても困るからな…今一度、ガダリオンと話をする。
此からの北のスラムの在り方と、他のスラムに対してどうするかの話し合いだ。
ガダリオンは俺を指示するとは言ったが実際の話、取り纏めるのはガダリオンの仕事だ。
今までだってやって来たのだから問題無いだろう。
俺はギルドを出て北のスラムに歩いて向かう。
外は少し日が傾き掛けていた。
早いものだ、今日は少しは仕事が出来たが、その倍は厄介事が出来た気がする。
今の日中の陽気が暖かいからか日が傾くと少し小寒い。
此の世界も四季がある。
今は丁度、春先から夏に向けての四月から五月の間くらいの感じだ。
街中の店も普通の店は閉まり夜からの店が開き始めている。
俺は小寒い風が吹く中を足早に歩く。
路地に入り奥に進む、エルの家が見えるが中には誰もいないし何も置いてない、そのまま素通りをして先に進めばガダリオンの家に着く筈なのだが何故か道に人が数人、通りを塞いで立っている。
「俺に何か用か?何もなければ通して欲しいのだな…」
やはりスラムか…冒険者風の格好をしていても絡まれるか…ガダリオンがいれば穏便に済みそうなのだがと思いつつ相手をみる。
全員がボロ布の様な服を着ている、手には角材や鍬、鉈、包丁等様々だ。
共通するのは俺を見る目、どいつもこいつも見上げる様に卑屈な態度と目付きをしている。
「あんた…あんたがイズルって男か?ガダリオンさんが言っていた俺達の新しいボス…スラムの人間でも無い奴がスラムを支配して何を考えていやがる?」
一人の男が前に出て話を始めた、どうやら一部ではあるが不満があって俺が来たことで不満をぶつけに来たのだろう、恐らくは多かれ少なかれ全体がそう思っている筈だ。
ガダリオンの奴…俺をスラムボスにしやがったな、困ったものだ。
「やはり、そうなっていたか?大丈夫だ…俺にボスになる気は無いことをガダリオンに言いに来たんだ、通してくれないか?」
俺は本来の目的と今後の話をする為に来たことを説明する。
彼等の言う通りスラムの人間じゃない俺が彼等にどうこう言えた義理は無い。
最も提案はして改善はするつもりだが、それはたまだ言わない。
「気になるなら一緒に来ると良い、ガダリオンの意見を直接聞くのも悪くないだろ?」
俺は彼等に一緒に来る様にも言う、一緒に聞いた方が又聞きに成らずに済むからな。
俺の話を少しは分かったのか手に持つ道具を下げ道を開けてくれる。
俺は彼等の間を進むと彼等は俺の後に続いて歩いてくる。
良く見渡すと、あばら家のあちらこちらの影から此方を見ている人の目がある。
全員、俺達の動向を伺っていたらしい…いや、正確には今も伺っている。
俺達はガダリオンの家の前間出来た。
しかし、何故か胸騒ぎが…しかも微かに血の臭いもする…まさか…俺は嫌な汗をかきながら全員で家の中に入る。
《冒頭に…》
俺は今、ギルドに戻ってきている。
あの後の大騒ぎも大変だったが、何よりあの後直ぐに、西のスラムボスの使いとか言う男がやって来て手紙を置いていった。
内容は簡単だ、定例のスラム会議をするから出席せよ、出席しない場合は北のスラムを他のスラムボスが実効支配する内容が書かれていた。
タイミングが良すぎる。
事実、スラム会議はつい先日終わったばかりらしい。
連続でするなんて今まで無かった事だそうだ。
此までも何かに付けて北のスラムは嫌がらせを受けていたらしいが、今まではガダリオンが必死に食い止めていたんだとか。
あれでいてボスとして、やるべき事やっていたみたいだな。
しかし今回は違う。
実力行使…ガダリオンを殺してまで北を手に入れる理由が分からない?…っと思っていたらスラムの連中が教えてくれた。
北のスラムはアル達を含め女性が多いんだとか…ガダリオンも今回はアルを犠牲にしてはいたが、全体的には女性を保護していたらしい。
しかし、そうなると他のスラムが困る、他のスラムにいる女達は北のスラムにやって来る。
そうなれば、売春などで稼ぎを得ている他のスラムは人手が足りなくなる。
だから、今までもガダリオンに女を出せと要求していたらしい。
だが一向に従う気のないガダリオンにとうとう業を煮やしたのか、ガダリオンを…そして直ぐに始めるスラム会議…今まで無かった出席の条件…やってくれる、此からの少しずつでも改善しようと思っていた矢先に…。
今、俺はギルドの会議室にいる、そして俺の前にはバランやアニヤがいる。
二人とも心配そうな顔をしている。
俺は余程、怖い顔をしているらしい…。
「二人とも大丈夫だ…俺は冷静だ…だから、話を聞いてくれ」
・
・
・
・
「じゃ、後の事は頼む…俺の予想じゃ、今日は大荒れになるぜ…」
あれから数日、俺達は色々な準備を秘密裏に行ってきた。
そして今日はスラム会議の日だ…俺は北のスラムの住人の同意を得て北のスラムボスになり、ガダリオンの住んでいた家に住んでいた。
因みに、宿にはアルとエルに住んで貰っている。
アルの容態は介抱に向かっているから良かった。
「ボス!今日は宜しく頼みます!」
朝早くにギルドに行き、今日のスラム会議に向けての最終打ち合わせをした後に再びガダリオンの家に戻れば、時間になったので会議に向かおうと家を出ると北のスラムの住人が並んでいた。
この数日の間に彼等とも打ち解けた…最もガダリオンの手当てをしたり墓を作ったりとしていたのを知ってるからこその態度だ…あれでいてガダリオンは慕われていたらしい。
「あぁ、任せておけ…俺がいない間は気を付けろ?何があるか分からないからな…」
俺はガダリオンの一件から事件が解決するまでスラムや家の中では最低でも二人でいる様に指示した。
気休めかも知れないがやらないよりはましだ。
俺は彼らに挨拶をしてから会議のある西のスラムを向かう…北のスラム・義人のガダリオン(故)、南のスラム・謀略のローザ、東のスラム・激爆のバグド、西のスラム・金のヒリアス、この四人と正体の掴めない四人を支配をしている奴の五人でスラムを統括していたが、今回の事で均衡が崩れた今、どう出てくるのか楽しみだ。
俺は出来る限りの対策を取った後に西のスラムに着いた、さて会議の場所は何処だ?
「あら?あんたは誰ですか?此処は堅気の人が来る様な場所じゃ無いですよ?」
後ろから人が来ていたのには気付いていたが、声を掛けられるとは思って無かったから少し反応が遅れた。
「んぅ?あぁ、俺の事か?俺が堅気に見えるか…それは残念だ…此でも新しく北のスラムを治めさせて貰っているイズルって言うんだ、宜しくな…南のローザさんよ…」
俺は振り返りながら声を掛けてきた相手に返す。
聞いていた通り、見た目20代後半の人族、長い腰まである金髪の髪、胸は小さめだがスタイルが良いせいか見た目は悪くない。
ヌルヌルした口調に人を見下す様な蛇の様な目、一見、チャイナドレスかと思うような柄の体にフィットした真っ赤なワンピースのスカートはチャイナドレスの様に両サイドに大きなスリットが入っていて生足が見えている。
あと少し切れ目が上なら下着も見えるだろう位の切れ目はわざとギリギリにして男の目線を引き誘惑して交渉を有利にしようとするのが良く分かるが、そこは男の性だな…普通ならやられそうだが、何故かそれに負けそうになるとルナやルルの顔がチラつくんだよな?
「あら?私の事を良く知ってらっしゃるのね?お喋りな男がいたのかしら?」
見るからに厭らしい笑みを見せながら、その気になった男なら引かれるかも知れない笑みを見せるローザに俺は眉を潜める…そんなローザも俺の顔を見て自分に引かれていない事を悟ると真顔に戻る。
「北のスラムを治めるだけの事はあるのかしら?私に惑わされないのね?まぁ、それ位は当たり前に出来ないと困るでしょうけど…良いわ、着いてらっしゃい…会議まで案内してあげるわ…」
見た目通りのキツイ目付きと口調に変われば俺を一瞥した後にそのまま横を通り着いて来る様に言う、勿論、彼女の付き人らしい男が二人、後ろを歩いているから俺は更に後を着いて歩く事になる。
見た目からは俺が彼等よりも下で従ってるかの様に見える構図だ。
考えているな…流石に此をこのままって訳にはいかないので、俺は護衛の彼等にだけ殺気を向ける。
先程、俺の横を通り過ぎる時に殺気を孕んだ目をして殺気を飛ばしてきたのだからお互い様だよな?
勿論、彼等が俺に向けた殺気の数倍だが…悪いが、彼等も腕は立つ様だが俺の足元にも及ばない。
見る見る内に彼等の足取りが重くなるのが後ろからでも分かる…顔はどんな表情をしてるやら?
「さぁ、着いたわよ…此処が、今回の…会…議…をする…ば、場所よ…って貴方達、そんな顔してどうしたの?」
ローザが散々、歩き回り着いた場所は俺達が最所に会った場所から目の前の場所だ。
彼女は振り向いて初めて自分では護衛の顔が酷く疲れ今にも死にそうな顔をしているのに気づいた。
遠回り処か、俺を連れ回し見世物の様にしたつもりだろうが、実際は自分の護衛が悲壮な顔をして歩かされた…つまり、自分の護衛がミスをしてお仕置きされているかの様な状態を自分で見せびらかしたのと同じ状況にしたのだ。
「あ、貴方…か、彼等に…な、何をしたの!」
自分の護衛の哀れな姿に顔面が蒼白になっていたローザが、ようやく自分がどんな事をしていたのか理解すると青かった顔が真っ赤になると俺に詰め寄り抗議してきた。
「別に?俺が何かした様に見えるか?手出しをした訳じゃないし…さっき会った場所から直ぐ着く場所をわざわざ歩き回ったから彼等も疲れたんだろ?なぁ?」
俺は詰め寄るローザに嫌みを言いつつ護衛の男達に笑顔で声を掛ける、彼等もバカじゃない…実力差は明白な俺と雇い主のローザ、どちらにも逆らえない、プロだね…二人とも震えながら立ったまま気を失ったよ。
「なっ!い、一体…貴方…何を…ま、魔法…いえ…発動を感じなかった…そんな情報も…」
護衛の哀れな姿に驚き後ずさるローザ…俺を見る目が困惑と恐怖に変わる。
「人の家の前で何を騒いでいるのかしら?ってあら、ローザじゃないの…どうかしたの?」
会議の場所だと言った家の中からは少し幼い見た目は10代後半か20代前半の女性。
シルバーのショートカットに丸顔、クリクリした目が何故かビー玉の様に見える。
小柄で身長は150cm位か?ドワーフでは無いが…人族と何かのハーフと聞いている。
胸はかなり大きそうだがダボダボのピンクのワンピースを着ているせいか正確には分からない。
彼女が西のスラムボス・ヒリアスか…。
「初めまして。俺は新しく北のスラムのボスになったイズルと言います宜しく。ローザさんとは直ぐそこで会って場所が分からなかったので連れてきて貰いました」
俺は軽く頭を下げながらローザが何かを言う前に自己紹介をする。
ヒリアスは気を失っているローザの護衛を一瞥すると口元を吊り上げ笑みを見せながらローザをみる。
「ローザったらお金も貰わずに案内する何て勿体無い…今度からはちゃんとお金を貰わないとね?さぁ、バグドはもう来てるわよ?中に入って…」
ヒリアスは俺に目を向けながら軽く顎をシャクると入れとばかりに言う、どうやら歓迎はされて無いみたいだな?
中に入ると意外と広いが何も置いてない。
部屋の真ん中にテーブルがあり椅子が四つ、それだけだ。
「何だソイツは?今日は北のスラムをどうするかって話じゃ無かったのか?」
中に入れば一際大きな大男がいた。
ガダリオンも大きかったが、この男は更に大きい、俺を見つけた男、恐らくはこいつが西のスラムボス・バグドだな。
バグドは椅子から立ち上がると俺に近付いてくる。
身の丈は3m近いな、全身が筋肉の鎧の様になっている、片足の太さだけで俺の腰より太いんじゃないのか?
短パンに革のベストの様な物を着ているだけの出で立ち、元の世界なら変態だな。
しかし短パンとベストに隠れている部分以外は切りきずや獣の爪の痕など無数にある。
歴戦と言うべきか?
ハゲ頭に厳つい顔が更に見た目の怖さを引き立てている。
俺がバグドの見た目を観察しているとバグドは俺の目の前まで来て徐に拳を振り上げ殴り掛かってきた。
ドゴン!
遅い拳だから躱すのは簡単だが威力が半端無い。
バグドの拳は自分の肘まで地面に突き刺さる。
しかし顔は平然としていて何も無かったかの様にバコンッと音を立てて拳を引き抜くと再び拳を振り上げ俺を狙う。
「ちょ、ちょっとバグド!私の家なんだから壊すのは止めてよね?請求書は後から送るからね!」
俺以上にヒリアスが叫ぶ様に言う、その言葉を聞いてバグドが止まりヒリアスを見ながら顔が引き攣る。
「しかしヒリアス…部外者が居るからには排除せねばならんだろ?」
地の底から響く様な声で抗議にも似た言葉をはくバグドが再び俺をみる。
「自己紹介の前に攻撃されたからな…俺は新しく北のスラムのボスをする事になったイズルだ、宜しく」
俺は簡単に自己紹介をするがバグドは拳をあげたまま俺を睨んでいる。
「俺はボスが交代したとは聞いていないし、認めない…だからお前は北のスラムボスでも無いし、部外者だ!」
バグドは再び俺になぐり書き掛かる。
困ったものだ…こんな鈍い拳を当たる訳が…そう思っていた矢先にバグドの拳が消えた…俺はヤバいと思った瞬間に横に飛ぶ。
同時に俺の居た場所に再びバグドの拳が肘まで突き刺さる。
どうやら一度目は見せ掛け…二度目に確実に当てに行くやり方の様だ。
バグドは俺を睨み見ながら再び拳を抜く、俺は飛び避けた拍子に体制を崩し転んだ…その間を見てかナイフが飛んで来る。
俺は転んだままの体勢で剣を抜きナイフを弾くが今度は抜いた剣の柄に鞭が巻き付く。
どうやら、三人掛かりで俺を殺すつもりらしい。
バグドの後ろを見ればナイフを構えるヒリアスと鞭を引っ張るローザが見える。
バグドが再び俺に近付く貯めに歩いて来る。
俺が動けばナイフが飛ぶか鞭が動くか。
剣を抑えられているからナイフは弾けない。
逃げなければバグドの拳の餌食、逃げ場は何処にも無い…普通なら…俺は無詠唱で魔法を発動する、簡単なファイヤー・ボールだ…但し、並列思考で同時に十個程のファイヤー・ボールを浮かべる。
三人とも固まった…例えば、魔法が一つ詠唱する間にならバグドが何とかするだろう…それともヒリアスかローザがナイフを投げるか鞭を引っ張り詠唱の邪魔をする、其だけで普通は何とかなるものだ。
しかし俺は無詠唱でファイヤー・ボールを出した。
しかも十個…無詠唱なら一つ出すのでも大変、二つなら天才、3つなら天性とまで言われる…なら十個は?奇跡かそれ以上の何かだ。
「あぁ~あ、やってられないよ…ムリムリ…こんな化け物相手に出来るわけ無いでしょ?」
いち早く状況を察したのか、ヒリアスが手に持っていたナイフを床に落とす様に投げ出しながら両手を上げて降参する。
それを見て鞭から手を離すローザと床に膝を付くバグド、バグドの顔色は蒼白だ。
まぁ、目の前にはファイヤー・ボールが浮いてるのだから仕方無い、一般人でなら一個で脅威、強者でも3つあれば危険、それが十個…しかも躱せない近距離、バグドにとっては死に等しい。
余談だが普通、魔法は使えば発動と効果を発揮する。
ファイヤー・ボールも類に漏れず使えば敵に飛ぶが俺のファイヤー・ボールは浮いている。
答えはウィンド・スパイラルを使い方ファイヤー・ボールを固定しているからだ。
お陰で十個しか出せない。
このままバグド達が襲ってくるならウィンド・スパイラルを止めてウィンド・カッターを使ってファイヤー・ボールを押し出すだけだ。
まぁ、並列思考と無詠唱があるから出来る荒業だな。
「実力差が分かった見たいで助かるが、この状況の説明と落し前は付けてくれるよな?」
俺は腕から鞭を外すとファイヤー・ボールを相殺するウォーター・ボールを出してぶつけると辺りが水蒸気に包まれファイヤー・ボールが消えると同時に言う。
三人とも更に恐怖に顔が引き攣って無言で首を縦に振っていた。
さて、気を取り直してお互いに椅子に座る…要約すると今回の事は上からの指示らしい…つまり四人の更に上にいる正体不明の誰かさんだ…。
そしてガダリオンを殺した犯人も誰かさんからの刺客らしい。
犯人探しは振り出しだがスラムボスを揃えて話をする手間が省けたのは良かった。
まぁ、三人とも顔面蒼白で俯いたままだが…。
「大体のあらましは分かった…なら今回の落し前をどうつけるかだが…女二人には娼婦落ちして貰って、男には鉱山奴隷にでもなって貰うか?」
俺は悪い笑みを見せながら三人に言う、三人とも勢い良く顔を上げると絶望に染まった顔をしていた。
「ちょ、ちょっと…待って…そ、それは…い、嫌…よ…わ、私…知らない男に体を…」
「わ、私だって…嫌よ!まだ誰とも…あっ!」
「お、俺は…殺され無いだけ…マシか…」
三者三様だな…まぁ、特に女達は嫌だろうな…ってローザ、お前、そんな格好して未経験なのかよ?
ヒリアスは頭を抱えて嫌々と振り、バグドはテーブルに額を付けて落ち込んだ、ローザは…自分の体を抱えて震え涙目で唇を噛み締めながら此方を見ている。
「お、お願い…せ、せめて…あ、貴方だけの…奴隷に…な、何でもするから…しょ、娼婦は…」
隣に座っていたローザが椅子から崩れ落ちる様に床に落ちると体を引摺る様に近付き俺のズボンを掴み懇願してくる、最初に見た時の面影は最早無い、そんなローザを俺は見下す様に見ながら足を軽く蹴る様に動かし突き放す。
ローザはよろけ体勢を崩しながら床に横倒れになると顔だけを起こし顔面蒼白の絶望した顔で俺を見ている。
「ね、ねぇ…わ、私…お金なら…い、幾らでもあるから…欲しいものを言ってよ?買って上げるから…だから…わ、私は…ゆ、許して欲しいかな?」
ヒリアスも必死だな、三人とも力では敵わない餓えに逃げる事も出来ない状態で突き付けた内容だから回避するのに必死だ。
「そうだな…確かに欲しい物はあるは…俺では買えないが、もしかしたらお金があれば買えるか?ガダリオンの命?」
俺はヒリアスからの提案を受ける様に考えたフリをしながら徐に言えば、途中までにヒリアスも嬉しそうな顔をしていたが命を買えと言った途端に顎が抜けるかの様な顔をした。
「そ、そんなの…む、無理よ!人の命が買える訳無いでしょ!ほ、他に…他にない?宝石とか…女がとか…わ、私でも良いのよ?」
ヒリアスも必死だ、買えないと分かっている事を提示した時点で交渉するつもりが無いのは分かるからな…終いには自分まで提示してきた。
「悪いが宝石なんか要らないし、女は間に合ってる…可愛くて素直な子がいるんでね?」
ヒリアスも見た目は悪くないがイメージが悪い、何よりルナやルルがいるのにと考えると自分でも何故にあの二人の顔が思い出すのかと思わず首を振ってしまった。
「俺は…鉱山で一生を終えるのか?」
テーブルから顔を上げたバグドが真顔で俺を見ながら言う、力こそ全てと考えている男だけに敵わない相手には服従するみたいな雰囲気を出して来る。
「そうだな?まぁ、俺からの頼みを聞いてくれるなら今の話は無かった事にしてやっても良いぜ?」
俺の言葉に三人が反応する、藁にも縋る思いだろう。
まぁ、予定とは随分違う行動だったが結果は変わらない。
「何、簡単な事だ…此から四つのスラムを改善したい…主に仕事に付いてまともな暮らしが出来る様なする事だ…勿論、本人が望むなら娼婦だって俺は構わないが、あくまでも本人が望むなら…っだ?」
俺はスラム改善計画の話をする、最初は北のスラムからと考えていたが良い機会だ…一気に変えてしまおう。
そう考えながら話をする。
「む、無理よ…何より私達を受け入れてくれる所が無いし…仕事をしたくない奴等もいるのよ…何より、上が何て言うか…」
やはり、問題は更にいる上と元々からやる気の無い奴等か…やる気の無い奴等は後で考えるとして…。
「その上の奴等は…名前とか顔は?」
さっきから気になるのは名前を聞かない…どうなっている?
そして三人の浮かない顔…まさか…
「あの人は何時も伝言を伝える代理人が来るだけで一度も会った事がないですよ…」
「俺もだ…見たことも無い…」
「私も~何時も指示ばかり…お金はくれるけどね?」
上からローザ、バグド、ヒリアスだ…三人とも会った事がない?なら何故、そんな奴に従う…っと思ったら理由は簡単だった。
「けど、お金はくれるし、困った事があれば誰か人を出してくれるし…」
「同じく…」
「おっ金!おっ金!」
概ね三人とも同じ理由か…ヒリアスだけはお金にしか反応していないな…
「あっ!そう言えば…あの人は何処で見ているのか、私達が何をしていても何処かで見ているのかの様に指示を出したりサポートしてくれるわ?もしかしたら…今の状態も…だとしたら…イズル…貴方のお仲間が危ないかも?」
ンゥ?あぁ、なるほどな…確かに…この三人がその男から離れたら打撃は大きいだろうな…そして今現状では俺をどうにか出来ない…なら、どうするか?
観察が上手い奴なら直ぐに分かる…俺以外の弱い奴を…俺の弱点になる奴を利用すれば良いってな…。
「あぁ、ローザ…心配してくれるのか?ありがとう…だが、大丈夫だ…俺に敵対した奴がどうなるか、見ておけ」
心配そうに見ていたローザを前に俺は再び笑みを見せる。
それと同時にヒリアスの家に誰かが入ってきた…
「「「あ、あんたは…!(お、お前は…!)」」」
入ってきた人物を見て三人が驚いた…
イズル(神田川 出流)
ステータス
種族:人間
性別:男
職業:新米薬師(ポーション特化)
冒険者ランク:G
名前:イズル
年齢:19才
Lv. 15(177/3500)
HP 1230/1230(1845/1845)
MP 3250/3400 (5100/5100)
ATK 820(1230)
DEF 420(630)
AGI 1210 (1815)
DEX 825 (1238)
MIND 22243(33365)
LUK 1852(2778)
〈スキル〉
鑑定Lv.MAX(能力限定/鉱物及び植物)
異世界言語翻訳
アカシック・ライブラリー(鉱物及び植物のみ)
詠唱破棄
魔力付与Lv.1
魔法付与Lv.1
魔法効果短縮Lv.3
魔力消費軽減Lv4
並列思考Lv.3
スキャンLv.2
アイテム・ボックスLv.2
〈魔法〉
風魔法Lv.3(ウィンド・カッター)
(ウィンド・ウォール)
(ウィンド・スパイラル)
火魔法Lv.2(ファイヤー・ボール)
(ファイヤー・ウォール)
水魔法Lv.2(ウォーター・ボール)
(ウォーター・ウォール)
土魔法Lv.1(クリエイト・シェイプ)
光魔法Lv.1(ライトアップ)
〈称号〉
願望者
黄泉姫の加護
皐月の加護
〈エクストラ・スキル〉
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